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ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
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また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2601-R-0295
賃借人の不注意による火災発生の責任如何。

アパートの賃借人の妻が、調理中にキッチンの火災を引き起こした。賃貸人は、建物の毀損は賃借人の不注意によるものであるから、毀損部分修復の損害賠償請求と即時の契約解除を要求したいと考えている。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者である。3年前にアパートの1室の賃貸借契約により入居した賃借人の妻が火災を発生させた。火災は、夕方に食事の用意のために妻がキッチンで揚げ物を調理していたところ、てんぷら鍋から目を離した隙にガスの炎が鍋に引火したものである。被害はガスコンロ周りとキッチン壁の一部である。妻は、小型消火器で消し止め、大事には至らず損傷の程度はそれほど酷くなく、内装工事をすれば修復可能である。
 賃貸人は、20年近くアパートを賃貸しているが今まで他の部屋も含めて賃借人が引き起こした火災は初めてで、賃借人の妻の不注意は明らかであり、このような事故を起こした賃借人には退去してもらいたいと考えている。

質 問

 1. 賃貸人は、キッチン内の火災による損傷の修復工事費用について、賃借人に対して損害賠償を請求することができるか。
 2. 火災を発生させた賃借人に対し、即時の契約解除を申入れることができるか。

回 答

1. 結 論
質問1.について ― 不法行為による損害賠償責任を問うことは難しいが、賃借人の妻(履行補助者)の善管注意義務違反を理由に債務不履行による損害賠償責任を問うことができると考える。
質問2.について ― 火災発生は、故意や重大な過失によるものではなく。被害も容易に修繕可能であることから、即時解除は難しいと解する。
2. 理 由
 ⑴について

 賃借人に起因する賃貸物の火災発生が報じられることがある。原因は、相談ケースのような調理中の火災、たばこの不始末、ストーブ火災、配線器具等の不注意や過失によるものが多いようだ。
 民法では、故意または過失によって他人の権利等を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する不法行為責任を負う(同法第709条)と規定している。過失による失火も不法行為に該当しそうであるが、失火の場合は、「失火責任法」が適用され、失火者に重大な過失が認められない限り、不法行為の規定は適用されず、不法行為を理由とする損害賠償責任を負うことはない。これは、木造家屋の多い我が国では火災による被害が拡大しやすいことを考慮したものである。質問の事例では、てんぷら鍋から目を離した隙にガスの炎が鍋に引火したとのことであり、目を離したのがごく短時間であれば、重大な過失は認められにくいであろう(なお、てんぷら鍋を点火したガスコンロにかけたまま炊事場を15分離れて火災が発生した事案では、重大な過失を認めた裁判例がある(東京地裁昭和57年3月29日))。
 ただし、失火責任法は、不法行為には適用されるが、債務不履行には適用されない(最高裁昭和30年3月25日)。賃借人は、賃貸借契約に基づき、賃貸人に対して、賃借物を善良な管理者の注意をもって保存しなければならないという善管注意義務を負っている(民法第400条)、賃借人の善管注意義務は、賃貸借契約における賃借人の借賃の支払い同様に債務であり、賃借人が善管注意義務に違反したときは、賃貸人は賃借人に対して債務不履行責任を問うことが可能であり、賃借人の軽過失により生じた火災の損害賠償を請求することができる(同法第415条)。

⑵について

    前記のとおり、賃借人が賃借物を賃借人の責めにより失火し毀損させることは、賃借人の善管注意義務違反による債務不履行に当たるが、賃貸人が契約解除を申し入れることができるかに関し、「賃借人がその責めに帰すべき失火によって賃借にかかる建物に火災を発生させ、これを焼燬(注)することは賃貸人に対する賃借物保管義務の重大な違反行為にほかならない。したがって、過失の態様及び焼燬の程度が極めて軽微である等特段の事情のないかぎり、その責めに帰すべき事由により火災を発生せしめたこと自体によって賃貸借契約の基礎をなす賃貸人と賃借人との間の信頼関係に破綻を生ぜしめるにいたる」(【参照判例①】参照)と判示して、原則として解除が認められるとする最高裁判決がある。
    質問の事例では、火災発生が故意や重大な過失によるものではなく、被害も容易に修繕可能な程度の極めて軽微なものであるから、契約解除までは難しいと思われるが、例外的な事案と考えるべきである。
    さらに、契約解除は、賃貸人が賃借人に対しての催告をした上で解除するのが原則であるが(民法第541条)、上記最高裁判決は、「このような場合、賃貸人が賃貸借契約を解除しようとするに際し、その前提として催告を必要であるとするのは事柄の性質上相当でなく、焼燬の程度が大で原状回復が困難であるときには無意味でさえあるから、賃貸人は催告を経ることなく契約を解除することができる」(【参照判例①】参照)と判示し、無催告解除を認容している(同法第542条)。
    典型的な裁判例として、「飲食店の法人(ラーメン店、中華料理店)は大きな火力を使うのが一般的で、注意義務の程度が一般家庭における火の始末と同程度のもので足りるとは到底解されないとして、火災による信頼関係の破壊を認め、賃貸借契約の無催告解除を認容したものがある(【参照判例②】参照)。
    なお、火災により賃借物件が全焼または使用収益ができなくなった場合は、賃貸借契約は終了することになる(同法第606条の2)。
    賃借物の火災は起こりうることであり、媒介業者が賃貸借の媒介をする場合、居住用及び店舗の別なく、賃借人に対し保険の加入を薦めるべきであろう。賃貸借契約に保険の加入を条件にしているものが多い。加入する保険は、加入者の家財のみならず借家人賠償責任、個人賠償責任保険特約も必要であり、媒介業者は、損害保険知識を熟知しておくことが望ましいであろう。

