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2202-R-0244
建物賃貸借契約におけるネズミ駆除の費用負担の帰属

 管理しているビルの入居者から室内にネズミの侵入があり、駆除をしてほしいとの要望がきている。しかし、貸主は、駆除しなければならない義務はないと主張している。ネズミの駆除等にかかる費用は、賃貸人と賃借人のどちらが負担しなければいけないのか。

事実関係

 当社は賃貸媒介と管理を行う宅建業者であるが、当社が管理している、ある店舗・居住用賃貸ビルの入居者複数人から、最近、室内にネズミが出るので駆除してほしいとの連絡があった。貸主の了解を得てネズミ駆除業者に調査・点検を依頼したところ、駆除業者の見立てでは、ビルの前の道路を隔てて向かい側にあった築古の一戸建住宅の取壊しにより、そこに棲んでいたネズミがビル内に侵入したのではないかとのことだった。また、駆除業者がビルを点検したところ、ネズミの侵入口や巣は発見されず、各戸のエアコン穴等の隙間から入り込んだと思われ、建物構造上に問題はなかった。
 当社から貸主にネズミの駆除と侵入防止策を依頼したところ、貸主は、駆除業者の調査でも建物に特段の問題は発見されておらず、自ら駆除等する義務はないとの認識で、駆除等は虫類の発生と同様に各入居者が個別に対応するべきだと主張してきた。

質 問

 賃借人の賃貸借期間中に室内にネズミが侵入した場合、貸主に駆除等の義務はあるか。

回 答

1.  結 論
 原則、賃借人の入居後にネズミが室内に侵入したとしても貸主には駆除等をしなければならない義務はなく、賃借人が駆除を望むのであれば、賃借人の負担で駆除等をしなければならない。また、ネズミ等の侵入により建物に被害が出るおそれがある場合には、賃借人は貸主に通知する必要があろう。
 ただし、賃貸借契約前(賃借人の入居前)から建物構造上、既に侵入経路があった場合、ネズミの巣の存在や被害がある場合は、貸主の責任で駆除及び侵入防止、修繕をする必要がある。
2.  理 由
 賃借している建物にネズミが侵入するような明らかな欠陥がない限り、いわば不可抗力により賃借人の入居後にネズミが侵入したのであれば、貸主は駆除や侵入防止策を講じる必要はないと解される。賃借人が駆除等を必要と判断するのであれば、賃借人の負担でネズミの駆除・侵入防止策を講じることになる。ネズミのみならず、蚊・蠅、ゴキブリなどの虫類等の駆除も同様である。これらは貸主の管理の及ばないことであり、この侵入を阻止するよう措置をとる義務が貸主あるわけではない(後記【参照判例】参照)。ただし、たとえばシロアリ被害のように、建物構造に影響を与える被害が発生した場合は、貸主が修繕しなければならないであろう。
 一方、賃借人には賃借している建物に対する善管注意義務があり、ネズミ等の侵入により建物への被害が生じれば、貸主に通知しなければならない(民法第400条、同法第615条)。賃借人が貸主に通知を怠ったり遅れたりすると、建物への被害が拡大したり、電線噛砕による火災を引き起こす危険性もある。賃借人がネズミの侵入を放置したり、賃借人の原因(食物放置によるネズミが巣食う等)により建物に損傷が生じたりした場合には、賃借人は、貸主から損害賠償を求められることもありうる。賃借人がネズミの侵入に気が付いたならば、早めの対策と貸主への通知をしておいたほうがよい。
 本事例に関しては、ネズミの侵入は、必ずしも賃借人の責任ではないため、貸主と交渉して、駆除等にかかる費用の一部を、収受している管理費から提供してもらい、賃貸人と賃借人と共同で負担することを交渉する余地はあると思われる。
 なお、賃借人の財産等にネズミによる被害が及んだ場合、被害をもたらした当事者に損害賠償請求をすることは可能である。相談のケースでは、賃借建物の向かい側の古家にいたネズミの侵入が推定されてはいるが、因果関係を立証するのは難しく、それをもって向かい側の古家の所有者に損害の賠償を求めることは至難であろう。
 一方、賃借人の入居前からネズミがいるのであれば、貸主は駆除や侵入防止策、被害箇所の修繕を講じた上で、賃借人を入居させる義務があると考える(民法第601条、同法第606条)。

参照条文

 民法第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)
   債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
 同法第601条(賃貸借)
   賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第606条(賃貸人による修繕等)
   賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに 帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
   賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
 同法第615条(賃借人の通知義務)
   賃借物が修繕を要し、又は賃借物について権利を主張する者があるときは、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし、賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない。

参照判例

 東京地裁平成21年1月28日判決(要旨)ウエストロー・ジャパン
 建物の賃貸借契約において賃貸人が賃借人に対して負う義務は、賃借人がその使用目的に従って建物を使用収益できる状態にして引き渡せば足りるものであり、その後、建物にネズミ等の生物が侵入して建物の使用に影響を与えるようになったとしても、ネズミ等の建物内への侵入自体は当該ネズミ等と建物を使用する賃借人の使用状況との相関関係により生じる事態であって、賃貸人の管理の及ばない事項である以上、この侵入を阻止するよう措置をとる義務が賃貸人に直ちに生じるものではない。

監修者のコメント

 ネズミの出没が建物の構造上の欠陥に起因するものであれば、賃貸人は修繕義務がある。
 しかし、一般にネズミの侵入は、賃借人の使用状況との相関関係によるものであって、賃貸人の管理の及ばないところで生ずることが多く、建物に侵入したネズミの駆除は建物の占有者である賃借人が行うべきという参考判例と同様の解釈ができる事案と考える。

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