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2310-B-0326
売却依頼者への購入申込みの報告義務

 売主から自宅売却価格の最低額を明示されていたため、明示額を下回る購入希望顧客の申込みをすぐには報告しなかった。後日、売主から、希望価格を下回る価格でも申込みがあったのであれば、売却を検討したと言われた。

事実関係

 当社は、売買の媒介業者である。当社は、築10年の一戸建ての自宅売却依頼を受け、依頼者と専任媒介契約を締結した。売主は、転居先のマンションを住宅ローンを利用して購入し、既に入居している。売主は、定年が迫っており、自宅売却後は、売却資金で新居の住宅ローンを一部繰上げ返済し、融資残額を少しでも減らして老後に備えたい意向がある。売却物件の住宅ローンは完済しているが、老後資金に備え、売出価格(媒介価格)の3,600万円に対し、売却価格は最低限3,500万円を確保したい希望がある。そのため、購入検討者の購入希望額が3,500万円未満であれば契約はしないと言っていた。
 当社がレインズに物件登録して1か月経過したころ、他業者の購入顧客による内見があり、物件を気に入った顧客は、客付業者に対し、3,400万円であれば購入したい意向を示した。客付業者は、顧客から購入希望価格3,400万円と記載された購入申込書を取得し、当社に連絡してきた。しかし、当社は、売主の売却希望価格が3,500万円以上であるので、売主は3,400万円では契約しない旨を客付業者に告げ、顧客の購入希望価格が3,500万円以上にならないかの交渉を依頼した。数日後、顧客と交渉した客付業者は、顧客の資金計画により、3,500万円での購入は難しいとの回答であったため、当社の判断でこの顧客との契約は見送った。
 当社は、10日後に、売主への2週間ごとの業務処理状況の報告書に他業者からの問合せ状況に加えて、他業者の内見があったが、その顧客の購入希望価格が売主の条件に至らなかったので契約締結を断った旨も記載して報告した。すると、報告書を確認した売主から、売却希望金額を下回った購入顧客がいるのであれば、事前に相談してくれれば検討し、交渉に応じる可能性があったとの連絡があった。当社は、客付業者に売主に価格交渉の余地があることを伝えたが、内見した顧客は、既に、他の物件で契約予定だった

質 問

 売却依頼者が売却最低金額を示していた場合、その金額を下回った金額を提示した購入希望顧客が現れたときに、媒介業者は、遅滞なくその旨を依頼者に報告する義務があるか。

回 答

1.  結 論
 媒介業者は、購入希望者が文書で購入意思を示したときは、購入希望金額にかかわらず、遅滞なく、依頼者に報告する義務がある。
2.  理 由
 「宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない」と宅建業者の業務処理原則が定められている(宅地建物取引業法第31条)。媒介業務において、「当該媒介契約の目的物である宅地又は建物の売買又は交換の申込みがあつたときは、遅滞なく、その旨を依頼者に報告しなければならない」(同法第34条の2第8項)と媒介業者の依頼者への報告義務が規定されている。報告は、専任及び専属専任媒介契約書に約定されている業務処理状況の報告(同法第34条の2第9項)で済ますのではなく、購入申込書等の文書で購入意思が提示される都度、遅滞なく報告しなければならない。相談ケースのように依頼者から売却最低価格の提示を受けていたり、依頼者の申出により最低価格以下の購入申込みは報告をしないでもよいと言われていた場合、媒介業者が依頼者の言葉どおりに報告をしなくてもよいか迷うこともあろうが、媒介業者は、依頼者に報告すべき義務がある。
 依頼者である売主は、少しでも高い金額で売却されるのを望むのは当然であるが、一義的な目的は「売却する」ことであり、媒介業者は、購入希望者が購入の意思を示したときは依頼者に報告するとともに、成約に向けての価格交渉を心掛ける必要がある。媒介業務において、媒介業者は「目的物件を売買すべき価額又は評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない」(同法第34条の2第2項)とされている。依頼されている物件の売却を実現するためには、媒介契約締結時に合理的根拠に基づく査定金額を示し、売却可能金額の助言をすることはいうまでもないが、販売の過程や具体的な購入申込時に、媒介金額である売主の売却希望価格が相場に比べて乖離があるときは、相場や市場の流通性である需給状況等を依頼者に十分に理解させ、売却の方向付けを示す役割を担っている。
 媒介業者には依頼者の売却「希望価格」に拘束されずに、申込みがあった都度、依頼者への報告義務があるといえる。購入希望者から購入の意思が明確に示された文書による申込みがあったときは、「依頼者の希望条件を満たさない申込みの場合等であっても、その都度報告する必要がある」と媒介価格や依頼者の売却希望価格を下回っている場合でも媒介業者は依頼者に報告する義務がある(国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」第34条の2関係6標準媒介契約約款について(3)①ロ)。売却するか否か、売却価格の判断は、売却依頼者が行うものであり、媒介業者が購入申込みを報告するかしないかを判断するのでなく、必ず依頼者に報告し、判断を求める必要がある。なお、媒介契約の依頼者に対する報告義務は、専属専任媒介契約、専任媒介契約だけでなく、一般媒介契約につても同様に報告義務があることに留意したい(標準媒介契約約款)。

