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2504-R-0288
事業用賃貸借における賃借人の解約予告金支払い義務

 賃借人が解約予告を特約に従い6か月前に申し入れたが、その2か月後に即時解約したいという。その間に新賃借人が賃貸借契約をしたところ、4か月分の即時解約予告金は支払う必要はないと言っている。

事実関係

 当社は、事務所・店舗等の事業用賃貸物件を専門とする媒介業者である。2年6か月前に賃貸人所有ビルの店舗に、飲食店を開業する賃借人の期間3年とする賃貸借契約の媒介をした。賃借人が入居して2年経過したが、賃借人から営業が不振に陥り、店舗経営を維持していくのが難しいので中途解約したいと当社に申し出があった。賃貸借契約書には『賃貸期間中に賃借人が本契約を解約しようとするときは、6か月前までに賃貸人に対し書面によりその予告をしなければならない。但し、解約予告にかえて賃料等の6か月分相当を支払い、即時解約することができる』という解約権留保を特約している。当社は、賃借人から、6か月後に解約する旨の解約届を受領した。また、賃貸人から、賃借人が退去する予定の6か月後から入居する新賃借人を募集してほしいとの依頼を受け、営業活動を始めた。
 賃借人の解約届提出から2か月後、賃借人から即時退去したい旨を当社に連絡してきた。ほぼ同時期に新賃借人が現れた。店舗が空き次第入居したい意向であった。当社は、賃貸人と賃借人との間の合意解約書を作成し締結するとともに、即時解約の4か月分の賃料相当額を授受した。また、賃貸人の承諾が得られたので新賃借人との間で賃貸借契約を締結し、入居することになった。
 賃貸人は新賃借人と契約し、賃料を受領するのであるから、賃借人は、契約書特約の即時解約の場合の6か月相当分は支払う必要がなく、4か月分は免除になると主張している。もし4か月相当分を要求するのであれば、二重の賃料受領となり公序良俗に反するとも言っている。

質 問

 事業用物件の賃借人の申し出による中途解約予告期間内に新賃借人が賃貸借契約を締結した場合、賃借人が即時解約したときでも予告期間相当分の賃料を支払う義務があるか。

回 答

1.  結 論
 賃借人が即時解約しても中途解約予告期間相当分の賃料を支払う義務がある。
2.  理 由
 期間の定めのある賃貸借契約は、更新しなければ期間満了で契約は終了するが、中途解約は解約権留保の特約がなければ解約できないのが原則である(民法第618条)。最高裁でも「解約権を留保していない当事者が期間内に一方的にした解約申入は無効」と判示している(【参照判例①】参照)。事業用建物賃貸借契約では、本相談ケースのように、『賃貸期間中に賃借人が本契約を解約しようとするときは、6か月前までに賃貸人に対し書面によりその予告をしなければならない』のように、6か月ないし1年の予告期間を特約することが多い。また、予告期間を特約したうえで、当該予告期間相当分の賃料等を賃貸人に支払うことにより、即時解約ができる特約も一般的である。契約期間内に解約や解除された場合、次の賃借人が出現するまでには相当の期間を要することも多く、物件が特殊であればなおさら新賃借人を確保するには時間を要する。その間、賃貸人は収入が得られない。期間を定めた解約予告は、新賃借人の探索する期間でもある。なお、解約予告期間中は契約が継続されており、賃借人は賃料を支払っている限り使用収益できることは言うまでもない。
 事例ケースのように、特約で予告期間、但し書きを定めたときに、賃借人が即時解約または解約予告期間途中で退去(合意解約)する場合、特約の解釈の相違により争いになることが見受けられる。予告期間中に新賃借人が現れ、新たな賃貸借が始まり、賃貸人が新賃借人から賃料等を受け取る場合に問題になることがある。賃借人から見ると、賃貸人が新賃借人から賃料を受け取り、さらに特約にあるように予告期間の賃料を受け取っていると賃貸人は賃料の二重取りになっていると捉えられることがある。
