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2509-R-0292
賃借した部屋の清掃が不十分であった場合、賃借人は賃貸人に対して損害賠償を請求しうるか。

当社所有の賃貸マンションを賃貸したが、賃借人は、建物内に汚れ等があり、このまま居住するのは耐えられないと言い、十分な清掃や修繕をしないのは賃貸人の債務不履行であり、当社に対し損害賠償請求をすると言っている。

事実関係

 当社は不動産の媒介業者である。売買及び賃貸の媒介を主業務としているが、賃貸マンションを複数保有し、直接賃借人と賃貸借契約を結び賃貸している。築30年のマンションの1室を賃貸借契約した賃借人が家財道具等の搬入をしたところ、室内の清掃が十分でなく汚れが目立つと連絡してきた。当社は、担当者を現地に差し向けて清掃させた。その際、汚れが目立つ照明器具等の撤去を賃借人が求めたため、設備の一部を当社負担で撤去した。また、一部不具合のある設備を当社負担で修繕した。しかし、賃借人は、キッチンの油汚れや木部からの汚水の染みだしによる腐食と異臭があり、他にも室内全般に前賃借人の生活による汚れがあり、室内は不衛生であり、入居し続けるのは苦痛であると言ってきた。物件は、築年数が古く、賃料は周辺の相場より安価に設定している。部屋の状態は、居住するには特段の問題はなく、賃借人とは見解の相違であり、当社としては賃借人の希望通りに、費用をかけて追加の清掃や修繕をすることは考えていない。
 賃借人は、当社に対し、部屋を引き渡す際は賃借人の居住に支障がないように清掃をする義務があると主張し、入居に際して清掃義務を怠ったのは賃貸人の債務不履行であり損害賠償請求の訴訟をも辞さないと言っている。

質 問

 賃貸人は、賃貸物の賃貸に当たり、どの程度の清掃、修繕をする必要があるか。

回 答

1. 結 論
明示的に民泊として転貸できる約定または賃貸人の承諾があれば民泊としての使用は可能であるが、転貸を認める旨の約定のみでは民泊として使用することはできないと考える。賃貸人は、賃借人の使用収益に適した状態、つまり居住に支障がない状態で引き渡せばよいと考える。
2. 理 由
  賃借人が賃貸物を賃借する際は、物件の立地、間取り、周辺環境、賃料等により判断するほか、室内の状態も物件を選定する上での判断材料になる。多くの賃借人は、室内の状態が良好であることを期待しているであろう。賃貸人が、新規の入居者のためにクロスや床、設備等をリフォームや修繕をすることも多い。賃貸人からみれば、賃借人には快適に住んでほしいと思うほか、入居希望者の増加につながり、ときには賃料の増額が期待できる。しかし、築年数により建物や室内の損耗が存在したり、賃貸人の資力等により、新賃借人の入居に際して必ずしも物件をリフォームするとは限らない。賃貸人は、賃借人に対して賃貸物の使用及び収益をさせる義務を負い(民法第601条)、また、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う(同法第606条)。具体的には、賃貸物の築年数、品質、家賃等に照らし、賃借人の居住に支障がない程度に清掃や必要な修繕を行った上で賃貸物を引き渡す義務があると解される。しかし、状態がよい、悪い、きれい、汚いは人により見方や受け取り方が異なる。誰の目で見ても状態がかなり悪ければ、十分な清掃や修繕をする必要があろうが、居住に支障がない限り完璧な状態を保つことは難しい。築年数が古い物件の賃貸借契約で、清掃の程度や室内の汚れ等の賃貸人と賃借人との見解の相違で争った裁判例では、「新築から約30年が経過した家賃の比較的安い建物の内装としては経年変化や通常損耗としてやむを得ない範囲のものであると認められ、居住に支障があるとまではいえない」として、「賃貸人は、本件建物の引渡し前に、次の賃借人が居住するには支障がない程度に清掃を行っており、賃借人の主張する内装の傷、剥げ、汚れ等についても経年変化や通常損耗としてやむを得ない範囲のものであり、居住に支障があるとまではいえないにもかかわらず、さらに、賃借人の要望に応じて、追加の清掃や台所設備の交換工事を行ったものと認められるから、賃借人に対し、本件建物の居住に支障がない程度に清掃や必要な修繕を行った上で本件建物を引き渡したものといえる」として賃借人の賃貸人に対する債務不履行による損害賠償請求を否認したものがある(【参照判例】参照)。

