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2509-B-0348
マンションの専用使用権部分の修繕義務者

マンションの買主が費用負担して、汚れのあったバルコニーの手すりガラスの交換工事を行った。工事後、買主は、バルコニーは共用部分であり、修繕負担者は管理組合であるとして支払った工事費を管理組合に求めている。

事実関係

 当社は、不動産の媒介業者である。当社の媒介で既存マンションを購入した買主が、南側のバルコニーに設置されている手すりにはめ込められている透明ガラスに複数のしみのような汚れがあり、清掃等では除去できないため、自らが工事業者に依頼し取替えたという。購入したマンションは10階で眺望がよいが、バルコニーガラスの汚れで景色が損なわれていたという。分譲時の分譲会社の説明ではバルコニーの透明度が強調され、眺望良好としていたとされる。バルコニーガラスを含めたバルコニー部分は、専用使用権のある共用部分であり、買主は、管理組合に汚れの除去や手すりガラスの取替えの修繕工事を要求したが、管理規約の規定により、管理組合から修繕を拒否された。管理規約には、専用使用権のある共用部分の通常の使用に伴うものは、原則として専用使用権を有する区分所有者がその責任と負担において修繕を行わなければならないと定めている。
 しかし、買主は、専用使用権があっても、バルコニー等の専用使用部分は共用部分であり、共用部分に不具合が発生した場合は、管理組合が修繕義務を負うはずだと主張している。買主は、管理組合が義務を履行しないのは、不法行為または債務不履行に該当し、買主が負担した工事費用及び諸費用を損害賠償として管理組合に請求する訴えを提起したいと考えている。

質 問

 区分所有マンションにおける専用使用権のある共用部分の不具合の修繕義務者は誰か。

回 答

1.  結 論
 本件マンションの管理規約では、専用使用権のある共用部分の不具合については、不具合の発生原因や程度、修繕に要する費用等により修繕義務者は異なるが、原則として、通常の使用に伴う不具合については専用使用権者が修繕義務を負うことになる。なお、管理組合の決議で管理組合負担とすることは妨げられない。
2.  理 由
  区分マンションにおける建物の所有関係は、区分所有者の専有部分を除き、原則として全区分所有者の共有する共用部分となる(建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第2条第4号、同法第4条、同法第11条)。共用部分の専用使用権については、同法には定義が明示されていないが、国交省公表のマンション標準管理規約に「専用使用権は、敷地及び共用部分等の一部について、特定の区分所有者が排他的に使用できる権利をいう」と定義されている(同標準管理規約第2条第8号)。特定の区分所有者が、共用部分の一部を独占(専用)的に使用できる権利のことである。区分マンションの代表的な専用使用部分に、専用庭や駐車場、駐輪場、バイク置場、トランクルーム等があげられる。その他、専有部分に付属したベランダと手すり、玄関扉、窓枠、窓ガラスやサッシ、網戸等も専用使用部分であり、専用使用権の対象になるものは、通常、マンション管理規約に記載されている(同標準管理規約 別表第4他)。なお、専用使用部分の使用に関し、専用庭、駐車場等については専用使用権者が管理組合に使用料を支払うのが一般的である(同標準管理規約第14条、同15条)。また、専用使用部分は、その対象が敷地又は共用部分等の一部であり、それぞれ通常の用法に従って使用すべきと規定されており、使用細則等でベランダや専用庭への工作物設置禁止等について場所ごとに定めることとしている(同標準管理規約コメント・第14条関係)。
  共用部分の管理は、原則として管理組合がその責任と負担で行うが、専用使用部分の管理のうち、「通常の使用に伴うもの」については、専用使用権を有するものがその責任と負担で行うものとされている(同標準管理規約第21条)。一方で、共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するものについては、管理組合がその責任と負担において、計画修繕としてこれを実施するものとされている(同標準管理規約第22条)。
  相談ケースのベランダの手すりガラスの汚れ除去や交換工事が、管理組合負担なのか、専用使用権者の「通常の使用に伴うもの」に該当し、専用使用権者の負担となるのかは、事案によって判断が分かれる。上記標準管理規約と同様の規約のある区分マンションにおいて、専用使用権者が、共用部分の不具合の修繕工事をしないのは管理組合の不法行為(民法第709条)であるとして損害賠償を請求をした裁判において、「本件不具合を修補するには、バルコニーガラスの交換を要し、少なくとも●●万円の費用を要することが認められる。そうすると、管理組合に自己の費用負担において本件不具合の修補をする義務を負わせることは、本件不具合によって受ける買主の不利益の程度に比して管理組合(その構成員である本件マンションの各区分所有者)に過分の経済的負担を強いることになるものといわざるを得ないから、管理組合に上記義務があるということはできない」と専用使用権者と管理組合との経済的負担を比較衡量し、管理組合の不法行為を否定し、買主の費用請求を認めなかったものがある(【参照判例①】参照)。
  また、共用部分の専用使用権のある部屋のベランダ出入り部分のガラス並びにサッシの戸車及びクレセントの不具合の修繕工事費を専用使用権者である区分所有者が負担し、その費用を管理組合の不当利得(同法第703条)として返還請求した裁判では、「専用使用権者以外の者が日常的に使用するものとは認められず、また、日常的な使用に伴い(これら住居を構成する部分は、そこに存在するだけで使用されているものと観念することができる。)、必然的に劣化していくものと考えられるのであるから、これらの部分の劣化は、専用使用権者の通常の使用に伴うものと認められる。これらの部分が年数を経ることによって劣化していくのは、専用使用権者の通常の使用を前提とするものといわざるを得ない」として、当該専用使用部分の劣化は通常の使用に伴うものであり、専用使用権者の管理組合に対する不当利得(同法第703条)による費用の返還請求を退けた。なお、「通常の使用に伴う管理であっても、これを管理組合の負担で行うことにつき管理組合の決議があれば、これを管理組合の費用で行うことができる」としている。(【参照判例②】参照)
  媒介業者は、区分所有物件を媒介する際、管理規約や使用細則等を十分説明することはもとより、専用使用部分の管理について誤解を与えないよう買主に理解させることが大事である。

