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2507-B-0398
破産免責を受けた債務者の相続人は、担保不動産競売の買受人になることができるか。

 売買の媒介をした買主の物件が競売になった。競売手続き中に買主は亡くなったが、その相続人である長男が競売物件を買い受けたいという。

事実関係

 当社は、売買の媒介業者である。15年前に当社の媒介で購入した買主所有の一戸建てについて裁判所は競売開始決定をした。買主は、会社経営をしていて事業資金として金融機関より資金借入をしていて根抵当権が設定されていた。しかし、ここ数年の事業不振から債権者より根抵当権の実行として、競売申立てがあったものである。買主は、競売開始決定とともに破産申し立てをした。裁判所は、破産申し立てを認め、免責許可を決定、対象不動産は、競売にかけられた。競売にかけられて間もなく、買主は病気により死亡した。買主の父親が亡くなって程なく、買主の長男が当社を訪れ、思い出のある物件なので、競売されている物件を競落したいと相談があった。相続人は長男のみであり、相続放棄はしておらず、債務者である父親の地位を包括承継している。

質 問

 破産免責された債務者の相続人は、競売物件を買い受けることができるか。

回 答

1.  結 論
 債務者である被相続人の破産債権免責許可の決定後であれば、相続人は債務者にあたらず、債務者の競売物件を買い受けることができると考える。当然、最高価格で競落する必要がある。しかし、破産者が免責許可前に死亡した場合、その相続人は買い受けることができない。
2.  理 由
借入金等が多額で返済が困難になった場合、借入金が多額で返済が困難になり、破産手続きが開始された場合、債務者は裁判所に破産債権の免責許可を求めることができる。免責許可が決定されると、破産者は租税等の請求権など一定の債権(非免責債権)を除き、破産債権について免責になる(破産法第253条)。免責の許可申立は、個人の債務者に限り、債務者が破産手続開始の申立てをした場合には、申立てと同時に免責許可の申立てをしたものとみなされる(同法第248条)。また、抵当権は破産手続上は別除権として破産手続によらない権利実行が保障されており(同法第2条第9項、第65条第1項)、すでに開始されている実行手続(競売手続)も破産手続開始によって何らの影響も受けずに進行するのが原則である。
  相談ケースの破産者の相続人である長男が、死亡した債務者であった父親の担保不動産(競売物件)を競落することができるかであるが、相続人が債務者に該当するか否かが問題になる。法は、債務者は買受けの申出はできないとしている(民事執行法第68条)。債務者である父親の死亡が破産手続きにおける免責許可前であれば、相続人は包括継承するため債務者の地位も継承する。長男は債務者となり、買受けの申出はできない。しかし、免責後に債務者が死亡した場合は、裁判例で、「担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け、同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合には、当該債務者の相続人は被担保債権を弁済する責任を負わず」と免責許可後の相続人は、「債務者に当たらない」と判示したものがある。理由として、「債権者がその強制的実現を図ることもできなくなるから、上記相続人に対して目的不動産の買受けよりも被担保債権の弁済を優先すべきであるとはいえないし、上記相続人に買受けを認めたとしても同一の債権の債権者の申立てにより更に強制競売が行われることはなく、上記相続人に買受けの申出を認める必要性に乏しいとはいえない」と債務者が免責許可後に亡くなった場合は、相続人の買受けに支障がないとしている(【参照判例】参照)。

  媒介業者は、抵当権が設定されている不動産を扱うことは一般的である。通常は、売却代金で抵当権の抹消がなされるが、媒介期間中に競売開始決定申立てられることも考えられる。債権者の相続人が競売物件を買い受けることはまれなケースといえるが、競売の一連の流れや手続きについて理解しておくことで業務の幅が広がることを肝に銘じておきたい。

参照条文

 民事執行法第68条(債務者の買受けの申出の禁止)
   債務者は、買受けの申出をすることができない。
 同法第71条(売却不許可事由)
   執行裁判所は、次に掲げる事由があると認めるときは、売却不許可決定をしなければならない。
一 (略)
二 最高価買受申出人が不動産を買い受ける資格若しくは能力を有しないこと又はその代理人がその権限を有しないこと。
三~八 (略)
 同法第188条(不動産執行の規定の準用)
   第44条の規定は不動産担保権の実行について、前章第2節第1款第2目(第81条を除く。)の規定は担保不動産競売について、同款第3目の規定は担保不動産収益執行について準用する。
 破産法第2条(定義)
   ①~⑧ (略)
 ⑨ この法律において「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第65条第1項の規定により行使することができる権利をいう。
 ⑩~⑭ (略)
 同法第65条(別除権)
   ①~⑧ (略)
 ① 別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。
② (略) 
 同法第253条(免責許可の決定の効力等)
   ① 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
 一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二~七 (略)
②~④ (略)

参照判例①

 最高裁令和3年6月21日 判タ1492号78頁(要旨)
 民事執行法第188条において準用する同法68条によれば、担保不動産競売において、債務者は買受けの申出をすることができないとされている。これは、担保不動産競売において、債務者は、同競売の基礎となった担保権の被担保債権の全部について弁済をする責任を負っており、その弁済をすれば目的不動産の売却を免れ得るのであるから、目的不動産の買受けよりも被担保債権の弁済を優先すべきであるし、債務者による買受けを認めたとしても売却代金の配当等により被担保債権の全部が消滅しないのであれば、当該不動産について同一の債権の債権者の申立てにより更に強制競売が行われ得るため、債務者に買受けの申出を認める必要性に乏しく、また、被担保債権の弁済を怠り、担保権を実行されるに至った債務者については、代金不納付により競売手続の進行を阻害するおそれが類型的に高いと考えられることによるものと解される。
しかし、担保不動産競売の債務者が免責許可の決定を受け、同競売の基礎となった担保権の被担保債権が上記決定の効力を受ける場合には、当該債務者の相続人は被担保債権を弁済する責任を負わず、債権者がその強制的実現を図ることもできなくなるから、上記相続人に対して目的不動産の買受けよりも被担保債権の弁済を優先すべきであるとはいえないし、上記相続人に買受けを認めたとしても同一の債権の債権者の申立てにより更に強制競売が行われることはなく、上記相続人に買受けの申出を認める必要性に乏しいとはいえない。また、上記相続人については、代金不納付により競売手続の進行を阻害するおそれが類型的に高いとも考えられない。
そうすると、上記の場合、上記相続人は、同法第188条において準用する同法第68条にいう「債務者」に当たらないと解するのが相当である。

監修者のコメント

 破産者が免責許可決定を受けた場合、破産者は「その責任を免れる」(破産法第253条)ところ、その意味については、履行を強制される「責任」は消滅しても、「債務」としては残るという自然債務説が有力である。東京高裁は、その考え方から相続人も債務者の地位を承継するため買受人にはなることができないと判断していた。しかし、最高裁は、免責許可後の債務者の相続人を買受人から排除すべき実質的理由はないとして、同人が買受人となることを認めたものである。
宅建業者は、競売手続や破産手続が進行する中で、任意売却に関与したり買受人として競売に参加したりすることが少なくないが、その過程で破産者の相続人と接触する場合もあるだろう。相談ケースは、競売・破産・相続が絡む参考になる事案である。

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◎ たいへん多くの方からご相談を受け付けており、通話中の場合があります。ご了承ください。
◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

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