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売買事例 1112-B-0143掲載日:2011年12月
分譲後20年経った建売住宅の解体に伴う土地の瑕疵担保責任
20年前に分譲された建売住宅の売却仲介をしたが、買主が建物を解体したところ、地中に従前の建物の残材と思われるガラが混入されていた。これは「瑕疵」か。「瑕疵」とした場合、売主は買主に対し瑕疵担保責任を負わなければならないか。売主が瑕疵担保責任を負わなければならないとした場合、売主は、20年前の建売業者に対し瑕疵担保責任を追及することができるか。
事実関係
当社は媒介業者であるが、このたび分譲から20年が経過した旧建売住宅の売買の媒介をした。ところが、買主がその建売住宅を解体し、新たな建物を建てるための基礎工事を行っていたところ、地中から、建物の残材と思われるガラが発見された。そのため、買主は、建築業者にその原因を調べてもらったところ、20年前の建売業者が、建売住宅を建てる際に、従前の建物を解体し、そのときの残材を地中に埋めたものと、関係者の話で判った。
なお、当時の建売住宅の瑕疵担保責任の期間は引渡しから2年なので、すでに期間を満了しているが、今回の売買については引渡しから1年となっているため、まだ売主の瑕疵担保責任の期間は満了していない。
質問
- この地中のガラを搬出し、新たに地盤を整備するための費用は約100万円程度かかるとのことであるが、これは「瑕疵」といえるか。
- もし「瑕疵」といえるとした場合、このような20年前に他人(建売業者)が混入した瑕疵についても、今回の売主は、買主に対し瑕疵担保責任を負うことになるのか。
- 今回の売主が、買主から瑕疵担保責任を追及された場合、売主は、20年前の建売業者に対し瑕疵担保責任を追及することができるか。
- このような場合、媒介業者としては、どのように対応したらよいか。
回答
1. 結論 | |||||
⑴ | 質問1.について ― どのようなガラが混入しているのかによって、微妙ではあるが、新たな建築工事に支障が出るようであれば(つまり、そのために追加費用が発生するということであれば)、「瑕疵」といえるであろう。 | ||||
⑵ | 質問2.について ― 瑕疵担保責任を負うことになる。 | ||||
⑶ | 質問3.について ― 20年前の売主(建売業者)に対し瑕疵担保責任を追及することは、時効との関係で難しい面がある(後記【参照判例①】参照)。ただ、本件の場合に、売主が残材を埋めたという事実を知っているということを立証できれば、売主の時効の援用が信義則に反するのではないかという考え方から、損害賠償請求は必ずしも不可能ではないとも考えられるが、その場合においても、本件程度の損害ではその態様として売主の信義則違反が認められる可能性は少ないであろうし、仮に売主の不法行為責任を追及するにしても、20年という期間の経過については、民法第724条後段の不法行為による損害賠償請求権の「除斥期間」(注)との関係で、その責任追及を難しいものにしよう(後記【参照判例②】参照)。
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⑷ | 質問4.について ― 一般論としては、瑕疵担保責任の問題は基本的には売主と買主の問題であり、媒介業者の問題ではない。したがって、媒介業者としては、今回の問題についてみずからの注意義務違反でもない限り、アドバイス程度にとどめ、その対応については当事者の判断に委ねるべきである。 なお、本件の場合にできるアドバイスとしては、被害額が100万円程度のものなので、その負担について、時間と費用のかかる裁判で決着をつけるなどということはやめて、できるだけ話し合いで決着をつけるようにアドバイスすべきであろう。 |
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2. 理由 | |||||
⑴について | |||||
一般的には、地中に混入しているガラが木材のようなもので、自然に土に戻るようなものであれば、そのまま埋めておくという方法もあろうが、その量が大量であったり、コンクリート片とか、容易に土に戻すことができないようなものが混入しており、工事に支障が出るような場合には、その量と除去費用との関係で、「瑕疵」であるか否かが判断されることになると考えられる。 本件の場合は、その除去費用等に100万円程度かかるとのことであるが、それが買主にとって、追加費用というかたちで発生するのであれば、「瑕疵」ということになろう。 |
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⑵について | |||||
売主の瑕疵担保責任は「無過失責任」であるから、今回の売主に過失がなくても、売主には買主に対する責任が発生する(民法第570条、第566条)。その瑕疵が、20年前の建売業者が混入したものであっても、同様である。 | |||||
⑶について | |||||
