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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
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また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

2402-R-0274
退去時のハウスクリーニング費用を賃借人負担とすることの妥当性と賃貸人の賃借人に対する実施報告の要否

 賃貸借契約に従い、退去した賃借人の敷金からハウスクリーニング費用を差し引いて残額を返還したが、自然損耗を賃借人負担とするのは不当である、仮に妥当だとしてもクリーニングを実施したことを、賃貸人は賃借人に報告すべきであるとトラブルになっている。

事実関係

 当社は、賃貸借の媒介兼管理業者である。当社が管理している賃貸マンションに家族3人で4年間入居した賃借人が退去した。退去にあたり、当社は、賃貸人、賃借人とともに退去の立ち会いをした。室内を点検したが、自然損耗によるクロスや床の汚れ等が若干あったものの、比較的丁寧に使用していたとみられる。賃借人及び家族による故意や過失による毀損もなく、立会いは順調に終了した。当社は、賃貸人が賃借人に対し、賃貸借契約で約定した退去時の賃借人負担であるハウスクリーニング費用を敷金から差し引いた残額を1週間後に返還する旨を伝えた。賃貸人も期日までに賃借人の銀行口座に振り込むことを約束した。
 翌日、賃借人が当社に対し、契約書にハウスクリーニング費用を賃借人が負担する旨の特約はあるが、退去時に床は掃除機をかけ、クロス等は水拭きをしており、清掃すべき目立った塵埃(注)はなく、残っている汚れ等は自然損耗であり、ハウスクリーニング費用を負担すべき義務はないと言ってきた。また、賃借人が負担する場合でも、賃貸人は、清掃内容及び完了を賃借人に報告するよう要求してきた。
 賃貸借契約書の特約に、退去時のハウスクリーニング費用を賃借人負担とし、月額賃料の約30%相当の適正な概算費用を明記してあるが、その他の賃借人が負担すべき原状回復費用の約定はない。当社は、重要事項説明および賃貸借契約書締結の際、賃借人に対し、読み合わせだけでなく十分な説明をしたと認識している。賃借人からの特段の質問や異議等はなかった。
 ※(注)塵埃(じんあい)=ちり・ほこり(細かい粒子状のもの)

質 問

1.  自然損耗や経年劣化と考えられる汚損等をハウスクリーニングする費用を賃借人負担とする特約は無効か。
2.  賃借人退去時のハウスクリーニング費用を賃借人負担とする特約が有効であるとした場合、賃貸人が行ったハウスクリーニングの実施状況や内容を賃借人に報告する義務があるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 賃貸借契約書でハウスクリーニング費用を賃借人負担とする特約は、明確な合意がなされていると認められ、かつ妥当な金額であれば、有効である。
 質問2.について ― 賃貸人と賃借人との間でハウスクリーニングの実施を報告する旨の約定をしていない限り、賃貸人が賃借人に報告する義務はない。
2.  理 由
について
 賃借人の通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除き、賃借人が賃借物を受け取った後にこれに賃借人の故意・過失により生じさせた損傷がある場合、賃貸借が終了したときは、賃借人は、その損傷を原状に復する義務を負う(民法第621条)。ハウスクリーニングを要する通常使用の汚れや塵埃は自然損耗として解釈され、賃貸人負担でハウスクリーニングを実施するのが原則であり、自然損耗の原状回復費用は、賃料の中に含まれていると考えられている。
 しかしながら、「ハウスクリーニング費用を契約書特約で賃借人負担とする明確な合意を賃貸人と約定していれば、賃借人が費用負担する約定は有効」である(【参照判例①】参照)。ハウスクリーニング費用を賃借人に負担させることは、賃貸人が賃料に含まれる自然損耗の原状回復費用とハウスクリーニング費用を賃貸人が預かった敷金から差し引くのは、賃借人の原状回復費用の二重の負担ではないかが争点になった裁判例で、「ハウスクリーニングによって回復される通常損耗については、その補修費用を賃料の中に含ませてその支払を受けることによって費用の回収が行われるものではなく、賃料に含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当」として、賃料と通常損耗の補修費用の二重負担を否認している。また、賃借人の負担するハウスクリーニング費用が妥当な金額であれば、「信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるとは認められず、消費者契約法第10条により無効となるものではない」と同法に抵触しないとしている(【参照判例①】参照)。
 賃借人にクリーニング費用等を負わせるには、賃貸借契約の特約で賃貸人と賃借人との間で明確な合意を得ておく必要がある。賃借人がハウスクリーニング費用負担をする約定に加え、負担する費用を明記しておくことが後日の紛争防止になる。費用が明記されていない特約も有効であるが、賃借人の負担する金額が、建物面積等に即して通常の費用であるか、妥当であるかが、特約の有効性の判断要素となる。賃借人が負担する費用が示されず約定した賃借人の原状回復費用負担が認められなかった裁判例もある。特約を約定したからと言ってすべての特約が認められるわけではないことに留意が必要である(【参照判例②】参照)。
 国土交通省公表の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、賃借人に特別の負担を課す特約の要件として、①特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること。②賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること。③賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていることの3点を挙げている。加えて、同ガイドラインQ&Aに「クリーニング特約については①賃借人が負担すべき内容・範囲が示されているか、②本来 賃借人負担とならない通常損耗分についても負担させるという趣旨及び負担することになる通常損耗の具体的範囲が明記されているかあるいは口頭で説明されているか、③費用として妥当か等の点から有効・無効が判断されます。」としている(「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」参照)。
 媒介業者は、賃貸借契約においてハウスクリーニング費用等を賃借人に負わせる約定をする場合は、上記を参考に賃借人の明確な合意が必要であることを銘記したい。
について
 賃貸人が、ハウスクリーニングを実施したことを賃借人に対し報告する義務があるか否かについて、「契約書上その実施状況を賃借人に報告すべきことを定めた条項は存在しておらず、賃貸人において当然に当該報告義務を負うものではない」と特段、報告義務を定めていない限り報告は不要であり、「本件特約の存在を前提に新賃借人ないし所有者が本件建物での居住を開始することを考えた場合、賃借人の退去後にハウスクリーニングが実施されないという事態は想定し難いから、賃借人が退去後の居室内のクリーニングの実施状況を確認する必要性は乏しい」と賃借人が退去した後は、新賃借人が入居するか、賃貸人が使用するかにかかわらず、常識的にハウスクリーニングをするのが一般的であり、ことさら報告する義務はないと判示している(【参照判例①】参照)。

