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2310-R-0270
建物賃貸借契約における鍵の引渡しは契約成立の要件か。

 建物賃貸借契約を締結した賃借人から契約のキャンセルを申し入れてきた。賃借人は、契約時に鍵の引き渡を受けていないので、契約は成立しておらずキャンセルが可能であると主張している。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者である。賃貸人から賃貸マンションの媒介依頼を受け不動産物件サイトに掲載して問い合わせのあった賃借人を案内の上、契約条件に合意したので賃貸借契約締結に至った。契約内容は、契約締結日の2週間後を入居日とし賃貸借期間及び賃料発生の始期は入居日と同日で、賃貸期間を2年とした。賃貸借契約は、賃貸人、賃借人が同席して締結したが、入居日までに時間があるため、当社が賃貸人から預かっている部屋の鍵は契約締結時には渡さず、入居日の前日に渡すことになった。賃借人は、入居予定の前日までに鍵を受け取りに来ないため、当社から連絡したが、入居予定前日も当日も連絡が取れなかった。当社は、賃借人の何らかの事情で入居予定日が変更になったと判断し、連絡を待つことにした。
 賃貸借契約の始期である入居予定日から1週間後、賃借人から当社宛に解約合意書が郵送されてきた。当社は、賃借人に連絡し、面談したところ、賃借人は、締結した賃貸借契約をキャンセルするという。賃借人は、契約のキャンセル(白紙解約)に伴い、契約締結時に賃貸人に支払った1か月分の前家賃・共益費、賃料2か月相当の敷金及び当社に支払った賃料1か月相当の仲介手数料の返還を求めてきた。
 当社は、賃借人に対し、契約を締結しており契約書の約定した中途解約に該当し、白紙解除はできない旨を説明した。敷金は返還できるが、前家賃は返還できず、更に賃貸借契約書で約定している中途解約条項による賃料1か月相当の即時解約金を賃貸人に支払う必要があること、当社が受領した仲介手数料は契約が成立しており、返還できない旨を伝えた。
 賃借人は、部屋の鍵を受け取っていない限り、物件の引渡しは受けておらず、契約は成立しておらず、キャンセルが可能であると主張している。

