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2507-B-0397
マンションの修繕積立金の一部を区分所有者の居住年数に応じて返還することの是非

 マンション管理組合が長期修繕計画を見直したところ、工事費が当初予定の金額を下回ることになった。余剰金は居住期間を基準に区分所有者に返還することを組合で決議した。

事実関係

 当社が売買の媒介をした区分所有マンションの買主から相談があった。買主は6年前に引渡しを受けて入居している。現在は管理組合の理事をしているが、理事会において他の理事から修繕積立金の余剰分を区分所有者に返還したらどうかという意見があった。修繕積立金は、修繕計画に基づき費消しているが、工事業者との間で工事内容の精査や工事費用の交渉を行った結果、予算に比べ余剰金が出た。今後の修繕計画にも影響がないとの判断で返還が提案されたものである。規約に修繕積立金等の修繕費以外の取り崩し及び区分所有者への返還条項はなかったが、組合総会で余剰金があったときは、組合の特別決議により返還を可能とした規約改正をしている。分配方法は、居住年数に応じて支払う案である。築20年のマンションであるが、分譲当時から居住している区分所有者もいるが、買主は居住期間が短く、他にも短期所有や賃貸して居住していない区分所有者が多くいる。理事である買主は、居住期間を基準にする余剰金の返還は不公平ではないかと感じている。

質 問

 修繕積立金の一部を区分所有者の居住期間に応じて返還する管理組合の決議は問題ないか。

回 答

1.  結 論
 居住期間を基準とする返還は不公平であり、公序良俗に反し、管理組合決議は無効である可能性が高い。
2.  理 由
 修繕積立金は、マンションの快適な住環境の確保や建物価値の維持、経年変化や老朽化に伴う修繕等に費消するために、管理組合が区分所有者から徴収し積み立てている。区分所有者から徴収する管理費や修繕積立金は、管理規約で定めるマンションが大部分であるが、規約に定めがない場合は、各区分所有者の持分に応じて、負担することになる(区分所有法第19条)。管理費は通常の管理に充当するが、修繕積立金は、特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができるのが原則である(マンション標準管理規約第28条)が、 規約によりこれと異なる定めをすることができる場合がある(区分所有法第30条第1項)。ただし、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定める必要がある(同法30条第3項)。
相談ケースは、規約による特別決議で余剰の修繕積立金を返還するものであるが、返還の基準を区分所有者の「居住年数」 としている。このような決議に関し、「専有部分の床面積の割合(共用部分等に対する共有持分)に応じて行うことが区分所有者間の利害の衡平に資するものであり、これに反する配分方法は、特段の事情のない限り、区分所有者間の利害の衡平を著しく害するものであって、公序良俗に違反するものというべきであり、集会(総会)の特別決議によってもこれを有効とすることはできない」と、居住期間を基準とする返還は、不公平であり公序良俗に反し決議は無効とした裁判例がある(【参照判例】参照)。なお、解散した管理組合法人の財産は、同法第14条に定める割合と同一の割合(専有部分の床面積の割合)で各区分所有者に帰属する (同法第56条)と規定しており、居住期間を基準とする余剰金の返還は認め難いと考える。
なお、区分所有者に返還することに関し、裁判例では、「修繕積立金を取り崩して区分所有者に配分すること自体が可能であるとしても」と、返還そのものは否定していないものの、区分所有者に返還することに消極的な表現となっている。この判断は、マンション標準管理規約において、「組合員は、納付した管理費等及び使用料について、その返還請求又は分割請求をすることができない」(同規約第60条第7項)、としたものを反映しているのであろう。
修繕積立金の取り崩しは、法及び管理規約、裁判例からも慎重な取り扱いを求められている。修繕積立金は、長期修繕計画等における費用を支出するものであるが、昨今の想定外の災害発生に伴う修繕費用に費消する場合もある。積立金を取り崩した後に再徴収することは困難も予想され、たとえ余剰金があっても積立金の返還は避けるべきと考える。

参照条文

民法第90条(公序良俗)
   公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
 建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第14条(共用部分の持分の割合)
   ① 各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による。

②・③ (略)
④ 前三項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
 同法律(同法)第19条(共用部分の負担及び利益収取)
   各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じ、共用部分から生ずる利益を収取する。

 同法律(同法)第30条(規約事項)
   ① 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。

② (略)
③ 前二項に規定する規約は、専有部分若しくは共用部分又は建物の敷地若しくは附属施設(建物の敷地又は附属施設に関する権利を含む。)につき、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない。
④・⑤ (略)
 同法律(同法)第56条(残余財産の帰属)
   解散した管理組合法人の財産は、規約に別段の定めがある場合を除いて、第14条に定める割合と同一の割合で各区分所有者に帰属する。