参照条文

 民法第621条(賃借人の原状回復義務)
   賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
 同法第622条の2(敷金)
   賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
     賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
     賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
   賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
   故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
   消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版)」

【賃借人に特別の負担を課す特約の要件】
   消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
   特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
   賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
   賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
<同ガイドラインのQ&A>
   Q16:賃貸借契約にクリーニング特約が付いていたために、契約が終了して退去する際に一定の金 額を敷金から差し引かれました。このような特約は有効ですか。
 A:クリーニング特約については①賃借人が負担すべき内容・範囲が示されているか、②本来 賃借人負担とならない通常損耗分についても負担させるという趣旨及び負担することになる通常損耗の具体的範囲が明記されているかあるいは口頭で説明されているか、③費用として妥当か等の点から有効・無効が判断されます。クリーニングに関する特約についてもいろいろなケースがあり、修繕・交換等と含めて クリーニングに関する費用負担を義務付けるケースもあれば、クリーニングの費用に限定して借主負担であることを定めているケースがあります。後者についても具体的な金額を記載しているものもあれば、そうでないものもありますーニング特約の有効性を認めたものとしては、契約の締結にあたって特約の内容が 説明されていたこと等を踏まえ「契約終了時に、本件貸室の汚損の有無及び程度を問わず専門業者による清掃を実施し、その費用として2万5000円(消費税別)を負担する旨の特約が明確に合意されている」と判断されたもの(東京地方裁判所判決平成21年9月18日)があり、本件については借主にとっては退去時に通常の清掃を免れる面もあることやその金額も月額賃料の半額以下であること、専門業者による清掃費用として相応な範囲のものであることを理由に消費者契約法10条にも違反しないと判断しました。他方、(畳の表替え等や)「ルームクリーニングに要する費用は賃借人が負担する」旨の特約は、一般的な原状回復 義務について定めたものであり、通常損耗等についてまで賃借人に原状回復義務を認める特約を定めたものとは言えないと判断したもの(東京地方裁判所判決平成21年1月16日)もあり、クリーニング特約が有効とされない場合もあることに留意が必要です。