参照条文

 宅地建物取引業法第31条(宅地建物取引業者の業務処理の原則)
   宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない。
   (略)
 同法第34条の2(媒介契約)
   (略)
   宅地建物取引業者は、前項第2号の価額又は評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない。
  〜⑦ (略)
   媒介契約を締結した宅地建物取引業者は、当該媒介契約の目的物である宅地又は建物の売買又は交換の申込みがあつたときは、遅滞なく、その旨を依頼者に報告しなければならない。
   専任媒介契約を締結した宅地建物取引業者は、前項に定めるもののほか、依頼者に対し、当該専任媒介契約に係る業務の処理状況を2週間に1回以上(依頼者が当該宅地建物取引業者が探索した相手方以外の者と売買又は交換の契約を締結することができない旨の特約を含む専任媒介契約にあっては、1週間に1回以上)報告しなければならない。
  〜⑫ (略)
 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方
   第34条の2関係(6 標準媒介契約約款について)
   (3) 標準媒介契約約款の運用について
   宅地建物取引業者の成約に向けての義務について専属専任媒介契約及び専任媒介契約の依頼を受けた場合には、成約へ向けて積極的に努力するに当たって、具体的に行う措置(指定流通機構への登録のほか、広告、他の宅地建物取引業者との連携等)を依頼者に明示することとする。
     業務処理状況の報告について報告すべき事項は、宅地建物取引業者が契約の相手方を探索するために行った措置(指定流通機構への依頼物件の登録、広告等)、引き合いの状況等とする。
     売買又は交換の申込みがあったときの報告について購入申込書等の売買又は交換の意思が明確に示された文書等による申込みがあったときは、依頼者に対して遅滞なく、その旨を報告することとする。依頼者の希望条件を満たさない申込みの場合等であっても、その都度報告する必要がある。
 (以下省略)
 専任媒介契約約款第4条(専属専任媒介契約約款第4条、一般媒介契約約款第5条)
   (宅地建物取引業者の義務等)
     乙(宅地建物取引業者)は、次の事項を履行する義務を負います。
    ・二 (略)
     目的物件の売買又は交換の申込みがあったときは、甲(依頼者)に対して、遅滞なく、その旨を報告すること
 (以下省略)

監修者のコメント

 申込みがあったときの依頼者への報告義務の規定(業法第34条の2第8項)は、平成29年4月1日施行の改正時に新設されたものであるが、その改正のキッカケは、いわゆる「囲い込み」の排除であった。すなわち、元付業者が仲介手数料の両手取りにしたいため、客付けの他業者の申込みを断ってしまうという、いわば売主に対する背信行為を抑止するためであった。そのことだけを考えると本ケースのような場合は、報告義務の対象外と考えてもよさそうであるが、回答にあるように依頼者の利益を保護すべき媒介業者としては、やはり依頼者に事実を報告すべきである。ガイドラインがその趣旨を明言しているのは、解釈として当然である。
 もっとも、民事的観点からみて、報告しなかったことが、債務不履行ないし不法行為になるかは、一概にはいえないであろう。なぜなら、依頼者の売却最低価格の設定意思もケースによって、ニュアンスが異なるからである。依頼者の最低限〇〇万円を確保したいという申出が、「一応〇〇万円以上は、確保したい」という場合と「絶対〇〇万円以上でなければ相手にしない」という場合とでは、業者の対応も異なってしかりであり、後者の場合に希望金額より、はるかに低い金額の申込みについては報告しなかったとしても、報告義務違反の違法性はかなり低いとみてよいと考えられる。ただ、その場合でも宅建業法違反であることは間違いない。

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