 賃貸人は、賃借人の中途解約は、予定している賃料収入が途絶するため、中途解約を認めることに躊躇するのが通常である。解約権留保の特約本文は、賃貸人に新賃借人を探索する余裕を与えるとともに、現賃借人から6か月分の賃料及び賃料相当額が得られるのであれば、賃借人からの解約を認めても差し支えないとの趣旨と妥協的な約定である。さらに、特約但し書きは、「本件解約条項本文で解約申入れ期間を6か月とした関係で、賃借人がそれよりも短い期間で契約を解約したい場合について規定したものである。そして、本件解約条項本文によれば、6か月の予告期間内は賃貸借契約が継続していることになるので、本件解約条項本文によるまでもなく、賃貸人は賃借人に対し、賃料の支払を請求しうるところ、予告期間内に賃借人が賃借物を明け渡すなどして賃貸借契約が終了した場合、以後、賃借人は賃貸人に対し賃料支払義務を負わないことになるものの、賃貸人にとっては、賃借人から本件解約条項本文による解約予告がなされた場合、本来なら6か月分の賃料の支払を受けることを期待していた」とその期待を保護する必要があるとして、「本件解約条項但し書きは、賃貸人の前記期待を保護するとともに、賃借人としても予告期間内の賃料支払は覚悟していたはず」と賃借人の契約締結時点で認識していたことを認め、また、「賃貸人が新賃借人を探すのに必要と考えられる合理的期間である6か月分については賃料と合わせて賃料相当損害金を支払うべき義務があることを定めた趣旨であり、6か月の期間内に賃貸人が新賃借人との間で賃貸借契約を締結したかどうかという事実によって、支払義務は左右されない」とし二重に賃料等を得ることは不当とまでは言えないとした裁判例がある(【参照判例①】参照)。
 なお、裁判例は、賃借人が本件解約条項本文と本件解約条項但し書きは選択的な関係であり賃借人が本件解約条項本文を選択しており、また、賃貸人に空室損失は発生していないので、本件解約条項が適用される余地はないとの主張を否定している。
 一方 事業用賃貸借で解約権留保特約がなく、残期間分の賃料を支払う約定に対し、「約3年2か月分の賃料及び共益費相当額の違約金が請求可能な約定は、賃借人に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから、その効力を全面的に認めることはできず」、平成〇年〇月〇日から1年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり、その余の部分は公序良俗に反して無効」とした過大な残存賃料額の請求を否定した裁判例がある(【参照判例②】参照)。残期間分の支払いの約定がなくても、借主都合で中途解約する場合、賃貸人は6か月から1年分の賃料請求が可能と思われる。これは事業用賃貸借の場合である。
 賃借人が個人の居住目的の賃貸借契約では、解約権留保特約による申入れ期間が長い場合や即時解約時の過大な賃料相当額支払い及び特約がない場合の残期間相当分の賃料額請求は認められないであろう。居住用賃貸借の賃借人は個人が多く、消費者契約法が適用になり、特約等が無効となる可能性が高い(消費者契約法第9条)。解約予告に代えての即時解約時の違約金額は損害賠償の額または違約金に当たるとし、賃貸人の平均損害額である賃料1か月分相当が妥当であり、これを超える特約は無効とした裁判例がある(【参照判例③】参照)。また、国土交通省公表の賃貸住宅標準契約書(第11条)でも賃借人からの解約申し入れ期間を1か月とし、即時解約金も1か月分相当の賃料としており、一つの参考となる。
 媒介業者は、事業用と居住用では解約権留保特約期間が異なり、適切な期間設定が必要であることに留意したい。

