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掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
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また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

1812-B-0254
借地権付建物売買の買主は、土地賃貸人が借地権譲渡承諾書の押捺に使用する印章を実印に指定することは可能か。

 借地権付建物売買の媒介をしたが、土地賃貸人が譲渡承諾書に認印を押捺したところ、買主から実印での押捺と印鑑証明書の添付を求めてきた。契約書には、印章の種類は指定されておらず、賃貸人は他の譲渡承諾書については認印を使用している。買主の要求は、停止条件の故意の妨害にあたるのではないかと考えている。

事実関係

 当社は不動産の媒介業者である。都心から離れた郊外部である当社の営業エリアは、昔からの地主が多く、土地の賃貸借や借地権付建物売買も多く取引されている。借地権付建物の購入を希望していた買主に、他の媒介業者が売却の元付の物件を紹介し契約締結した。借地権売買については当然ながら土地賃貸人の承諾が必要であり、契約は、「土地賃貸人の借地権譲渡について書面による承諾が得られることを停止条件」として締結した。契約後、借地権付建物の売主は、賃貸人の譲渡承諾書を取得した。承諾書には、賃貸人の署名と認印が押捺されていた。当社は、買主に対して、承諾書を提示して承諾書が取得でき、停止条件は成就した旨を報告した。これに対し、買主は、不動産の売買、特に今回の借地権売買においては、土地賃貸人の借地権譲渡についての承諾の意思確認は重要なことであり、認印ではなく、実印の押捺と実印の真正を確認するため印鑑証明書の添付を求めた。売買契約書では、承諾書に使用する印鑑の種類について認印又は実印の記載はない。
 当社と売主は同行し、賃貸人に対し、実印の押捺と印鑑証明書の提供を求めたが、賃貸人は、従来から、借地権の譲渡の際は、認印押捺をしており、借地権譲渡の承諾はしているので、あえて実印は押捺しないと実印の押捺を拒否した。買主は、土地賃貸人の同意が得られず、停止条件は成就していないため、売買契約の効力不発生を主張、売主も買主の主張に応じ、契約締結時に受領した手付金を買主に返還した。
 当社は、買主の停止条件の故意の妨害が成立していると考え、買主に対して媒介報酬を要求したい。

質 問

1.  借地権売買において、土地賃貸人の譲渡承諾書の印章は実印でなければならないか。
2.  契約書に指定されていない譲渡承諾書の印章について、買主が実印を要求したことは、停止条件の故意の妨害にならないか。妨害であれば、当社は買主から報酬の受領をすることが可能か。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 必ずしも実印である必要はなく、買主が認印での使用を認めれば有効である。ただし、買主が実印の押捺を求めた場合は、これに従うべきと解される。
 質問2.について ― 買主が、実印の押捺及び印鑑証明書の添付を求めたことは理由があり、契約の約定の内容を求めたのであり、故意に停止条件の成就を妨げたとはいえない。よって、貴社の報酬請求権は発生しない。
2.  理 由
について
 借地権の売買においては、土地の賃借人は、賃貸人の承諾がなければ譲渡することができない(民法第612条第1項)。借地権付建物の売買においても同様である。賃貸人の承諾書に使用する印章は、賃貸人の借地権の譲渡の承諾意思が明示されていれば、賃貸人と買主がそれでよいというのであれば有効であり、必ずしも実印である必要はない。しかしながら、両者間で使用する印章の合意がない場合、買主が、賃貸人の承諾意思の真正を確認するために実印の押捺と印鑑証明書の添付を要求することは、不動産取引において通常行われていることであり、不当な要求とはいえない。
 不動産売買の必要書類に実印の押捺、印鑑証明書を添付する取引慣行が存在することは、裁判所も認めるところであり、「借地権付建物の売買において、買主(借地権の譲受人)にとっては、地主(賃貸人)により借地権の譲渡に対する承諾が正式に得られる否かは、建物の存続を図り、その売買の目的を達するために極めて重大な問題である上、地主の側に相続が発生する等の事由により、賃貸人の変更が生じたような場合に、借地権譲渡について、真実譲渡が得られていたかが将来問題となる事態は十分予想されるところである。したがって、買主(借地権の譲受人)が、承諾の確実性の担保及び将来の紛争を回避するために単に書面による承諾を得るだけでなく、地主(賃貸人)の実印の押捺及び実印の真正を確認するための印鑑証明書の添付を要求することは、理由のあること」とする裁判例がある。(【参照判例】参照)。
について
 停止条件付法律行為を伴う売買契約は、停止条件が成就した時からその効力が発生する(同法第127条第1項)。したがって、買主が要求した借地権譲渡承諾書への実印押捺が、賃貸人の拒否により、承諾が得られない時点で、売買契約は効力を生じないことが確定する。しかし、当事者の一方が停止条件を故意に妨害し条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができ(同法第130条)、売買契約は効力が生ずることになる。相談ケースの買主が実印を要求したことは、停止条件の故意の妨害にならないかという貴社の主張については、上記裁判例の通り、買主の要求には理由があり、「買主が、借地権付建物の購入にあたり、停止条件である地主の書面による承諾について、実印の押捺と印鑑証明書の添付を要求したことは、契約の約旨にかなった正当なことであり、停止条件を故意に妨害したものということはできない」(【参照判例】参照)と買主の要求についての故意の妨害を否定している。
 したがって、売買契約は効力が生じておらず、貴社は、買主に対し媒介報酬の請求も受領もすることはできない(標準専任媒介契約約款第7条、第8条)。
 不動産売買では、代理人が本人を代理して契約締結に臨む場合や各種合意書、確認書等、実印が求められる第三者の契約関連書類が少なからずある。媒介業者としては、契約に関連する書類に使用の印章について当事者を含めた関係者の事前了解を得ておくことが必要である。借地権売買では、土地賃貸人の譲渡承諾書に押捺する印章と印鑑証明書の添付について、明確に売主、買主の合意事項を契約書に定めておくことも、トラブル防止のために必要となろう。

