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また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

1806-R-0189
賃借人は、入居中の滞納家賃を敷金と相殺するよう請求できるか

 賃貸の管理業者であるが、賃借人が家賃を滞納しており、賃借人は差し入れている敷金を家賃に充当してほしいと要求している。賃貸人は、敷金を滞納家賃に充当しなければいけないか。

事実関係

 賃貸の媒介兼管理業者である。1年前に期間2年で賃貸マンションの賃貸借契約の媒介をした。しかし、最近、賃借人は職を辞めて再就職活動をしているが、収入源がないため家賃を3か月滞納している。それまでもしばしば滞納があり、賃貸人からの依頼で当社が家賃支払を督促し、それを受けて賃借人が家賃を支払った経緯がある。
 この度、再度、賃貸人の依頼により、賃借人に対して滞納家賃の支払いを督促したところ、今後もこの物件に住み続けたいとの希望を持っており、差し入れている敷金(家賃の2か月相当分)と滞納家賃とを相殺してもらいたいとの申し出があった。
 その一方、賃貸人は、このように滞納を繰り返す賃借人には、契約解除の上、賃貸物件の明渡しをして欲しいと考えている。
 なお、賃貸借契約書では、敷金を家賃と相殺はできないという、相殺の禁止事項は約定されていない。

質 問

1.  入居中の賃借人は滞納している家賃に敷金を充てて相殺することを要求しているが、賃貸人は、賃借人の相殺の要求に応じなくてはいけないか。
2.  賃借人は賃貸人に敷金を差し入れているが、賃貸人は家賃滞納を理由に賃借人に対して契約の解除と賃貸物件の明渡しを申し入れることができるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 賃貸人は、物件を明渡す前の、賃借人の滞納家賃と敷金との相殺の要求に応じる必要はない。
 質問2.について ― 賃貸人は、入居中の賃借人の滞納家賃を敷金で充当する義務はなく、滞納家賃を敷金から控除することなく家賃滞納を理由として、契約解除をすることが可能である。
2.  理 由
について
 敷金は、賃貸借契約において、賃借人の債務を担保するために、賃借人が賃貸人に差し入れる金銭である。賃借人の債務には、賃借人の建物明渡しのときまでに発生した滞納家賃、賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当損害金、原状回復費用等がある。債務がないとき、あるいは敷金から債務を控除して余りがある場合は、その額を返還しなければならないが、敷金返還時期は建物の明渡しのときである(【参照判例③】参照)。
 相殺とは、当事者が互いに債務(通常は金銭債務)を負担している場合、双方の債務が弁済期であるときに、その対当額について自己の債務を逃れることができる制度である。一般的に賃料債務の弁済期は毎月であるが、敷金返還債務は賃貸借が終了し、賃借人の建物明渡しが完了したときが弁済期であり、賃借人は賃貸人に対して、敷金と滞納家賃の相殺を主張することはできず、賃貸人は相殺に応じる義務はない(民法第505条)。これは、賃貸借契約書に相殺禁止が約定されてなくても同様である。
 なお、本件では既に賃借人が、判例で信頼関係の破壊の目安とされる3か月の家賃滞納をしてしまっているため、賃貸人から契約解除するための要件は調っている。しかし、賃貸人が敷金を滞納家賃に充当することで、賃借人の債務不履行状態(家賃滞納)が解消されてしまうため、家賃滞納理由による契約解除ができなくなる。さらに、敷金を滞納家賃に充当してしまうと、賃貸借契約の約定担保額である敷金の額が不足状態になり、その後に発生する原状回復などの賃借人の債務が担保されなくなるため、賃借人の要求に応じることは、賃貸人にとっては不利益でしかない。
について
 前記のとおり、賃貸人は、賃借人が入居中に、賃借人の差し入れている敷金を滞納家賃に充当する義務はなく、敷金を賃貸人が預かっていても、賃貸人が家賃を延滞していれば契約の解除理由となり、賃貸人は賃借人に契約解除を申し入れることができ、賃貸借契約の解除が可能であり(民法第541条)、賃貸人に認められる権利である。賃貸人の賃借人が延滞賃料支払の催告に応じなかったことを理由としてした契約解除の意思表示は、信義則に反するものでもないし、また、権利の濫用にあたるものでもない(【参照判例①】及び【参照判例②】参照)。
 また、賃貸人の賃借人に対する滞納賃料支払の督促は、敷金を預かっていたとしても、その敷金を控除することなしに、滞納賃料全額を請求することができると解されている(【参照判例①】参照)。

参照条文

 民法第1条(基本原則)
 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
   権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
   権利の濫用は、これを許さない。
 同法第505条(相殺の要件等)
 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
   前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
 同法第541条(履行遅滞等による解除権)
 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。

参照判例①

 最高裁昭和44年6月12日 判タ239号140頁(要旨)
 敷金は特約のないかぎり、賃貸借契約が終了する以前においては、延滞賃料に充当されるものではない。契約解除の前提として賃借人に対してする延滞賃料の支払の催促は、延滞賃料から敷金を控除せずに、延滞賃料全額についてすることができるものというべきである。 ―(中略)― 賃借人が敷金を差し入れていても、賃貸人の、賃借人が延滞賃料支払の催告に応じなかったことを理由としてした契約解除の意思表示は、信義則に反するものでもないし、また、権利の濫用にあたるものでもない。

参照判例②

 最高裁昭和45年9月18日 判タ255号144頁(要旨)
 賃貸借契約において敷金が差し入れられていても、敷金の性質上、特段の事情がないかぎり、賃料延滞の場合賃料延滞を理由として契約を解除することのできないものでないことは明らかである。 ―(中略)― 契約解除が信義則に反し権利濫用と認めることはできない。

参照判例③

 最高裁昭和48年2月2日
 家屋賃貸借における敷金は、賃貸借存続中の賃料債権のみならず、賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当損害金の債権その他賃貸借契約により賃貸人が貸借人に対して取得することのあるべき一切の債権を担保し、賃貸借終了後、家屋明渡がなされた時において、それまでに生じた右の一切の被担保債権を控除しなお残額があることを条件として、その残額につき敷金返還請求権が発生するものと解すべきである。

監修者のコメント

 敷金については、賃貸人からは賃借人の承諾なく滞納家賃に充当することができるが、賃借人から充当することを請求することができない。この考えは、明文の規定があるわけではないが、敷金の法的性格からみて異論のない結論である。
 しかし、法的に賃貸人側からは充当が可能といっても、特別な事情のない限り、これをすべきではない。なぜなら、充当によって賃借人の家賃滞納という債務不履行が一旦は解消されてしまうことになり、その後滞納が続いた場合、債務不履行による解除が可能な時期を、ただ遅らせてしまう結果になるだけだからである。また、賃借人の債務を担保するための敷金が充当によって減少してしまい、このような場合、多くの契約書では、不足となった敷金分を賃借人は補填しなければならないことになっているが、家賃を滞納している賃借人が敷金だけはただちに補填できるなどということは、通常あり得ないからである。

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