公益財団法人不動産流通推進センター > 不動産相談 > 賃貸 > 賃貸人が、賃料を滞納している賃借人の玄関ドアに貼り紙をして賃料支払いを督促することの是非。

不動産相談

当センターでは、不動産取引に関するご相談を
電話にて無料で受け付けています。

専用電話:03-5843-208110:00~15:00(土日祝、年末年始 除く)

相談内容:不動産取引に関する相談(消費者、不動産業者等のご相談に応じます)

<ご注意>
◎ たいへん多くの方からご相談を受け付けており、通話中の場合があります。ご了承ください。
◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

== 更に詳しい相談を希望される方は、当センター認定の全国の資格保有者へ ==

不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2507-R-0354
賃貸人が、賃料を滞納している賃借人の玄関ドアに貼り紙をして賃料支払いを督促することの是非。

賃借人は、長期間賃料を滞納している。賃貸人と賃借人が話し合った結果、賃借人から、退去と滞納賃料全額を支払う申し入れがあったが、一向に退去も支払いもなく連絡もつかない。賃貸人は、賃借人の玄関ドアに督促の貼り紙を考えている。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介兼管理業者である。5年前に媒介した賃貸マンションの賃借人が、半年間にわたり賃料を滞納しているという連絡が賃貸人からあった。賃貸人は再三督促をしたが、賃借人は、近日中に支払うと言いながら支払いをしていない。賃貸人は、契約解除もやむを得ないと考えており、3か月前に賃借人と話し合ったところ、1か月後には立退きの上、滞納賃料を支払うとの返答を得た。しかし、約束の退去期日を1か月過ぎ、さらに2か月経過したが立ち退く様子はうかがわれず、その間の賃料も含め賃料の支払は一切ない。当社は賃貸人とともに、賃借人宅を訪れたが、賃借人は留守であった。その後も賃貸人は賃借人宅を訪れたが留守であり、電話もつながらず連絡がとれない状態である。

 しばらくして、賃貸人が、滞納賃料の支払と退去要求の貼り紙を賃借人の玄関ドアに貼ってもよいか当社に聞いてきた。賃貸人は、さしあたり、賃貸人に連絡をするようにとの貼り紙をし、連絡がない場合は、滞納額の支払いと退去の催促を内容とする貼り紙をする意向である。

質 問

 貸主または賃貸管理会社が、賃料を長期間滞納している賃借人の玄関ドアに賃料支払い等を催促する旨の貼り紙をしてもよいか。

回 答

1. 結 論
貼り紙による滞納賃料の催促は、自力救済に該当するため許されない。これをした場合は名誉毀損を理由に賃借人から損害賠償を請求される可能性がある。
2. 理 由
 近代法のもとでは、私人の権利の実現は司法手続きによらなければならないとされている。私人が司法手続きによらず、私的に実力を行使して自己の権利を実現することはできない。民法等に明確な条文はないが、私的に実力を行使することを自力救済という。たとえば、賃貸借契約において賃借人が賃料を支払わないとの理由で、賃貸人等が鍵を取り換える、荷物を撤去する行為等が該当する。自力救済は不法行為にあたり、実力行使をした者は損害賠償責任が生じる場合がある(民法第709条)。ただし、例外的に、「法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許される」とした裁判例がある(【参照判例①】参照)。しかし、法律手続きを待つ時間的余裕がなく、事態が切迫しているときに、緊急やむを得ない特別の事情があり、かつその必要の限度内で例外的に許されるものであり、自力救済禁止の原則の例外と考えておく必要がある。相談ケースのように、賃借人が、長期間にわたり滞納をしており、賃貸契約の解約を申し出ているものの、一向に滞納賃料が支払われず、退去にも応じない場合に、賃貸人がした室内の物品搬出行為について、「賃貸人の右行為は、社会通念上一応是認しうるものであり、これを違法なものとまでいうことはできない」と違法性を否認した裁判例があるが、例外的な判断であると考えておくべきである(【参照判例②】参照)。