参照条文

 民法第127条(条件が成就した場合の効果)
 停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。
   解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。
   当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。
 民法第130条(条件の成就の妨害)
 条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
 民法第612条(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
   (略)
 標準専任媒介契約約款第7条(報酬の請求)
 乙の媒介によって目的物件の売買又は交換の契約が成立したときは、乙は、甲に対して、報酬を請求することができます。ただし、売買又は交換の契約が停止条件付契約として成立したときは、乙は、その条件が成就した場合にのみ報酬を請求することができます。
 (略)
 標準専任媒介契約約款第8条(報酬の受領の時期)
 乙は、宅地建物取引業法第37条に定める書面を作成し、これを成立した契約の当事者に交付した後でなければ、前条第1項の報酬(以下「約定報酬」といいます。)を受領することができません。

参照判例

 東京地裁平成11年5月18日 判タ1027号161頁(要旨)
 一般に、不動産は、動産等に比較して高額である上、不動産登記手続を行う必要もあり、売買当事者の意思の確実性を明確にする趣旨で、不動産売買の必要書類に実印の押捺、印鑑証明書を添付する取引慣行が存在することは、裁判所に顕著な事実である。
 ところで、借地権付建物の売買においては、買主(借地権の譲受人)にとっては、地主(賃貸人)により借地権の譲渡に対する承諾が正式に得られる否かは、建物の存続を図り、その売買の目的を達するために極めて重大な問題である上、地主の側に相続が発生する等の事由により、賃貸人の変更が生じたような場合に、借地権譲渡について、真実譲渡が得られていたかが将来問題となる事態は十分予想されるところである。従って、買主(借地権の譲受人)が、承諾の確実性の担保及び将来の紛争を回避するために単に書面による承諾を得るだけでなく、地主(賃貸人)の実印の押捺及び実印の真正を確認するための印鑑証明書の添付を要求することは、理由のあるところであるといわなければならない。すなわち、本件売買契約書の文言との関係では、売買当事者の意思としては、同契約書前文における「書面による地主の承諾」にいう「書面」とは、地主(賃貸人)により実印が押捺され、印鑑証明書が添付されたところの、借地権の譲渡を承諾する旨の意思が明示された書面を意味するものと解釈するのが相当である。
 したがって、買主が、本件売買契約における停止条件としての書面による承諾に、本件地主による実印の押捺及び印鑑証明書の添付を求めたことは、本件契約の約定の内容を求めたものにほかならず、当然のことであって、何ら不当と見るべきものでない。(中略)
 以上によれば、買主が、本件借地権付建物の購入にあたり、停止条件である地主の書面による承諾について、実印の押捺と印鑑証明書の添付を要求したことは、本件契約の約旨にかなった正当なことであり、停止条件を故意に妨害したものということはできない。

監修者のコメント

 回答に掲げている参照判例は、仲介業者が買主の要求すなわち地主の借地権譲渡承諾書に地主の実印を求めることが不当だとして、既に受領していた仲介手数料を返さなかったため、買主が仲介業者に対してその返還を請求した事案のものである。
 印鑑証明書付きの実印押捺の書面と単なる認印による書面とでは、裁判における書面の真正性の評価に大きな差異があることは否めない。したがって、不動産に関するほとんどの書面においては、実印を要求しており、このことは慣習法と言ってもよいほど規範性をもっている。

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