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2504-R-0287
賃貸人は、入居者が日本国籍でないとの理由で賃貸借契約を拒むことができるか。

 賃貸人と賃借人との間で賃貸借契約の条件が調い、契約締結直前であるが、入居者の国籍が日本でないと知った賃貸人が契約締結をしないと言い出した。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者である。賃貸マンションの賃貸人から、賃借人募集の依頼を受けた。賃貸人は、これまで幾度となく、個人の賃借人との間で賃借人が起因とするトラブルが起きており、今後契約する賃借人は法人を望んでいる。入居者は個人であるが、賃借人が法人であるほうが、入居者と賃貸人または入居者同士の間でトラブルが起こったとしても解決に向けての話し合いがスムーズであると考えている。募集を始めてからほどなくして、借り上げ社宅として従業員を住まわせたい法人が見つかった。当社は、法人担当者と入居者を空き室に案内したところ、賃借する方向で契約条件を協議することになった。当社は、賃借人である法人から会社概要等を入手し、賃貸人に説明したところ、賃貸人もその法人を知っており、信頼できる会社なので賃貸することを決めた。
 当社は、契約条件を賃貸人及び法人に確認し、合意を得たので契約の準備を進めた。契約書案を作成し、賃貸人に説明のため自宅に伺った際、入居者は外国籍である旨を伝えた。賃貸人は、賃貸することを決めていたにもかかわらず、契約締結についてはしばらく考える時間が欲しいと難色を示した。翌日、賃貸人から当社に、入居者が日本国籍の者でなければ賃貸できないと契約を拒む連絡があった。
 当社が賃貸人からは賃貸依頼を受けるときも、契約準備の交渉過程でも、賃借人は法人あることを条件としていたが、入居者が日本国籍の者でなければいけないとの要望は聞いていない。

質 問

1.  賃貸人は、賃貸借契約締結の直前になって、入居者が外国籍であることを理由に契約を拒むことができるか。
2.  賃借人は、契約締結の直前に賃貸人から契約を拒絶された場合、賃貸人に責任を問わせることができるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 国籍や人種により差別することは憲法に抵触するおそれがあり、許されないものと考える。
 質問2.について ― 賃貸人は、契約準備段階における信義則上の義務に違反(契約締結上の過失)し、賃借人が被った損害を賠償する責任が生じる場合がある。
2.  理 由
について
 我が国は1995年に人種差別撤廃条約に加入しており、また、憲法は、すべて国民は、法の下に平等であって、人種等により社会的関係において、差別されない(第14条第1項)と規定され、何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する(同法第22条)と居住の自由が保障されている。また、法令に定めがない限り、いかなる契約も、契約するか否かの判断も契約内容も自由に決定することができる(民法第521条)。いわゆる契約自由の原則がある。
 しかしながら、高齢世帯や障害者等の住宅確保に配慮を要する方々(住宅確保要配慮者)の居住ニーズがあるものの、賃貸人が入居を承諾しないケースが少なからずあることは否めない。このような要配慮者の住宅確保について、国は、賃貸住宅の供給の促進に関する施策の総合的かつ効果的な推進を図っている(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律第1条)。要配慮者については、国土交通省令により外国人も含まれる(同法律施行規則第3条)。
 外国籍であることを理由に賃借人の入居を拒否した賃貸人に対して、「賃貸借契約の拒否は国籍を一つの理由とするもので、憲法の趣旨に反する不合理な差別であり、社会的に許容される限度を超える違法なものというべきである」として、賃貸人に、不法行為による損害賠償(民法第709条)を命じた裁判例がある(【参照判例①】参照)。
について
 我々は、賃貸借契約に限らず、日常生活において、様々な場面で契約行為を行っている。契約は、当事者双方の意思表示が合致することで成立する。前述したように、契約を締結する際は、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうか、また、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる(民法第521条)。個人間の契約については国家による干渉を許さず、個人の意思を尊重すべきであるとの思想に依拠している。これは、契約自由の原則または私的自治の原則として広く知られている。契約自由の原則には、契約締結の自由、相手方を選ぶ自由、内容の自由、方式の事由の4つの自由があるが、公序良俗に反する契約、強行法規や強行規定に反する契約は無効になることがある。一方、契約の交渉段階で確実に契約を締結できるであろうという契約の成立に対する強い信頼を与えたにもかかわらず、当事者の一方が交渉を打ち切った場合、相手方に損害を与えることがある。相手方に損害が発生したときは被った損害を賠償する責任が生ずる場合がある。不動産業界でもよく知られている契約締結上の過失の理論である。
 「取引を開始し契約準備段階に入ったものは、一般市民間における関係とは異なり、信義則の支配する緊密な関係にたち、のちに契約が締結されたか否かを問わず、相互に相手方の人格、財産を害しない信義則上の注意義務を負うものというべきで、これに違反して相手方に損害をおよぼしたときは、契約締結に至らない場合でも、当該契約の実現を目的とする右準備行為当事者間にすでに生じている契約類似の信頼関係に基づく信義則上の責任として、相手方が該契約が有効に成立するものと信じたことによって蒙った損害(いわゆる信頼利益)の損害賠償を認める」と契約に至らなくても、相手方に損害を生じさせたときは、信義則上の責任(民法第1条第2項)があるとして不法行為による損害賠償を認容した最高裁の判例がある(【参照判例②】参照)。
 賃貸借契約の交渉段階で、賃貸人が、入居者が日本国籍ではなかったことを理由に、賃借人の入居を拒否したケースで、「賃貸人は、本件賃貸借契約の成立に向けて準備を行ってきた賃借人に対し、本件賃貸借契約の成立についての強い信頼を与え、客観的にみて、本件賃貸借契約の成立が合理的に期待される段階まで両者の準備が進んでいたにもかかわらず、しかも、合理的な理由がないにもかかわらず、本件賃貸借契約の締結を一方的に拒んだものであって、信義則上、借主が被った損害を賠償する責任を負う」ものとし、「賃借人が本件賃貸借契約の成立により得られるはずの利益相当の損害について認められるものではなく、本件賃貸借契約が成立するとの期待が侵害されたことによる損害について認められる」と契約成立の期待権を侵害したとして契約締結上の過失を認め賃借人の損害賠償請求を認めた裁判例がある(【参照判例③】参照)。
 昨今、我が国では少子化や高齢化率の上昇に伴い生産年齢人口の減少が深刻化している。そのため技能実習生を始めとする在留外国人労働者が増加している。賃貸業界において今後も外国人を当事者とする不動産取引が増大することが予測される。媒介業者は、賃貸借契約において、国籍や要配慮者への差別的な行為は厳に慎むべきであり、また、契約締結上の過失についても留意が必要である。

