公益財団法人不動産流通推進センター > 不動産相談 > 賃貸 > ペット飼育を認める賃貸借契約において、ペット飼育による室内の汚れや腐食、臭い等について、賃貸人は、賃借人に対し原状回復費用を要求できるか。

不動産相談

当センターでは、不動産取引に関するご相談を
電話にて無料で受け付けています。

専用電話:03-5843-208110:00~15:00(土日祝、年末年始 除く)

相談内容:不動産取引に関する相談(消費者、不動産業者等のご相談に応じます)

<ご注意>
◎ たいへん多くの方からご相談を受け付けており、通話中の場合があります。ご了承ください。
◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

== 更に詳しい相談を希望される方は、当センター認定の全国の資格保有者へ ==

不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2507-R-0355
ペット飼育を認める賃貸借契約において、ペット飼育による室内の汚れや腐食、臭い等について、賃貸人は、賃借人に対し原状回復費用を要求できるか。

ペット飼育可の賃借物件の賃借人が退去したが、ペット飼育による室内の毀損が酷い。賃貸人は、原状回復費用を要求したいと考えているが、賃借人は、賃貸人はペットの飼育を認めて賃貸していたので修繕費の負担義務はないと言っている。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介兼管理業者である。4年前に当社が媒介した賃貸マンションの賃借人が退去した。賃貸借契約は、ペット飼育を条件として締結した。賃借人は、契約締結前に、小型犬を飼うことを賃貸人に申し出ており、賃貸人は了承していた。

当社は、賃貸人及び賃借人とともに退去時の立ち合いをしたところ、ペット飼育によるフローリングの糞尿の汚れ及び賃借人がその汚れ等を放置していたことによる床の一部腐食や剥がれが見られ、臭いも酷かった。賃貸人は、賃借人が居住中にペット飼育による汚れ等の日常の清掃が十分になされなかったのではないかと確認したところ、賃借人は清掃が不十分であることを認めた。賃貸人は、退去後の部屋の状態が、いわゆる自然損耗であれば原状回復費用を請求することはなかったが、ペット飼育による疵や臭いは自然損耗を超える損耗であるとして、原状回復費用を要求する予定である。
当社が、賃借人に原状回復の修繕費負担を伝えたところ、賃借人は、ペット飼育を認めた賃貸借契約であり、賃貸人はペット飼育による汚れ等は当初から認識できたはずであり、原状回復費用を支払う必要はないと主張している。

質 問

 ペット飼育を認める賃貸借契約において、ペット飼育による室内の汚れや腐食、臭い等について、賃貸人は、賃借人に対し原状回復費用を要求できるか。

回 答

1.  結 論
 賃借人は、賃借物件の善管注意義務を負っており、ペット飼育により特別損耗を生じさせたのであれば、その損耗について修繕責任を負う必要がある。
2.  理 由
 賃貸借契約における賃貸借物件の自然損耗の修復費用は賃料に含まれ、賃貸人負担であるのは一般的に知られている。裁判例でも、「賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている」と、賃貸借により生じた通常損耗は賃料に含まれていると解している(【参照判例①】参照)。最高裁判例や多くの裁判例を参考として、賃借人が負う原状回復費用は、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と原状回復をめぐるトラブルのガイドラインで定義している(同ガイドラインのポイント)。また、裁判例等を規範として、「賃借人は、通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除き、入居後に生じた損傷を原状に復する義務を負う」旨が改正民法(第621条)で明文化された(令和2年4月1日施行)。

同ガイドライン・別表1では、部位別の損耗・棄損の費用負担の区分における飼育ペットによる柱等のキズ・臭いの考え方について、「共同住宅におけるペット飼育は未だ一般的ではなく、ペットの躾や尿の後始末などの問題でもあることから、ペットにより柱、クロス等にキズが付いたり臭いが付着している場合は賃借人負担と判断される場合が多いと考えられる」としている。裁判例でも「本件居室のフローリングの一部は、飼い猫の糞尿等を長期間放置したことによる腐食のほか、剥離等の毀損が認められ、当該腐食部分は床下の床根にまで浸透していたことが推認される。その損傷の程度は通常の使用から生じる損耗を超えるものであり、また、損傷が生じた原因は、飼い猫による糞尿等の掃除を怠ったことなどの、賃借人の善管注意義務違反にある」として、賃借人の賃借物の善管注意を認め、自然損耗を超える損傷について、賃借人がその原状回復費用を負担すべき特別損耗であると認め、経年劣化を考慮して賃貸人の工事費用の要求を認容したものがある(【参照判例②】参照)。
  なお、賃料が通常より高額に設定されていた場合は、特別損耗であっても原状回復費用は賃貸人負担になる場合があるので留意しておきたい。一方、ペットの飼育が禁じられている賃貸借契約では、賃借人が賃貸人の承諾を得ないでペットを飼育したときは、用法違反に該当し、信頼関係を破壊するものとして契約解除の事由とになる場合もあり得る。