今回の売主は、前記のとおり、買主に対し無過失責任を負うことになるが、他方今回の売主も20年前には買主であったので、その当時の売主(建売業者)に対し瑕疵担保責任を追及することができる。 しかし、その場合に最初に問題になるのは、瑕疵担保責任についての期間の定め(特約)の存在である。確かに、売主の瑕疵担保責任に関する期間の特約はそれなりに有効ではあるが、この点については、売主が瑕疵のあることを知りながら買主に告げなかった場合には、売主はその責任を免れることができないとされているので(民法第572条)、もし当時の売主(建売業者)が、残材を地中に埋めたことを知っていたり、その埋設をみずから指示していたことを証明することができれば、買主である今回の売主は、建売業者に対し瑕疵担保責任を追及することができるといえる。 その場合に、次に問題になるのは、後記【参照判例①】にあるように、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権が10年の消滅時効にかかるということである。この点については、その時効の壁を突破するには、その時効を援用する建売業者の故意(瑕疵の存在を知りながら、売却したという事実)を立証し、信義則上、その時効の援用が権利の濫用にあたり許されないということを主張し、その主張が認められるということが必要であるが、権利の濫用にあたるかどうかの判断は、当時の状況を総合的に判断して行うことになるので、現時点でそれを行うことはかなり難しいものになる。しかし、いずれにしても、20年という期間の経過と、買主が結果的に被った損害が約100万円程度のものであることを考慮すると、現時点で売主(建売業者)に信義則違反があると認められる可能性はかなり低いと考えられる。 |
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⑷について | |||||
(略) |
参照条文
○ | 民法第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任) | |
① | 売買の目的が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。 | |
② | (略) | |
③ | 前2項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。 | |
○ | 民法第570条(売主の瑕疵担保責任) | |
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。 | ||
○ | 民法第572条(担保責任を負わない旨の特約) | |
売主は、第560条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることはできない。 | ||
○ | 民法第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限) | |
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。 |
参照判例①
○ | 最判平成13年11月27日民集55巻6号1311頁 | |
瑕疵担保による損害賠償請求権は、売買契約に基づき法律上生ずる金銭支払請求権であり、民法167条1項にいう「債権」に当たるものであり、また、買主が瑕疵に気付かない限り右請求権が永久に存続するものと解することは、売主に過大な負担となって妥当でない。したがって、瑕疵担保による損害賠償請求権には消滅時効の規定の適用があり、この消滅時効は買主が売買の目的物の引渡しを受けた時から進行する。 |
参照判例②
○ | 最判平成元年12月21日民集43巻12号2209頁 | |
民法724条後段の規定については、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図する同条の趣旨からすれば、右規定は、不法行為によって発生した損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと解するのが相当であるから、裁判所は、損害賠償請求権が除斥期間の経過により消滅した旨の主張がなくても、期間の経過により請求権が消滅したものと判断すべきであり、信義則違反又は権利濫用の主張は、主張自体が失当である。 |
監修者のコメント
本ケースの「ガラ」が隠れた瑕疵に該当するとした場合、今回の売主は瑕疵担保責任を負わざるを得ない。しかし、自らへの売主である20年前の建売分譲業者に対する瑕疵担保責任の追及は、かなり困難と思われる。回答のとおり、「引渡しから10年」の経過により、瑕疵担保責任による損害賠償請求権は消滅時効にかかっているが、その売主の時効の援用が権利の濫用であることの立証は、かなり困難だからである。その際、今回の売主は、20年間にわたって全く問題なくその土地を利用してきたという事実も大きな考慮要素になると思われる。