  一方、滞納が1か月の賃借人に対し、連絡が取れないとの理由から、媒介業者が、期限を設けて賃料の督促と支払いがないときは契約解除して鍵の交換をする旨の貼り紙をした行為に対し、「これらは賃借人の名誉を毀損する内容のものであることは明らかであり、これらの行為は、媒介業者が賃借人に対し連絡が取れない状況にあったことを考慮してもなお、1か月分の滞納賃料の督促の方法として社会通念上相当性を欠く違法なものであるといわざるを得ない」として、貼り紙による1か月分の賃料督促の方法が社会通念上認められないとし、損害賠償を命じた裁判例がある(【参照判例③】参照)。

  賃貸借契約において、賃料滞納が長期である、退去期日に退去しないといったケースはよく聞くところである。媒介業者、管理会社、賃貸人は、督促の方法について、慎重に対応する必要がある。基本的に自力救済は違法であり、正当な権利の主張は、法に則った手続き(民法、民事訴訟法、民事執行法による強制執行等)で解決を図ることが肝要である。

参照判例①

 最高裁昭和40年12月7日 判タ187号105頁(要旨)
私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない。

参照判例②

 東京地裁昭和62年年3月13日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 賃借人は明渡期限に本件貸室の明渡義務を負っていたものであり、本件貸室をもはや使用していないにもかかわらず物品だけをそのまま残していたものであるところ、本件貸室から賃貸人が賃借人の物品を搬出したのは、明渡期限から既に長期間が経過していたうえ、賃貸人の鍵の取替に対しても賃借人が何らの反応も示さず、さらに右物品を移動するという賃貸人の通知にもかかわらず、賃借人が賃貸人に対して内容証明郵便による返事をしたにすぎず、また、賃貸人が賃借人に、その妻を通じて物品の引取を要求したにもかかわらず、賃借人はこれにも応じなかったために、本件貸室の賃貸人がやむをえず行ったものと認めることができるのであって、本件貸室から搬出した物品の保管についても、屋上を除いては全部屋内を保管場所とし、屋上に保管したものについてはビニールシートをかぶせるなど風雨を避けるための措置を講じて、相応の配慮をしているのであるから、賃貸人の右行為は、社会通念上一応是認しうるものであり、これを違法なものとまでいうことはできない。

参照判例③

 東京地裁平成26年年9月11日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 賃貸人は、媒介業者を通じて、本件貸室のドアに滞納家賃を催告し期限までに支払がない場合には賃貸借契約を解除し鍵を交換する旨の貼り紙を2回貼付したものであるが、これらは賃借人の名誉を毀損する内容のものであることは明らかであり、これらの行為は、媒介業者が賃借人に対し連絡が取れない状況にあったことを考慮してもなお、1か月分の滞納賃料の督促の方法として社会通念上相当性を欠く違法なものであるといわざるを得ない。そして、これらによる賃借人の慰謝料は〇万円と認めるのが相当である。

監修者のコメント

 第三者にも見える貼り紙で滞納賃料を督促するという方法は、参照判例③も指摘するとおり、名誉毀損行為となるため、不法行為として損害賠償を請求されるだけでなく、名誉毀損罪で告訴される可能性すらある。賃借人の勤務先にハガキの督促状を送付する行為も、同様の意味で自力救済行為とみなされる可能性があるため、注意する必要がある。
その他の自力救済行為についても、室内への立入りが住居侵入、物品の搬出が窃盗、鍵交換が器物損壊等の行為に該当し、民事上も刑事上も大きな問題となる可能性があることから、賃貸人や宅建業者がこれらの行為に及ぶことは厳に慎まなければならない。

当センターでは、不動産取引に関するご相談を
電話にて無料で受け付けています。

専用電話:03-5843-208110:00~15:00(土日祝、年末年始 除く)

相談内容:不動産取引に関する相談(消費者、不動産業者等のご相談に応じます)

<ご注意>
◎ たいへん多くの方からご相談を受け付けており、通話中の場合があります。ご了承ください。
◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

更に詳しい相談を希望される方は、
当センター認定の全国の資格保有者へ

不動産のプロフェッショナル

過去の事例(年別)

  • 賃貸
  • 売買

ページトップへ

single