④・⑤ (略)
 (国土交通省)マンション標準管理規約(単棟型)第25条(管理費等)
   ① 区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。

一 管理費
二 修繕積立金
② 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。
 同標準管理規約第28条(修繕積立金)
 ① 管理組合は、各区分所有者が納入する修繕積立金を積み立てるものとし、積み立てた修繕積立金は、次の各号に掲げる特別の管理に要する経費に充当する場合に限って取り崩すことができる。

一 一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕
二 不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕
三 敷地及び共用部分等の変更
四 建物の建替え及びマンション敷地売却(以下「建替え等」という。) に係る合意
形成に必要となる事項の調査
五 その他敷地及び共用部分等の管理に関し、区分所有者全体の利益のために特別に必要となる管理
②~⑤ (略)
 同標準管理規約第60条(管理費等の徴収)
   ①~⑥ (略)

⑦ 組合員は、納付した管理費等及び使用料について、その返還請求又は分割請求をすることができない。

参照判例①

 福岡地裁平成28年1月18日 判時2300号71頁(要旨) 
 修繕積立金は、管理費等と区別して経理されるべきものであるが、未だ費消されずにいればそれは団体的に帰属する財産を構成しているところ、本件規約には、特別の管理に要する経費に充当する場合以外であっても修繕積立金を総会の特別決議により取り崩すことができる旨の定めがある。そして、修繕積立金の性質が前述で説示(修繕積立金は,敷地及び共用部分等の管理に要する経費)したものであることからすれば、本件規約の定めに基づき修繕積立金を取り崩して区分所有者に配分すること自体が可能であるとしても、各区分所有者への返金に伴う配分方法は、規約に別段の定めがある場合を除いて、専有部分の床面積の割合(共用部分等に対する共有持分)に応じて行うことが区分所有者間の利害の衡平に資するものであり、これに反する配分方法は、特段の事情のない限り、区分所有者間の利害の衡平を著しく害するものであって、公序良俗に違反するものというべきであり、集会(総会)の特別決議によってもこれを有効とすることはできないというべきである(仮に規約に別段の定めがある場合においても、区分所有者間の利害の衡平を著しく害する場合には公序良俗に違反することがあることはいうまでもない。)。このことは、区分所有法が、解散した管理組合法人の財産につき、規約に別段の定めがある場合を除いて、同法第14条に定める割合と同一の割合で各区分所有者に帰属する旨定めていること(同法第56条)などからも、上記のように解するのが相当である。
また、個々の区分所有権については、売買、相続等によりその所有者が変動する場合もあり得るが、このような場合、区分所有権の承継取得者は、その前主の区分所有者としての地位を承継するのであり、前主が区分所有者として負担した修繕積立金に関する法律関係も同様に承継するものと解されることからすれば(このことは、同法第8条や本件規約28条の定めからも上記のようにいうことができる。)、区分所有権の変動の有無にかかわらず、修繕積立金を取り崩してこれを配分する旨の決議をした時点の区分所有者間において、専有部分の床面積の割合と異にしてその配分割合に差異を設ける合理的事情は見いだせない。取り分け、同法及び本件規約は、区分所有者と占有者とを明確に区別した上で、本件規約において管理組合に対する修繕積立金の負担者が飽くまで区分所有者である旨定められていることからすれば、取り崩し修繕積立金の配分割合を決定する基準として、占有期間である居住期間によることは、区分所有者間に不合理な差異を設けるものであって、許されないものというべきである。

監修者のコメント

 管理組合の理事長が長年変わらないマンションや、長期居住者と短期居住者・賃貸所有者が混在するマンションでは、修繕積立金の余剰金が発生した場合に、相談ケースのように、特別決議で居住年数に応じた返金処理をするケースがありそうである。
長期居住者にとっては、短期居住者よりも積立金を長く支払ってきたのだから、居住年数に応じた返金とする方が公平であると考えるかもしれない。
しかし、参照判例も指摘するとおり、個々の区分所有権の所有者が売買で変動しても、それまでの前所有者たちが修繕積立金を負担してきた事実を買主は承継するのであり、その経済的負担の実績も含めて売買代金が設定されるのであるから、居住年数に関係なく余剰金を返金したとしても何ら不公平ではない。修繕積立金を持分割合に応じて徴収してきたのであれば、その返金も同じ基準で行わなければ不公平である。

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