質 問

 賃借人が、賃貸人との間の賃貸借契約を締結していても、鍵を受領していなければ賃貸物の引渡しを受けていないと判断され、契約は成立していないといえるのか。

回 答

1.  結 論
 鍵の引き渡しの有無にかかわらず、賃貸人と賃借人が賃貸借契約を締結(署名捺印)した時点で契約は成立している。契約成立後に賃借人はキャンセル(契約の白紙解除)ができず、約定に基づく契約解除になる。
2.  理 由
 契約の類型は、要物契約と諾成契約がある。各契約の成立には当事者の合意が必要だが、要物契約は、当事者の合意のほか、物の引渡しなどの給付があって初めて成立する。賃貸借契約は諾成契約であり、物の引渡しなどの給付は要件ではなく、当事者の合意のみにより契約が成立する。書面によるか否かにかかわらず、口頭によるものも契約は成立する。民法改正(令和2年4月施行)によって、消費貸借(書面によるもの)、使用貸借、寄託の契約は諾成契約に改められ、消費貸借契約のうち書面によらないもののみが要物契約とされている。賃貸借契約は、従来から諾成契約とされ(民法第601条)、裁判例でも「賃貸人が本件建物を賃借人に住居として使用させることを約し、賃借人がこれに対して賃料を支払うことを約することを内容とする本件契約書に記名又は署名及び押印をしてこれを取り交わしているのであって、その旨合意していたことが明らかであるから、本件賃貸借契約は、その時点において成立したと認められる」としている(【参照判例】参照)。また、当該裁判例では、いくつかの契約条件が成就されていなかったことを理由に契約の成立を否定した賃借人の主張に対し、「賃借人は、①アパート保険の契約が未締結であったこと、②入居日が決まっていなかったこと、③鍵を受け取っていなかったこと、及び、④本件建物の掃除・リフォームがされていなかったことを根拠として、本件賃貸借契約が成立していないと主張するが、いずれの点も賃貸借契約の成立要件には当たらないことが明らかであって、これらの事実が本件賃貸借契約の条件とされていた旨の主張・立証もないから、主張自体失当である(なお、入居予定日は本件契約書に明記されており、決定されていたことが明らかである)」とし、鍵の引渡しは契約成立の要件でないことを判示している(【参照判例】参照)。
 賃貸借契約を締結することにより、賃借人は、特段の事情がない限り、契約行為を取りやめるには、約定に従って契約解除するしかない。白紙解除が認められるのは、契約行為が無効の場合であり、契約そのものの成立がなかったものとされる。キャンセルは、入居申込後、契約締結に至らないまでの間に、申込自体を取りやめることである。媒介業者は、賃貸借契約の際に、賃借人に、キャンセルや契約解除について十分説明しておく必要があろう。通常の契約解除の場合、賃借人は、約定に従って、即時解約のときは、解約通知期間に相当する賃料相当額や短期解約違約金の定めがあれば約定金額を賃貸人に支払う義務がある。契約成立に伴い賃借人が媒介業者に支払った媒介報酬も、原則、返還されることはない。
 建物の賃貸借契約の多くは、契約締結日が契約開始日となり、開始日から賃借人の賃料が発生し、同時に鍵の引渡しが行われる。しかし、新築物件が契約時点では建築中のときは、建物完成後に入居可能日とし賃料発生は入居可能日以降とするのが通常である。また、大学等の推薦入学が早期に決まることがあり、入居者が賃貸物件を確保するため、入学時期の4月より早い段階、場合により前年の12月に契約を締結し、契約開始日(賃料発生)及び入居日を4月に設定することが増えている。賃貸人の契約条件により契約締結日を開始日にすることが多いが、現賃借人が入居中で退去前であれば開始日を退去後にするため契約締結日から2~3か月の期間を置くことも通常であろう。契約締結日と開始日が異なるときの鍵の受け渡しは開始日(入居日)の直前になることが一般的である。賃借人は契約締結したにもかかわらず、他の物件を気にいった(賃料が安い、立地や間取り等の条件がよいなど)との理由で開始日以前にキャンセルを望む場合がある。媒介業者は、契約開始日が契約日と間隔があるときは、万一、賃借人が入居を取りやめるときは契約条項に従って解除の手続をしなければならないことや賃貸人に支払った金額の一部(敷金等)を除き、全額が返還されず、違約金等の支払いが約定していれば、支払う必要があること及び媒介業者に支払済みの報酬額は返還されない旨を説明しておく必要があろう。

参照条文

 民法第601条(賃貸借)
   賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第620条(賃貸借の解除の効力)
   賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。

参照判例

 東京地裁平成29年4月11日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 賃貸借契約は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって成立する諾成契約であるところ(民法第601条)、賃借人と賃貸人は、平成〇〇年6月15日に、賃貸人が本件建物を賃借人に住居として使用させることを約し、賃借人がこれに対して賃料を支払うことを約することを内容とする本件契約書に記名又は署名及び押印をしてこれを取り交わしているのであって、その旨合意していたことが明らかであるから、本件賃貸借契約は、その時点において成立したと認められる。賃借人は、賃貸人に宛てて同年7月8日付で、「平成〇〇年6月30日から始まる契約をキャンセルとする。」と記載した「解約合意書」を送付しているが、これは既に開始していた契約を問題とするものであって契約が成立していることを前提とするものであるから、賃借人自身も、本件賃貸借契約が成立していると認識していたものと考えられる。
 この点について、賃借人は、①アパート保険の契約が未締結であったこと、②入居日が決まっていなかったこと、③鍵を受け取っていなかったこと、及び、④本件建物の掃除・リフォームがされていなかったことを根拠として、本件賃貸借契約が成立していないと主張するが、いずれの点も賃貸借契約の成立要件には当たらないことが明らかであって、これらの事実が本件賃貸借契約の条件とされていた旨の主張・立証もないから、主張自体失当である(なお、入居予定日は本件契約書に明記されており、決定されていたことが明らかである。)。

監修者のコメント

 賃貸借契約に限らず、契約の解釈については、種々見解が分かれ、通説、多数説、少数説などが存在する領域があり、また裁判例も分かれることがある。しかし、本ケースの賃貸借契約の成立に鍵の引渡しが必要という見解は、学説でも裁判例でも聴いたことがない。鍵の引渡しは、成立した契約上の賃貸人の「契約の履行」である。
 ただ、本ケースの賃借人の主張が、分かっているのに、こじつけた不当な主張かどうかは不明であるが、プロである宅建業者からみれば一笑に付すような主張でも、素人として真剣にそう思っているということがあるので、そういうことにならないように回答にあるような宅建業者の対応が望まれる。

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