参照条文

民法第703条(不当利得の返還義務)
   法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第2条(定義)
   ① この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第4条第2項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。

② この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。
③ この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。
④ この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第4条第2項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。
⑤・⑥ (略)
 同法律(同法)第4条(共用部分)
  ① 数個の専有部分に通ずる廊下又は階段室その他構造上区分所有者の全員又はその一部の共用に供されるべき建物の部分は、区分所有権の目的とならないものとする。

② 第1条に規定する建物の部分及び附属の建物は、規約により共用部分とすることができる。この場合には、その旨の登記をしなければ、これをもつて第三者に対抗することができない。
 同法律(同法)第11条(共用部分の共有関係)
   ① 共用部分は、区分所有者全員の共有に属する。ただし、一部共用部分は、これを共用すべき区分所有者の共有に属する。

② 前項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。ただし、第27条第1項の場合を除いて、区分所有者以外の者を共用部分の所有者と定めることはできない。
 同法律(同法)第13条(共用部分の使用)
  各共有者は、共用部分をその用方に従って使用することができる。
(国土交通省)マンション標準管理規約(単棟型)第2条(定義)
この規約において、次に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一~七 (略)
八 専用使用権 敷地及び共用部分等の一部について、特定の区分所有者が排他的に使用できる権利をいう。
九 専用使用部分 専用使用権の対象となっている敷地及び共用部分等の部分をいう。
十・十一 (略)
 同標準管理規約第14条(バルコニー等の専用使用権)
  ① 区分所有者は、別表第4に掲げるバルコニー、玄関扉、窓枠、窓ガ ラス、1階に面する庭及び屋上テラス(以下この条、第21条第1項及び別表第4において「バルコニー等」という。)について、同表に掲げるとおり、専用使用権を有することを承認する。

② 1階に面する庭について専用使用権を有している者は、別に定めるところにより、管理組合に専用使用料を納入しなければならない。
③ 区分所有者から専有部分の貸与を受けた者は、その区分所有者が専用使用権を有しているバルコニー等を使用することができる。
 同標準管理規約第15条(駐車場の使用)
   ① 管理組合は、別添の図に示す駐車場について、特定の区分所有者に駐車場使用契約により使用させることができる。

② 前項により駐車場を使用している者は、別に定めるところにより、管理組合に駐車場使用料を納入しなければならない。 
③ 区分所有者がその所有する専有部分を、他の区分所有者又は第三者に譲渡又は貸与したときは、その区分所有者の駐車場使用契約は効力を失う。
 同標準管理規約第21条(敷地及び共用部分等の管理)
   ① 敷地及び共用部分等の管理については、管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。ただし、バルコニー等の保存行為(区分 所有法第18条第1項ただし書の「保存行為」をいう。以下同じ。)のうち、通常の使用に伴うものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担においてこれを行わなければならない。