参照条文

 民法第90条(公序良俗)
   公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
 民法第420条(賠償額の予定)
   当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
   賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
   違約金は、賠償額の予定と推定する。
 同法第618条(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保)
   当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。
 消費者契約法第9条(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等)
   次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
     当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
     (略)
   (略)
 国土交通省公表・賃貸住宅標準契約書第11条(賃借人からの解約)
   乙(賃借人)は、甲(賃貸人)に対して少なくとも30日前に解約の申入れを行うことにより、本契約を解約することができる。
   前項の規定にかかわらず、乙は、解約申入れの日から 30日分の賃料(本契約の解約後の賃料相当額を含む。)を甲に支払うことにより、解約申入れの日から起算して 30日を経過する日までの間、随時に本契約を解約することができる。

参照判例①

 東京地裁平成19年4月23日 ウエストロー・ジャパン(要旨) 
 民法上、当事者の一方の意思で契約を終了させることができるのは、期間の定めがある場合、解約権を留保する旨の特約を定めた場合である(民法第618条)ところ、本件解約条項本文は賃借人が賃貸借契約を解約しようとするときには、原則として6か月以上前に予告しなければならないとするもので、これは賃貸人に新賃借人を探索する余裕を与えるとともに、現賃借人から6か月分の賃料及び賃料相当額が得られるのであれば、賃借人からの解約を認めても差し支えないとの趣旨であり、本件解約条項但し書きは、本件解約条項本文で解約申入れ期間を6か月とした関係で、賃借人がそれよりも短い期間で契約を解約したい場合について規定したものである。そして、本件解約条項本文によれば、6か月の予告期間内は賃貸借契約が継続していることになるので、本件解約条項本文によるまでもなく、賃貸人は賃借人に対し、賃料の支払を請求しうるところ、予告期間内に賃借人が賃借物を明け渡すなどして賃貸借契約が終了した場合、以後、賃借人は賃貸人に対し賃料支払義務を負わないことになるものの、賃貸人にとっては、賃借人から本件解約条項本文による解約予告がなされた場合、本来なら6か月分の賃料の支払を受けることを期待していたのであるから、その期待を保護する必要がある。そこで、本件解約条項但し書きは、賃貸人の前記期待を保護するとともに、賃借人としても予告期間内の賃料支払は覚悟していたはずであるから、賃借人に、通常、賃貸人が新賃借人を探すのに必要と考えられる合理的期間である6か月分については賃料と合わせて賃料相当損害金を支払うべき義務があることを定めた趣旨と解するのが相当で、その法的性質は、賃借人の解約権の行使により、賃貸人が被る損害賠償額の予定の性質を有するものと解するのが相当であるから、6か月の期間内に賃貸人が新賃借人との間で賃貸借契約を締結したかどうかという事実によって、賃借人が賃貸人に対して負っている合計6か月分の賃料及び賃料相当損害金の支払義務は左右されないというべきである。(中略)
 被告は、4か月分の賃料相当損害金を原告から得て、その期間分については結果的に新賃借人からも賃料を得ていることになるが、本件解約条項の法的性質や賃借人から本件賃借部分の解約申入れがなされた場合、6か月の期間内に新賃借人との間で新規賃貸借契約が成立しない可能性もあって、その場合の危険はすべて賃貸人が負わなければならないことなどの事情に照らして、被告が結果的には、4か月分については二重に賃料等を得ることになったとしても、必ずしも不当とまでは評価し難いというべきである。(中略)
 賃借人は、本件解約条項本文と本件解約条項但し書きは選択的な関係にあるので、賃借人が本件解約条項本文を選択した以上、本件解約条項但し書きの適用の余地はない。また、本件解約条項は空室損失を填補させる趣旨であるところ、本件では賃貸人に空室損失は発生していないので、本件解約条項が適用される余地はないと主張するが、前記認定、判示の本件解約条項の趣旨、法的性質に照らして、賃借人の主張は採用しない。

参照判例②

 東京地裁平成8年8月22日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 解約に至った原因が賃借人会社側にあること、賃借人に有利な異例の契約内容になっている部分があることを考慮しても、約3年2か月分の賃料及び共益費相当額の違約金が請求可能な約定は、賃借人に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから、その効力を全面的に認めることはできず、平成〇年〇月〇日から1年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり、その余の部分は公序良俗に反して無効と解する。

参照判例③

 東京簡裁平成21年2月20日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 本件のような解約予告期間を設定することは賃借人の解約権を制約することは明らかであるが、このような解約予告期間の設定は、民法上にも期間の定めのない建物賃貸借につき3ヶ月間とし、期間の定めのある場合でも期間内に解約する権利を留保したときはこれを準用するとの定めがある(民法第618条)ことからすると、本件契約上の解約予告期間の定めが民法その他の法律の任意規定の適用による場合に比して、消費者の権利を制限し又は義務を加重して、同法第1条第2項の信義則に反し消費者の利益を一方的に害するものとして一律に無効としなければならないものとはいえない。
 しかし、解約予告に代えて支払うべき違約金額の設定は、消費者契約法第9条第1号の「消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項」に当たると解されるので、同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害を超えるものは、当該超える部分につき無効となる。これを本件についてみると、一般の居住用建物の賃貸借契約においては、解約予告期間及び予告に代えて支払うべき違約金額の設定は1ヶ月(30日)分とする例が多数であり、解約後次の入居者を獲得するまでの一般的な所要期間として相当と認められること、及び弁論の全趣旨に照らすと、解約により賃貸人が受けることがある平均的な損害は賃料・共益費の1ヶ月分相当額であると認めるのが相当である。そうすると、賃貸人にこれを超える損害のあることが主張立証されていない本件においては、1ヶ月分を超える違約金額を設定している本件約定は、その超える部分について無効と解すべきである。本件解約が1回目の更新がなされ更新料が支払われた直後である8月上旬にされたこと、契約時に預け入れた保証金(賃料・共益費の1ヶ月分)は解約に伴い償却され賃借人に返還されていないこと等を総合して考えると、解約時における賃貸人、賃借人双方の公平負担の観点からも妥当な結論であると解する。したがって、賃貸人が請求しうる解約予告に代わる違約金額は、賃料・共益費の1ヶ月分の限度と解するのが相当である。

監修者のコメント

 本相談ケースの賃借人の主張である、「新賃借人から受領する4か月分は免除になり、支払う必要はない」というのは、正当ではなく、その理由は、回答の〔理由〕のとおりで、付け加えるべきことはない。
 なお、言うまでもないことであるが、国土交通省公表の「賃貸住宅標準契約書」は、公平の観点から、いわば理想的な内容のものであり、あくまでも参考として提示しているもので、そうでなければならないという性格のものではない。
 なお、【参照判例③】の簡裁の判決は、消費者契約法との関連で一つの参考にはなるが、判決でも述べているように、賃貸人側が、1か月分を超える損害のあることについて主張立証がなされていないのであり、1か月分の損害ということを普遍化することは適切ではないので注意されたい。

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