※(注)焼燬(しょうき):焼けて滅すること。現在は、焼損と表記することが一般的。

参照条文①

 民法第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
 同法第415条(債務不履行による損害賠償)
① 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
② (略)
 同法第541条(催告による解除)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
 同法第542条(催告によらない解除)
① 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 (略)
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
② (略)
 同法第601条(賃貸借)
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)
賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 失火の責任に関する法律(失火責任法)
民法第709条の規定は失火の場合にはこれを適用せず。但し失火者に重大なる過失ありたるときはこの限りにあらず。

参照判例①

 最高裁昭和47年2月18日 判タ275号203頁(要旨)
賃借人がその責に帰すべき失火によって賃借にかかる建物に火災を発生させ、これを焼燬することは賃貸人に対する賃借物保管義務の重大な違反行為にほかならない。したがつて、過失の態様および焼燬の程度が極めて軽微である等特段の事情のないかぎり、その責に帰すべき事由により火災を発生せしめたこと自体によって賃貸借契約の基礎をなす賃貸人と賃借人との間の信頼関係に破綻を生ぜしめるにいたるものというべく、しかして、このような場合、賃貸人が賃貸借契約を解除しようとするに際し、その前提として催告を必要であるとするのは事柄の性質上相当でなく、焼燬の程度が大で原状回復が困難であるときには無意味でさえあるから、賃貸人は催告を経ることなく契約を解除することができるものと解すべきである

参照判例②

 東京地裁平成26年10月20日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
賃借人は、飲食店を経営する法人であり、しかも、ラーメン店や中華料理店は、飲食店の中でも大きな火力を使うのが一般的であるから、その営業に関して火災を発生させ他人の生命・身体・財産を侵害することのないよう最大限の注意を払うことが要求されるというべきであり、その注意義務の程度が一般家庭における火の始末と同程度のもので足りるとは到底解されない。(中略)
賃借人は、大型ガスコンロと壁との間隔を十分取るか、それができない場合には、点火時間の短縮を図ったり、壁との間に防熱板を設置するなどして、伝導過熱が生じにくい環境を作らなければならなかったというべきであり、これを怠ったことにより生じた本件火災は、賃借人の責めに帰すべき事由によって発生したものと認められ、その過失の程度も決して軽微なものとはいえない。(中略)
本件火災については、過失の態様および焼損の程度が極めて軽微である等の特段の事情は認められないから、賃借人がその責に帰すべき事由により火災を発生させたこと自体によって、本件賃貸借契約の基礎をなす賃貸人との間の信頼関係に破綻を生じさせるに至ったというべきである。(中略)
賃貸人は、この解除権を行使するに当たり、特段催告をしていないが、上記のような賃借人の義務違反の内容及び程度に鑑みると、無催告解除も許容されるというべきである。

監修者のコメント

 解説では、質問の事例を前提に、天ぷら鍋の火災につき重大な過失までは認めにくい、過失の態様および焼燬の程度が極めて軽微であり解除までは認められない、との認定をしていますが、物件の状況や事実経過についてより詳細かつ具体的な事情が明らかになれば、類似事案でも異なる認定がなされる可能性もありますので、注意を要します。
なお、賃貸物件の賃借人の落ち度による火災については、隣室住人や隣家に対する損害賠償責任が問題になることもあります。これらの人たちと賃借人との間には契約関係がありませんので、債務不履行ではなく不法行為が問題となるにすぎないことから、失火責任法が適用され、賃借人は重大な過失がある場合に限り責任を負うことになります。

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