参照条文

 憲法第14条
   すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
  ・③ (略)
 同法第22条
   何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
   (略)
 民法第1条(基本原則)
   (略)
   権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
   (略)
 同法第521条(契約の締結及び内容の自由)
   何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
   契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
 同法第601条(賃貸借)
   賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 同法第710条(財産以外の損害の賠償)
   他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
 住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律第1条(目的)
   この法律は、住生活基本法の基本理念にのっとり、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関し、国土交通大臣による基本方針の策定、都道府県及び市町村による賃貸住宅供給促進計画の作成、住宅確保要配慮者の円滑な入居を促進するための賃貸住宅の登録制度等について定めることにより、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する施策を総合的かつ効果的に推進し、もって国民生活の安定向上と社会福祉の増進に寄与することを目的とする。
 同法律第2条(目的)
   この法律において「住宅確保要配慮者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
    ・二 (略)
     高齢者
     障害者基本法第2条第1号に規定する障害者
     (略)
     前各号に掲げるもののほか、住宅の確保に特に配慮を要するものとして国土交通省令で定める者
  ・③ (略)
 住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律施行規則第3条
   法第2条第1項第6号の国土交通省令で定める者は、次に掲げる者とする。
     日本の国籍を有しない者
    ~十一 (略)

参照判例①

 大阪高裁平成18年10月5日 出典:大阪府ホームページ「宅地建物取引業と人権」
 2.人権問題の実態 (3)訴訟になった事例
 外国籍夫妻が、国籍を理由に家主から入居拒否される事件がありました。これについて、裁判所は「外国籍であることを入居拒否の理由にしており差別に当たる」として、家主に対して、損害賠償等の支払いを命じました。宅建業者への損害賠償請求については、「宅建業者は契約成立のために家主の説得を試みている」と認定し、「誠実に業務を遂行した」として棄却しました。この事件の控訴審において、大阪高裁は「賃貸借契約の拒否は国籍を一つの理由とするもので、憲法第14条1項の趣旨に反する不合理な差別であり、社会的に許容される限度を超える違法なものというべきである。」と判示し、一審判決を追認しました。

