不動産相談

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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

1810-B-0250
媒介業者は、売買契約締結後に知った心理的瑕疵について、買主に説明する義務はあるか

 当社は、売買の媒介業者である。売主が宅建業者の土地売買契約の媒介をしたが、決済前に、過去に当該物件上にあった建物内で自死があったことが判明した。当社は、決済までに、この事実を買主に告げなかったところ、買主は、物件の引渡後に契約解除を申し入れてきた。

事実関係

 当社は不動産売買の媒介業者である。当社営業エリアにある市街地の土地売買の媒介をした。売主は宅建業者であり、買主は個人で自己の居住用建物を建築する予定である。契約締結後、買主の利用する住宅ローン審査も金融機関から承認され、契約締結日から3か月後の約定日には決済ができる運びとなった。決済日の1週間前に当社の担当者が、地域の不動産業者の会合に参加した際、他の業者から当社が媒介した土地は、数年前に、土地上の建物内で所有者の家族が自死したと聞かされた。当社が近隣を調査したところ、当時は、警察や消防も出動し、住民の間でも話題になった事柄であったようで、居住の長い住民は、今でも記憶に残っているようである。現在、建物は取壊されており更地になっている。当社は、売主の業者に対し、事故物件であることを告知しなかった理由を確認したところ、当該土地は、何度か転売されていることもあり、その土地上にあった建物内で自死があった事実については知らなかったといっている。当社も、買主への重要事項説明の際には、過去に取引物件に自死があった事実について把握しておらず、買主に、当然ながら説明はしていない。
 媒介業者は、取引物件が事件や事故等があったときは、心理的瑕疵のある物件として重要な事項として、契約前に買主に説明することになっている。しかし、契約後であり、売主も承知していなかった事柄であり、また、建物は取壊されており、発生から期間も経過しているので、買主には特段告げなかった。決済日には住宅ローンも実行され、買主から売主への残金授受、所有権移転手続及び物件引渡等を滞りなく終了した。
 決済日の翌日、買主は、土地を探していたときに紹介依頼していた他の業者から、購入した土地は、事故物件であり、かつて土地上の建物内で自死があったことを知らされた。買主は、当社に対し、契約前に当該事実について知っていたのであれば購入はしなかったと、契約の解除を申し入れてきた。

質 問

 売買契約後、決済前に心理的瑕疵が判明したときに、媒介業者は、買主に対し、その内容を重要事項として説明する義務があるか。

回 答

1.  結 論
 媒介業者は、売買契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実について、契約後に判明した事実についても説明する義務がある。また、売主の宅建業者も同様に説明義務がある。説明しなかったときは、売主業者及び媒介業者は、説明義務違反として損害賠償責任を負う場合がある。
2.  理 由
 媒介業者及び売主業者は、不動産取引をする際、宅建業法により、取引物件及び取引内容等に関し、契約前に取引の相手方である買主に説明する義務がある(宅地建物取引業法第35条第1項)。また、不動産売買の契約の締結について勧誘をするに際し、取引物件及び取引内容のほか、将来の利用の制限、環境、交通等の利便等、買主の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものについて、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為を禁じている(同法第47条)。これは、宅建業者は、不動産取引上、心理的瑕疵についても、取引の相手方に対し、契約前に説明しなければならない義務の根拠となっている。更に、宅建業者には、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行うこと(同法第31条)及び民事上の受任者として、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負っており(民法第644条)、宅建業者の調査や説明義務は広範囲となっている。
 当該相談ケースのような過去に自死のあった物件は、心理的瑕疵物件として、一般的には購入をためらうものである。買主は、事前にその事実を知っていれば、購入を断念するか、購入はするが価格等の条件交渉を求めることもある。瑕疵担保責任は、無過失の売主にも責任を負わせる趣旨であるが、売買契約において売買の目的物に隠れた瑕疵があった場合、買主は、契約の解除又は損害賠償の請求をすることが可能であり(同法第570条)、また、売主が知っていて告げなかったときは、不法行為として損害賠償責任が生じる。
 買主は、売主に対する瑕疵担保責任追及は代金決済後でも可能であるが、買主にとっては、決済前に告げられるのと決済後に告げられるのとでは、媒介業者や売主業者に対する代金を含む条件の交渉機会や締結した売買契約の解除等の法的措置を講じるか否かの判断にも影響するものである。媒介業者及び売主業者共に、事実を認識するに至った以上、代金決済や引き渡し手続きが完了してしまう前に、これを売買当事者である買主に説明すべき義務があるといえ、説明義務違反(不法行為)と相当因果関係のある損害を賠償すべき責任を負う場合がある(【参照判例】参照)。
 当該相談のような心理的瑕疵に限らず、宅建業者は、契約後引渡しないし決済前に買主の判断に影響を与える事柄についての瑕疵を認識したときには、買主に対して速やかに説明する義務があることに留意したい。

