公益財団法人不動産流通推進センター > 不動産相談 > 売買 > 借地権付建物売買における地主の借地権譲渡の許可申立は、売買契約締結または建物所有権移転登記後でもよいか。

不動産相談

当センターでは、不動産取引に関するご相談を
電話にて無料で受け付けています。

専用電話:03-5843-208110:00~15:00(土日祝、年末年始 除く)

相談内容:不動産取引に関する相談(消費者、不動産業者等のご相談に応じます)

<ご注意>
◎ たいへん多くの方からご相談を受け付けており、通話中の場合があります。ご了承ください。
◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

== 更に詳しい相談を希望される方は、当センター認定の全国の資格保有者へ ==

不動産のプロフェッショナル

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2504-B-0343
借地権付建物売買における地主の借地権譲渡の許可申立は、売買契約締結または建物所有権移転登記後でもよいか。

 売主が借地権付建物売買をするが、地主の借地権譲渡の承諾を得ていない。売主は、地主の承諾に代わる許可申立は売買契約前でなくても可能のはずであると認識している。

事実関係

 当社は、売買の媒介業者である。店舗建物を所有している借地人から借地権付建物売却の相談があった。借地人は、約20年前に地主から店舗所有目的で土地を賃借し、建物を建てた。借地人は、飲食店を営んでいたが、出身地に戻るため店舗を売却する。借地人は店舗の買主の見込みがあった。買主は、同業者の友人で現在は飲食店従業員として就業しているが、長年、飲食店で修業を積んでおり、以前から一本立ちを考えており、借地人から店舗を居抜きで譲ってもらえれば、厨房器具等設備に費やす費用も抑えられ、立地がよいことから購入を強く希望している。
 売主である借地人は、買主との間で売買に伴うトラブルが起きないよう当社の媒介を望んでいる。借地人は、借地権設定者の地主に借地権を売却することについて打診をしていなかったので、借地権を第三者に譲渡するためには、地主の承諾を得ることが必要であることを伝えた。しかし、地主は、遠方に居住しており、借地人から連絡が取れないことが多く、事前の承諾は取りづらいという。借地人は、地主の譲渡承諾は、契約締結後または建物の所有権移転登記後でも承諾を得ればよいのでないかとの認識である。万一、地主の承諾が得られなかったとしても、借地権譲渡が地主に特段不利になることではなく、売買契約締結後でも、地主の承諾に代わる裁判所の許可を申立てれば許可は得られるのではないかと考えている。

質 問

1.  借地権付建物売買における地主の譲渡承諾を得るのは、買主との売買契約締結後または買主への建物の所有権移転後でもよいか。
2.  借地権付建物の売買契約締結後または買主への建物所有権移転後でも地主の承諾に代わる裁判所の許可(代諾許可)が得られるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 借地権付建物売買における地主の借地権譲渡承諾は、建物を第三者に譲渡する前に承諾を得る必要がある。
 質問2.について ― 契約締結後または買主への建物の所有権移転後の裁判所への申立ては不適法なものであり却下される。
2.  理 由
⑵について
 借地人は、「地主の承諾を得なければ、賃借権を第三者に譲り渡すことができない」としており、得なければとは、事前の承諾が必要と解される。承諾なしに第三者に借地権の使用または収益をさせたときは、借地人の重大な契約違反行為として、地主は、土地賃貸借契約を解除することができる(民法第612条)。さらに、借地借家法においても、「賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合」(同法第19条)と定めている。譲渡しようとする場合とは、売買契約締結前であると解釈できる。
 一方、借地権付建物を建物の所有権移転登記後に裁判所に地主の承諾に代わる許可の申立てをした裁判例で、「土地賃借権の譲渡許可制度は、賃借権の無断譲渡による紛争の予防をその趣旨とする」ことであり、この要件については、「賃借権の目的である土地を使用する者の変更が現実化する前に申立てをすることを要する」ものとしている(【参照判例①】参照)。
 また、この原審の決定に対し、不服として借地人が抗告した抗告審では、「借地権譲渡は、建物が譲渡承諾される前か後といった形式面から判断すべきでなく、一切の事情の一事由として申立ての認否が決せられるべき」との借地人の主張に対し、「譲渡しようとする場合という借地借家法第19条第1項の文言のみならず、借地権設定者が借地権の譲渡を承諾しない場合であっても、譲渡が借地権設定者に不利益をもたらすおそれがないときは、裁判所の許可によって譲渡を適法なものとすることにより、賃借権の無断譲渡による紛争を予防するという同条の趣旨に照らしても、賃借権譲渡許可の申立てが建物を譲渡した後にされたものである場合には当該申立ては不適法である」として申立てを退けた(【参照判例②】参照)。
 借地権付建物売買において、売主である借地人は必ずしも地主の借地権譲渡承諾の必要性を認識しているとは限らない。媒介業者が、地主の承諾を得ていない借地権付建物売買の媒介活動をして、買主が現れても、地主の承諾が得られるか不確かであれば売買契約締結に至らずともトラブルになることが考えられる。媒介業者は、売主が地主に借地権譲渡の承諾を得ているか否かを確認した上で媒介活動をすべきである。地主の承諾前であれば、媒介業者は、売主自らが地主の承諾を得るか、または売主に同行して地主の承諾の意向を確認する必要がある。媒介業者は、地主の承諾が得られるようであれば、承諾の旨及び承諾料の額、支払い時期等の売主、地主間の合意事項を明確に記した文書を用意し、借地権譲渡承諾書として取得することが肝要であろう。