 賃貸人または媒介業者は、賃借物の状態が賃借人の居住に支障がない程度に清掃し、必要な修繕を行ったうえ引き渡す必要があり、事前に室内の状態を確認しておくことが肝要であり、もし築年数が古く清掃では処置できない汚れが残ったり、修繕できない箇所があればあらかじめその旨を賃借人に説明し、了解を求めておくことが望まれる。

参照条文①

 民法第415条(債務不履行による損害賠償)
① 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
② (略)
 同法第601条(賃貸借)
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第606条(賃貸人による修繕等)
① 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
② (略)

参照判例②

 東京地裁令和3年7月30日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
  賃貸人は、民法第601条の規定に基づき、賃借人に対して賃貸物の使用及び収益をさせる義務を負い、また、民法第606条の規定に基づき、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負うことに照らせば、賃借人に対し、賃貸物を使用収益に適した状態において引き渡す義務、具体的には、賃貸物の築年数、品質、家賃等に照らし、賃借人の居住に支障がない程度に清掃や必要な修繕を行った上で賃貸物を引き渡す義務があるものと解される。
本件についてみると、本件建物は本件賃貸借契約の締結時点において、新築時から約30年が経過しており、賃貸人は、前賃借人の退去後に原状回復工事を行い、次の賃借人が居住するには支障がない程度に清掃を行ったものと認められる。
これに対し、賃借人は、台所等に油汚れ等の前賃借人の生活による汚れがあった、ゴキブリがいたなどと主張する。しかし、提出された写真からは、換気扇、電子レンジを除く台所、各種棚、壁紙等の油汚れを直ちに判別できない上、上記写真から認められる換気扇、電子レンジの油汚れ及び台所、各種棚、壁紙等の傷、剥げ、汚れについても、綺麗な状態であるとはいえないものの、新築から約30年が経過した家賃の比較的安い建物の内装としては経年変化や通常損耗としてやむを得ない範囲のものであると認められ、居住に支障があるとまではいえない。ゴキブリや害虫についても、上記写真からはその存在を認めることができない上、新築から約30年が経過した建物において通常では考えられない程度に多数のゴキブリや害虫がいたことを示すような的確な証拠はない。また、台所のIHコンロについては、賃借人提出の室内現状確認書及び上記写真にも作動不能との記載はなく、他に、作動しなかったと認めるに足りる的確な証拠もない。
しかも、前記前提事実によれば、賃貸人は、賃借人からの要請に応じて、社員を派遣して追加の清掃を行い、賃借人からの要望が強かった台所については、台所設備の交換工事を行ったことが認められる。
特に、台所については、本件建物の他の箇所よりも剥げや汚れがやや目立っていたものの、直ちに新品への交換まで必要な状態であったとは認めるに足りない。この点、賃貸人は、賃借人からの指摘箇所について当初補修を考えていたが、業者による下見の結果、補修が困難であることが分かり、業者による再度の下見の結果、台所設備が特注品であったことや賃借人の要望する条件に沿うものを探すのに時間を要したことが影響して、結果的に交換工事が後日となったことが認められ、交換工事までに不当に多数の日数を要したともいえない。
以上のとおり、賃貸人は、本件建物の引渡し前に、次の賃借人が居住するには支障がない程度に清掃を行っており、賃借人の主張する内装の傷、剥げ、汚れ等についても経年変化や通常損耗としてやむを得ない範囲のものであり、居住に支障があるとまではいえないにもかかわらず、さらに、賃借人の要望に応じて、追加の清掃や台所設備の交換工事を行ったものと認められるから、賃借人に対し、本件建物の居住に支障がない程度に清掃や必要な修繕を行った上で本件建物を引き渡したものといえる。
以上によれば、賃貸人に本件賃貸借契約上の債務不履行があったとは認められない。

監修者のコメント

 本件のように、入居直後に賃借人から室内の汚損等についてクレームがあり、賃貸人や仲介業者との意見の相違からトラブルが大きくなるケースがある。解説にあるように、抽象的には賃貸人は居住に支障がない状態で引き渡せば足りるのであるが、それが具体的にどの程度かは、物件のグレードや築年数、賃料額など諸事情を考慮する必要があるため、判断が難しいケースもある。かかるトラブルを極力避けるためには、契約前に賃借人に物件を内覧する十分な時間を与えることが重要である。
また、入居当初の汚損の有無・程度は、退去時の原状回復義務の有無を判断する際に重要な要素となることから、入居時に、賃借人立会いのもとでチェックリスト等の形で記録しておくことが望ましい。

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