②~⑥ (略)
 同標準管理規約第22条(窓ガラス等の改良)
  ① 共用部分のうち各住戸に附属する窓枠、窓ガラス、玄関扉その他の開口部に係る改良工事であって、防犯、防音又は断熱等の住宅の性能の向上等に資するものについては、管理組合がその責任と負担において、計画 修繕としてこれを実施するものとする。

 ②・③ (略)
 同標準管理規約コメント・第14条関係
  ① バルコニー等については、専有部分と一体として取り扱うのが妥当であるため、専用使用権について定めたものである。

② 専用使用権は、その対象が敷地又は共用部分等の一部であることから それぞれの通常の用法に従って使用すべきこと、管理のために必要がある範囲内において、他の者の立入りを受けることがある等の制限を伴うものである。また、工作物設置の禁止、外観変更の禁止等は使用細則で物件ごとに言及するものとする。
③ バルコニー及び屋上テラスが全ての住戸に附属しているのではない場合には、別途専用使用料の徴収について規定することもできる。
同標準管理規約<別表第4 バルコニー等の専用使用権
 

参照判例①

 東京地裁平成27年7月17日 判時2279号57頁(要旨)
 管理組合が、その構成員である本件マンションの各区分所有者に対し、本件マンションの管理組合として共用部分を適正に管理する義務を負っているものと解されるとしても、共用部分に存在する不具合の全てについて、その程度等にかかわらず、修補をする義務があるということはできず、不具合の程度や修補のために生ずる管理組合の費用負担の程度等に照らし、合理的と認められる範囲で修補等の対応をする義務があるものというのが相当である。
これを本件不具合についてみると、認定した本件不具合の状態に照らすと、本件不具合は、それによって本件居室からの眺望に若干の影響が生じることは否定できないものの、その程度は限定的なものと認められ、その他本件居室及び本件バルコニーの通常の使用に支障を生じさせる性質のものとは認められない。他方で、前記の認定事実によれば、本件不具合を修補するには、バルコニーガラスの交換を要し、少なくとも●●万円の費用を要することが認められる。そうすると、管理組合に自己の費用負担において本件不具合の修補をする義務を負わせることは、本件不具合によって受ける買主の不利益の程度に比して管理組合(その構成員である本件マンションの各区分所有者)に過分の経済的負担を強いることになるものといわざるを得ないから、管理組合に上記義務があるということはできない。

参照判例②

 仙台高裁平成21年12月24日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
  本件改修工事は、網入磨ガラス並びにサッシの戸車及びクレセント(注)についてされたものである。これらの部分は、専用使用権者以外の者が日常的に使用するものとは認められず、また、日常的な使用に伴い(これら住居を構成する部分は、そこに存在するだけで使用されているものと観念することができる。)、必然的に劣化していくものと考えられるのであるから、これらの部分の劣化は、専用使用権者の通常の使用に伴うものと認められる。区分所有者は、経年劣化等で破損した部分の交換や修繕は管理組合が負担すべきである旨の主張をするが、これらの部分が年数を経ることによって劣化していくのは、専用使用権者の通常の使用を前提とするものといわざるを得ない。したがって、本件改修工事は、通常の使用に伴うものであり、計画的に一斉修繕したり、住宅の性能向上のために一斉交換する場合など通常の使用に伴わないものには該当せず、専用使用権者である区分所有者の負担で行うべきものである。
  もっとも、通常の使用に伴う管理であっても、これを管理組合の負担で行うことにつき管理組合の決議があれば、これを管理組合の費用で行うことができるものと解される。
   (注)クレセント=上げ下げ窓や引き違い窓などの建具に取り付けられる錠金具。

監修者のコメント

 区分マンションにおいて、共用部分は当然に管理組合が修繕義務を負うとか、専用使用部分は当然に専用使用権者が修繕義務を負うとか考えることは誤りである。解説にあるとおり、標準管理規約を使っているマンションでは、専用使用権のある共用部分に不具合がある場合は、それが「通常の使用に伴うもの」かを検討することになる。
区分マンションの売買において、物件に不具合や損傷がある場合に、それが専有部分でないからといって、仲介業者が、管理組合に修繕してもらえる、契約不適合には当たらないと安易な説明をするとトラブルになる。不具合の原因を調査するのと並行して、必ず管理規約を確認し、不具合のある箇所が専有部分か共用部分か専用使用部分か、修繕義務や費用負担の所在はどこか、区分所有者自ら修繕を実施することが可能か否か等を、慎重に調査・説明すべきである。

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<ご注意>
◎ たいへん多くの方からご相談を受け付けており、通話中の場合があります。ご了承ください。
◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

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