参照条文

 民法第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
  ・③ (略)
 同法第570条(売主の瑕疵担保責任)
 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
 同法第644条(受任者の注意義務)
 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 宅地建物取引業法第31条(宅地建物取引業者の業務処理の原則)
 宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない。
   (略)
 同法第47条(業務に関する禁止事項)
 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは賃借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
~ハ (略)
 イからハまでに掲げるもののほか、宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払方法その他の取引条件又は当該宅地建物取引業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であつて、宅地建物取引業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの
・③ (略)

参照判例

 松山地裁平成25年11月7日 判時2236号101頁(要旨)
 本件土地上で過去に自殺があったとの事実は、本件売買契約を締結するか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実であるとともに、締結してしまった売買契約につき、その効力を解除等によって争うか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実でもあるといえる。
 したがって、宅地建物取引業者として本件売買を仲介した宅建業者としては、本件売買契約締結後であっても、このような重要な事実を認識するに至った以上、代金決済や引き渡し手続きが完了してしまう前に、これを売買当事者である買主に説明すべき義務があったといえる(宅地建物取引業法第47条第1項第1号ニ)。-(中略)-
 したがって、宅建業者は、買主らに対し、この説明義務違反(不法行為)と相当因果関係のある損害を賠償すべき責任を負う。
 <高松高裁平成26年6月19日控訴棄却>

監修者のコメント

 本相談事例について、自死が行われた建物が取り壊され、更地となった場合でも、土地の瑕疵といえるのかが結論の前提であるが、土地と建物が法律的には別個の不動産であっても、その土地上で不幸なことがあった事実は変らないので、建物がなくなれば土地の瑕疵が払拭されるわけではないことを念のため指摘しておきたい。売主あるいは媒介業者の説明義務の有無の基準時は、「契約締結時」と一応言うことができるが、売主は信義則上の義務として、媒介業者は受任者としての善管注意義務の一環として、買主に対して不測の損害を被らせないようにする義務があり、本件に類似の参照判例のいうように契約後であっても決済前に知った事実は説明すべきである。
 もっとも、自死という事実は、稀なことであるので、そのような事実があったかどうかを積極的に調査すべき義務は売主も媒介業者も負わない。ただそれを知ったとかあるいはその噂を聞いたような場合は可能な限りの調査をして、買主に結果を告知すべきである。したがって、本ケースにおいて引渡し、決済の時にも知らず経過し、売主、媒介業者に落ち度(過失)もない場合は説明義務違反の責任を負わない。しかし、売主の瑕疵担保責任は無過失責任であるから、売主には何の落ち度がなかったとしても瑕疵担保責任の問題は残る。

当センターでは、不動産取引に関するご相談を
電話にて無料で受け付けています。

専用電話:03-5843-208110:00~16:00(土日祝、年末年始 除く)

相談内容:不動産取引に関する相談(消費者、不動産業者等のご相談に応じます)

<ご注意>
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◎ ご相談・ご質問は、簡潔にお願いします。
◎ 既に訴訟になっている事案については、原則ご相談をお受けできません。ご担当の弁護士等と協議してください。

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