参照判例②

 最高裁昭和59年9月18日 判タ542号201頁(要旨)
 取引を開始し契約準備段階に入ったものは、一般市民間における関係とは異なり、信義則の支配する緊密な関係にたつのであるから、のちに契約が締結されたか否かを問わず、相互に相手方の人格、財産を害しない信義則上の注意義務を負うものというべきで、これに違反して相手方に損害をおよぼしたときは、契約締結に至らない場合でも、当該契約の実現を目的とする右準備行為当事者間にすでに生じている契約類似の信頼関係に基づく信義則上の責任として、相手方が該契約が有効に成立するものと信じたことによって蒙った損害(いわゆる信頼利益)の損害賠償を認めるのが相当である。

参照判例③

 京都地裁平成19年10月2日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 本件物件の賃貸借契約の借主(会社)が仲介業者を通じて貸主に対して本件契約書と本件必要書類を提出したが、最終審査の段階で、貸主が本件物件を借主に賃貸しないこととして本件契約書の賃貸人の名下に押印をしなかったため本件契約書が完成していないのであるから、本件賃貸借契約が成立していないことは明らかである。(中略)
 貸主は、入居者が日本国籍ではなかったことを理由に、本件物件を借主に賃貸しなかったものと認められる。借主らは、貸主が本件物件を賃貸しなかったのは、入居者が韓国籍であったからであると主張するが、貸主が、様々な国籍が考えられる中で、殊更韓国籍であることを理由に本件物件を借主に賃貸しなかったことを認めるに足りる証拠はない。(中略)
 仲介会社は、貸主の了解を得て延期した〇月〇日(入居予定日の前日)、本件契約書を完成させて本件賃貸借契約を締結する段階に至って、借主に対して十分な説明を行うことなく、一方的に本件賃貸借契約の締結を拒み、しかも、本件賃貸借契約の締結を拒むについて何ら合理的な理由がなかったのであるから、貸主は、本件賃貸借契約の成立に向けて準備を行ってきた借主に対し、本件賃貸借契約の成立についての強い信頼を与え、客観的にみて、本件賃貸借契約の成立が合理的に期待される段階まで両者の準備が進んでいたにもかかわらず、しかも、合理的な理由がないにもかかわらず、本件賃貸借契約の締結を一方的に拒んだものであって、信義則上、借主が被った損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。(中略)
 借主らは、仲介業者として、賃借人を法人とする賃貸マンション(本件物件)の賃貸借契約の締結を仲介するにあたり、入居予定者の国籍を確認し、入居予定者が日本国籍を有していなかった場合には、上記賃貸マンションの所有者(賃貸人)が国籍を理由に入居を拒む意思を有しているか事前に確認すべき注意義務を負っていたと主張するけれども、当事者(借主と仲介会社)が特約を設けた場合は格別、そうでない限り、仲介業者は、そのような注意義務を負わないものと解するのが相当である。賃貸マンションの所有者が、もっぱら入居申込者の国籍を理由に賃貸借契約の締結を拒むことは、およそ許されないからである。(中略)
 貸主が前判示のとおり信義則に基づき借主に対して負う損害賠償責任は、借主が本件賃貸借契約の成立により得られるはずの利益相当の損害について認められるものではなく、本件賃貸借契約が成立するとの期待が侵害されたことによる損害について認められるものと解するのが相当である。
 ※同様の裁判例  大阪地裁平成5年6月18日 判時1468号122頁

監修者のコメント

 近年、高齢者、障害者や性的マイノリティの人のほか、外国人に対する入居拒否の問題がクローズ・アップされている。日本に在留する外国人は、令和5年末現在で、すでに340万人を超えており、今後、本相談ケースのような問題が増えるものと予想される。
 本相談についての結論は、〔回答〕と〔理由〕のとおりで異論を差しはさむ余地はない。貸主の中には、自分の所有物を誰に貸すかは自由のはずで、それが契約自由の原則ではないかと考える人もいるが、回答の〔理由〕欄に詳述されている現在の社会の趨勢を理解されていない思考と言わざるを得ない。外国人の入居を嫌う家主の中には、「共同生活秩序を乱す」「ルールを守らない」とか「家賃滞納をして夜逃げされたらどうしようもない」という言い分がよくみられるが、それは外国人だから当然にそうなるのではない。その割合が大きいという実態があるとしても、そういう外国人でも我慢しろと社会や関係機関が言っているのではない。裁判例でも、「外国人」という理由のみで入居を拒否するのは不当な差別だと言っているにすぎない。日本語をまったく解せない外国人も無条件で入居させよとは行政機関や裁判所も言っているわけではない。合理的な入居条件は許容される。裁判において、貸主側が敗訴している事例の多くは、入居者が日本に在留している、日本語も日本人同様にできるにもかかわら、単に「外国籍」だからという理由のみで、入居を拒否した事例である。

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