  宅建業者は、ペット飼育を認める賃貸借契約を媒介する際は、自然損耗や経年変化を超える損耗についての原状回復費用が賃借人負担になる場合があることを十分説明することが肝要であり、契約書にもその旨を謳う必要があろう。

参照条文

 民法第601条(賃貸借)
   賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第621条(賃借人の原状回復義務)
   賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
 同法第618条(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保)
   当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 国土交通省公表・原状回復をめぐるトラブルとガイドライン本ガイドラインのポイント
   ①建物の価値は、居住の有無にかかわらず、時間の経過により減少するものであること、また、物件が、契約により定められた使用方法に従い、かつ、社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態であれば、使用開始当時の状態よりも悪くなっていたとしてもそのまま賃貸人に返還すれば良いとすることが学説・判例等の考え方であることから、原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではないということを明確にし、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧すること」と定義して、その考え方に沿って基準を策定した。
   ②実務上トラブルになりやすいと考えられる事例について、判断基準をブレークダウンすることにより、 賃貸人と賃借人との間の負担割合等を考慮するうえで参考となるようにした。
   ③賃借人の負担について、建物・設備等の経過年数を考慮することとし、同じ損耗等であっても、経過年数に応じて負担を軽減する考え方を採用した。
 同原状回復をめぐるトラブルとガイドライン別表1 損耗・毀損の事例区分(部位別)一覧表(飼育ペットによる柱等のキズ・臭い)
   (考え方)特に、共同住宅におけるペット飼育は未だ一般的ではなく、ペットの躾や尿の後始末などの問題でもあることから、ペットにより柱、クロス等にキズが付いたり臭いが付着している場合は賃借人負担と判断される場合が多いと考えられる。なお、賃貸 物件でのペットの飼育が禁じられている場合は、用法違反にあたるものと 考えられる。

参照判例①

 最高裁平成17年12月16日 判タ1200号127頁(要旨)  
 賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃貸借契約は、賃借人による賃借物件の使用とその対価としての賃料の支払を内容とするものであり、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借という契約の本質上当然に予定されているものである。それゆえ、建物の賃貸借においては、賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。

参照判例②

 東京地裁平成25年11月8日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 本件居室のフローリングの一部は、飼い猫の糞尿等を長期間放置したことによる腐食のほか、剥離等の毀損が認められ、当該腐食部分は床下の床根にまで浸透していたことが推認される。その損傷の程度は通常の使用から生じる損耗を超えるものであり、また、損傷が生じた原因は、飼い猫による糞尿等の掃除を怠ったことなどの、賃借人の善管注意義務違反にある。
したがって、当該毀損については、賃借人がその原状回復費用を負担すべき特別損耗であると認められる。
この点、賃借人らは、猫を飼うことは賃貸人から許容されており、その分賃料が高額であったから、上記の損傷に係る原状回復費用は賃貸人が負担すべきである旨を主張するが、飼い猫の管理についての定めである本件特約の内容は記載のとおりであるし、本件賃貸借契約で定められた賃料が、猫を飼うことを許容したことで通常より高額に設定されていたと認めるに足りない。そうすると、賃借人は、賃貸人から本件居室で猫を飼育することを認められていた一方で、その飼育に伴い本件居室に損傷等を生じさせることのないよう善管注意義務を負っていて、その義務の程度が緩和されるべき事情は認められず、猫の糞尿等の掃除を怠ることはこの義務に違反するものである。

監修者のコメント

 ペット飼育に起因する物件の損傷について原状回復義務の程度が問題となるケースは多い。通常はガイドラインの内容に沿って解決することが多いであろうが、積極的にペット飼育可であることをもって入居を誘引し、賃料がその分高額になっているといった事情がある場合には、賃借人の負担部分が軽減される可能性もある。
また、紛争予防のために、あらかじめ敷金の償却を定めたり、定額補修金を徴収したりするケースもあるが、その場合、その定めが損害賠償額の予定とみなされ、それ以上の補修金は請求できない可能性が高くなることに留意する必要がある。消費者契約法に配慮しつつ、補修費用がこれらの額を超える場合に超過分も請求するのか、逆に補修費用が額を下回る場合でも償却する(返還しない)のか等、特約を詳細に定めることが望ましい。

当センターでは、不動産取引に関するご相談を
電話にて無料で受け付けています。

専用電話:03-5843-208110:00~15:00(土日祝、年末年始 除く)

相談内容:不動産取引に関する相談(消費者、不動産業者等のご相談に応じます)

<ご注意>
◎ たいへん多くの方からご相談を受け付けており、通話中の場合があります。ご了承ください。
◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

更に詳しい相談を希望される方は、
当センター認定の全国の資格保有者へ

不動産のプロフェッショナル

過去の事例(年別)

  • 賃貸
  • 売買

ページトップへ

single