参照判例①

 東京地裁令和3年11月1日 ウエストロー・ジャパン(要旨) 
 賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務があるところ、賃借物件の損耗の発生は、賃貸借契約の本質上当然に予定されているものであるから、賃借人は、特約のない限り、通常損耗についての原状回復義務を負わない。そうすると、本件特約は、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものというべきである。
 しかしながら、本件特約においては、敷金から控除されるハウスクリーニング費用の金額について本件契約書に明示されており、賃借人は、賃料の額に加え、本件特約によって敷金から控除されることによって自身が契約終了時に負担する額についても明確に認識した上で契約を締結することになるのであって、賃借人は賃貸人との間でハウスクリーニング費用として負担する額について明確に合意している。そのような場合、上記ハウスクリーニングによって回復される通常損耗については、その補修費用を賃料の中に含ませてその支払を受けることによって費用の回収が行われるものではなく、賃料に含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって、本件特約によって賃借人が上記の通常損耗に係る原状回復費用を二重に負担することになるとはいえない。また、本件特約によって敷金から控除されるハウスクリーニング費用の金額は、本件賃貸借契約に係る賃料の額や本件建物の専有面積、賃借人における本件建物の居住期間に照らしても、通常想定される額に照らして高額に過ぎるものとは認め難い。
 そうすると、本件特約が、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるとは認められず、消費者契約法10条により無効となるものではない(最高裁平成23年3月24日)。(中略)
 ハウスクリーニングの実施状況に係る問い合わせ等に関しては、本件契約書上その実施状況を賃借人に報告すべきことを定めた条項は存在しておらず、賃貸人において当然に当該報告義務を負うものではなく、また、本件特約上、賃借人が負担すべき費用は固定の金額となっている上に、本件特約の存在を前提に新賃借人ないし所有者が本件建物での居住を開始することを考えた場合、賃借人の退去後にハウスクリーニングが実施されないという事態は想定し難いから、賃借人が退去後の居室内のクリーニングの実施状況を確認する必要性は乏しいものと考えられる。これらのことからすると、賃貸人において、ハウスクリーニング費用を敷金から控除するためには本件特約を合意したこと及び退去後にハウスクリーニングを実施したことをもって足り、ハウスクリーニングの実施結果を賃借人に報告することはその要件には当たらないというべきである。
 本件では、賃借人は本件特約を明確に合意している上に、賃借人の退去後に本件建物のハウスクリーニングが実施されているのであるから、それらのことをもって、賃貸人は、本件特約において合意したハウスクリーニング費用を敷金から控除することができるのであって、これに加えて、賃借人に対しハウスクリーニングの実施結果を報告することや改めて賃借人との間でハウスクリーニング費用の負担やその額について合意することが必要となるものではない。
 以上によれば、賃貸人の行ったハウスクリーニングの実施状況に関する対応や敷金からの同費用の控除は、賃借人の賃借人としての権利又は法律上保護される利益を違法に侵害するものではなく、不法行為は成立しない。

参照判例②

 東京地裁平成21年1月16日 ウエストロー・ジャパン(要旨) 
 賃借人は、本件賃貸借契約締結時において、原状回復に関する費用の単価表もなかったので、賃貸人が抗弁として主張する畳、網戸、床及び清掃に係る費用負担を明確に認識し、これを合意の内容としたことまでを認定することはできない。
 してみると、本件賃貸借契約においては、賃貸人主張の本件規定による通常損耗補修特約が合意されているものということはできないというべきである。

監修者のコメント

 賃借物件についての自然損耗や経年劣化については、賃借人は原状回復義務を負わないというのは、かねてからの通説・判例であったが、令和2年4月1日施行の民法改正では、そのことが明文化された(民法第621条)。しかし、実務の現場では、床、壁、天井などの損耗がそもそも、自然損耗、経年劣化なのか、賃借人の使用に問題があったからなのか、争いとなることも多いため、その紛争を未然に抑制するため、とにもかくにも、ハウスクリーニングを行うこととし、その費用を賃借人の負担とすることを予め合意しておくことも多い。その有効性と有効となるための要件については、「回答」のとおりであり付け加えるべきことはない。回答及び参照判例①の考え方が、現在では一般的と考えてよい。
 なお、参照判例①の東京地裁の判決理由中に、「消費者契約法10条により無効となるものではない(最高裁平成23年3月24日)。」という部分があるが、その最高裁の判決は、賃貸借における敷引特約の有効・無効を判断するに当たって敷引金の額が、高額に過ぎる場合でなければ、敷引特約が消費者の利益を一方的に害するものとはいえず、消費者契約法第10条により無効となるものではないと説示した論法を引用したものであり、当該最高裁判決は、ハウスクリーニング費用の賃借人負担を対象としたものではないことを付言しておきたい。
 また、稀な事例であるが、そもそも初めからハウスクリーニングをするつもりがないのに賃借人にその費用を負担させたり、返還すべき敷金から控除したりするのは、刑法上の詐欺利得罪(第246条第2項)になるので論外である。
 さらに、国土交通省策定の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、その内容において、極めて公平かつ妥当なものであるので、積極的に規範として取り入れるべきと考えるが、世上、しばしばその性格を誤解して、「この特約は、国の作成したガイドラインに反しているから無効だ」などという主張が見受けられるが、その性格は、ガイドライン自ら認めているように、あくまでもガイドラインであって、民事上の合意を制約する法的拘束力を有するものでないことを改めて強調しておきたい。

当センターでは、不動産取引に関するご相談を
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相談内容:不動産取引に関する相談(消費者、不動産業者等のご相談に応じます)

<ご注意>
◎ たいへん多くの方からご相談を受け付けており、通話中の場合があります。ご了承ください。
◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

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