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掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
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1812-B-0253
媒介において、売主・買主の契約条件合意後に、条件のいい新たな買主が現れた場合の契約締結の順位

 当社は、売主と専任媒介契約を結び営業活動をしていたところ、買主Aが見つかり、売主・買主A双方の契約条件も調い、契約日も決まった。その直後に契約予定の買主Aより良い条件を提示する、新たな買主Bが現れた。売主にとっては、買主Bとの契約にメリットがある。売買契約は、どちらの買主と締結したらいいか。

事実関係

 当社は、売主と専任媒介契約を結び、レインズに物件登録した。レインズ情報により、客付業者が買主Aを案内した後、買主Aは購入を決めたが、購入希望価額は媒介価額を下回るものであった。当社が売主と交渉した結果、売主は指値に応じ、売買価額以外の契約条件についても売主・買主A双方の合意もできたので、契約日を1週間後に設定した。しかし、この契約合意の翌日、売買契約予定の買主Aと同時期に客を案内した他業者から、媒介価額満額での購入希望者(買主B)がいるとの連絡を受けた。当社としては、売主から媒介を依頼されており、売主にとって有利な買主Bとの売買契約を検討している。

質 問

1.  相談のケースの場合、売主・買主双方が売買契約を合意している買主Aを優先するのか。あるいは、売買契約は締結(成立)していないので、契約条件の良い買主Bと契約することにしても問題ないか。
2.  当社は、売主に売買価額の高い買主Bが現れたことを伝えなければいけないか。
3.  売主に伝えた場合、どちらの買主と契約するかは、売主の判断に委ねるのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 基本的には、未だ売買契約の締結をしていないため、売主は買主を自由に選ぶことができる。しかし、場合により、売主は買主Aから損害賠償を請求されることがある。
 質問2.について ― 媒介契約を締結している以上、売主に利益があるか不利益であるかにかかわらず、媒介業者には、売却に関する情報を報告する義務がある。宅建業法第31条に宅建業者の業務処理、標準専任媒介契約約款第4条に業務の処理状況の報告義務が規定されている。
 質問3.について ― 売買契約の相手方の決定権は売主にあるため、判断をあおぐことになる。
2.  理 由
⑶について
 売主は、売買契約の締結にあたり、契約の相手を選択することも、契約をするか否かを決めるのも、自由である。例えば、複数の買主が同時に出現したときに、売主は、購入希望者の各契約条件を勘案し、買主を決定することができる。複数の購入希望者がいても、条件が折り合わなければ全て契約しないこともできる。契約条件には、売買金額のみならず、支払条件(手付金や中間金の額、住宅融資利用の有無)や支払時期、引渡時期のほか、物件に関する事項(瑕疵担保責任条件や設備等)もある。時には、買主との相性や人柄も判断材料になることもある。不動産取引の専門家である媒介業者の意見・助言も判断の一つとなろう。
 今回のケースの場合、売主・買主とも契約条件の主要内容を合意しているが、それは売主・買主の主要契約条件と契約日の合意であり、契約締結はされていない。不動産の取引においては、取引額は高額で、契約条件が複雑であることも多く、宅地建物取引業法第37条でも宅建業者は売買契約の書面交付が義務付けられていることからも、契約書が作成されることにより、契約成立と解するのが一般的である。
 なお、買主の条件に大きな違いがなければ、売主がより売買金額の高い買主Bを選ぶことは、ままある。売主が条件の良い買主Bとの契約を望むのであれば、客付け業者を介して、契約予定の買主Aに売買金額変更(買上げ)を打診し、応じるようであれば当該買主Aと契約することになる。もし、買上げに応じない場合は、条件の良い後から現れた買主Bと契約することになるだろう。
 時として、契約予定の買主Aは、契約に向けて費やした損害の要求をすることもあるので、売主は応じざるを得ない場合もある。
 不動産仲介では複数買主の同時出現はよくあり、買主を巻き込んだ業者同士のトラブルを引き起こしかねず、慎重な対応が望まれる。
について
 (略、上記結論参照)

参照条文

 民法第1条(基本原則)
 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
   権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
   権利の濫用は、これを許さない。
 民法第556条(売買の一方の予約)
 売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる。
   (略)
 宅地建物取引業法第31条(宅地建物取引業者の業務処理の原則)
 宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない。
   (略)
 宅地建物取引業法第37条(書面の交付)
 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。
~十二 (略)
〜③ (略)
 標準専任媒介契約約款第4条(宅地建物取引業者の義務等)
 乙は、次の事項を履行する義務を負います。
 契約の相手方を探索するとともに、契約の相手方との契約条件の調整等を行い、契約の成立に向けて積極的に努力すること。
 甲に対して、専任媒介契約書に記載する方法及び頻度により業務の処理状況を報告すること。
・四 (略)
 (略)

監修者のコメント

 売買契約は、民法の理論上、諾成・不要式の契約であるので、契約書が作成されていないケースにおいて、契約が成立しているか否かが争われる裁判も多い。ただ、不動産の売買契約は社会通念上、契約書を作成し、それに署名調印して初めて契約が成立すると観念するのが一般であるため、契約の成否は、具体的事案の諸事情を総合的に判断して決しなければならない。
 本ケースで「契約条件も調った」ことが、契約の成立と解されるのであれば、他の買主に売却することはできるが、それが先の買主に対する債務不履行になることは明らかである。しかし、本ケースで売主、買主が「契約日を決めた」ということは当事者の通常の意思は、その契約日に契約を成立させる意思と解するのが、素直な解釈と考えられる。そうであれば、新たな買主に売却することも自由にできるが、だからといって、先の買主に対して何らの責任も負わない、というわけではない。民法に明文の規定はないが、「契約締結の交渉に入った者同士は、相手方に不測の損害を被らしめないようにする信義則の義務がある」という理論が学説・判例上認められており、契約締結を不当に拒否した者は相手方に損害賠償義務を負うことになる。これを「契約締結上の過失」あるいは「契約準備段階における過失」の理論という。
 したがって、本ケースの売主が買主Aに対し、必ず売るような言動をして、Aが売主を信頼したため、購入代金の融資を受け、保証料も支払ったというように、結局は無駄になってしまった損失(信頼利益)を、売主に過失がある限り、請求することができる。争点は、より高い金額で購入する買主に売却することにした売主に過失があるか、あるいは不当かであるが、交渉経緯に特別な事情があればともかく、一般的に売主に過失がある、不当であるということはできないと解される。

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