参照条文

 民法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
   賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
   賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。
 借地借家法第19条(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
   借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
  〜⑦ (略)

参照判例①

 大阪地裁令和6年4月10日(原審) ウエストロー・ジャパン、判タ1528号63頁(要旨)
 借地借家法19条1項は、「建物を第三者に譲渡しようとする場合において」と定め、賃借権の目的である土地の上の建物を譲渡する前に申立てをすることを要件としている。そして、土地の賃借権の譲渡の許可の制度が賃借権の無断譲渡による紛争の予防をその趣旨とすることからすると、この要件については、賃借権の目的である土地を使用する者の変更が現実化する前に申立てをすることを要するものと解される。

参照判例②

 大阪高裁令和6年6月6日(抗告審) ウエストロー・ジャパン、判タ1528号63頁(要旨)
 借地人は、賃借権の目的である土地上の建物が譲渡される前か後かといった形式面から判断すべきでなく、一切の事情の一事由として申立ての認否が決せられるべきであり、借地人としては譲渡当時相手方らから本件建物の譲渡を拒否されることになることを予見できず、本件建物の譲渡前に借地借家法第19条に基づく申立てができなかったという事情があるから、本件申立てを本件建物の譲渡後であるという形式的な理由から不適法とすべきでないと主張する。
 しかし、上記のとおり原決定を引用して説示したとおり、「譲渡しようとする場合」という同条1項の文言のみならず、借地権設定者が借地権の譲渡を承諾しない場合であっても、譲渡が借地権設定者に不利益をもたらすおそれがないときは、裁判所の許可によって譲渡を適法なものとすることにより、賃借権の無断譲渡による紛争を予防するという借地借家法第19条の趣旨に照らしても、賃借権譲渡許可の申立てが建物を譲渡した後にされたものである場合には当該申立ては不適法であると解すべきである。そして、本件申立ては、本件建物の売買を原因とする所有権移転登記の後にされたというのであるから、本件建物を譲渡した後にされたものであり、不適法であるといわざるを得ない。

監修者のコメント

 借地上に建っている建物の売買は、かなり多いが、それを媒介する宅建業者は、建物の売買は、当然借地権の売買を伴っていることは十分に分かっている。そして、借地権の売買すなわち借地権の譲渡には、借地権設定者すなわち地主の承諾が必要だということも分かっている。しかし、その地主の承諾は、売買契約の前でも後でも良いと考えている媒介業者は、案外多い(もっとも、契約の前でなくてもよい、という学説もある)。【参照判例】の事案は、売買契約による所有権移転登記の後に、裁判所への譲渡許可の申立をしたケースについてのものであるが、裁判所に対する譲渡許可の申立にまで至らないケースであっても、地主の承諾を得る時期について、実務としては、契約の前であることを要すると考え、回答の〔理由〕の最後の段落に書いてあることに特に留意して仕事を進められたい。

当センターでは、不動産取引に関するご相談を
電話にて無料で受け付けています。

専用電話:03-5843-208110:00~15:00(土日祝、年末年始 除く)

相談内容:不動産取引に関する相談(消費者、不動産業者等のご相談に応じます)

<ご注意>
◎ たいへん多くの方からご相談を受け付けており、通話中の場合があります。ご了承ください。
◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

ホームページに掲載しています不動産相談事例の「回答」「参照条文」「参照判例」「監修者のコメント」は、改正民法(令和2年4月1日施行)に依らず、旧民法で表示されているものが含まれております。適宜、改正民法を参照または読み替えていただくようお願いいたします。

更に詳しい相談を希望される方は、
当センター認定の全国の資格保有者へ

不動産のプロフェッショナル

過去の事例(年別)

  • 賃貸
  • 売買

ページトップへ

single