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1804-R-0187
老朽建物の修繕を賃借人負担とする特約の可否と賃貸人の修繕義務

 賃貸人は資力が乏しく賃貸建物の修繕費の負担ができないため、小修繕だけでなく大規模修繕についても賃借人の負担としたいと希望している。

事実関係

 当社は賃貸の媒介業者である。築後30年の一戸建を所有している賃貸人から、賃貸の依頼を受けた。近隣は新築の賃貸マンションが多く、一戸建でましてや築年数の経過した賃貸物件の需要は低い。賃貸人夫婦は、年金生活者であり、物件は賃貸人が親から相続した物件である。当該地域は、郊外にあり、不動産を売却してもさほど高額の値はつかず、建物はまだ使用できるので賃貸することにした。賃貸人は、通常相場の2~3割低い賃料でもいいので貸したい希望である。ただし、条件として賃貸人は賃借人の入居後の修繕費の負担はせず、賃借人負担としたい考えである。小修繕は賃借人の負担とするのは一般的であるが、大修繕についても賃貸人が負担する特約を約定する契約を希望している。
 当社としては、雨漏りやその他の建物の不具合も予想され、賃借人が居住中に、修繕を巡って賃貸人と賃借人との間で揉めるのではないかと懸念している。

質 問

1.  建物賃貸借契約において、低賃料を理由に賃貸人の修繕義務を免責にする特約を約定することができるか。
2.  築後相当期間経過している老朽建物の賃貸借において、大修繕も賃借人に修繕義務を負わすことはできるか。
3.  老朽化建物の修繕を賃貸人が負担する場合、どの程度の修繕をすれば足りるか。

回 答

1.  結 論
 賃貸人が修繕義務を負わない特約は有効である。
 賃借人が大修繕についても修繕義務を負担する特約は原則として有効であるが、賃借人が積極的に修繕する義務を負うものではない。
 築後の建物に相応する程度の修繕をすればよい。
2.  理 由
について
 建物賃貸借契約は、賃貸人が賃借人に建物を使用収益させ、その対価として賃借人から賃料を収受するもの(民法第601条)であり、賃借人が建物の使用収益を行う上で必要な修繕をする義務は、原則として、賃貸人が負担することとなっている(同法第606条第1項)。賃貸人には賃借人が契約内容に従い賃借建物を良好に利用できるようにすべき配慮すべき義務があるとされている。ただし、修繕義務でも、電球や蛍光灯、水道パッキンや給水栓の取換等の小修繕、あるいは軽微な修繕は、賃貸人の承諾なしに賃借人の負担ですることができる約定が一般的であり、賃貸借契約書の多くに採用されている。小修繕と小修繕以外の線引きは難しいが、小修繕の賃借人負担は、判例でも認められている。
 賃貸人の修繕義務を免責にする特約の可否であるが、民法上の賃貸人の修繕義務(同法第606条第1項)は任意規定であり、賃貸人が修繕義務を負わないという免責特約は有効である。特約を約定した場合、賃貸人には修繕義務はなく、賃借人が自己の負担で修繕することになる。なお、相談ケースのように賃料を相場より減額するから修繕義務を賃借人に負わすとか、修繕義務を賃貸人が負わないから賃料を減額するという賃料の高低とは直接的な関連はないが、ケースによっては総合的に判断せざるを得ない。しかし、賃貸人が、賃借人から高額または相場の賃料を受領しながら、大規模修繕を賃借人負担とする特約は、消費者契約法または信義則に反し(民法第1条第2項)、無効となる場合があることに注意が必要である。
について
 賃貸借契約において、入居後の大小修繕は賃借人がする旨の賃借人が小修繕にかかわらず修繕義務を負担する特約は有効である。しかし、賃借人が、賃貸建物の汚損や破損個所を積極的に自己の負担で修理したり、建物を賃借当初の状態で維持・管理をしなければならないわけでない。賃借人が修繕義務を負う特約は、賃貸人が修繕義務を負わないとの趣旨であったのにすぎないと解されている(【参照判例①】参照)。賃借人は、建物の使用に支障が生じれば、自己の判断及び負担において修繕することができる。
について
 居住用の築後年数の経た建物、いわゆる老朽建物の賃貸人の修繕義務は、賃借人の使用収益に支障のないように、築年数に相応の居宅として使用できるよう提供する義務である。修繕に当たっては、築後相応の朽廃が進行しているため、当然ながら、新築同様の程度にまで建物を修繕すべき義務はない。賃貸人が修繕を要するものであっても、修繕に多額の費用を要するときは、現状のままでも賃借人の居住に影響を与えることが少ない補修については必ずしも補修を必要とせず、賃借人は現状を受け入れなければならないものもあるとされている。裁判例には、いずれ修繕工事が必要となるものでも、現時点で使用に差し支えのない部分、賃借人に原因のある部分及び賃借人において宥恕(ゆうじょ)すべきもの(修繕をしないことを甘受すべきもの)については、賃貸人に修繕義務はないと判示しているものもある(【参照判例②】参照)。

参照条文

 民法第1条(基本原則)
 (略)
   権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
   (略)
 同法第601条(賃貸借)
 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第606条(賃貸物の修繕等)
 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
   賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。
 消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
 民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

参照判例①

 最高裁昭和43年1月25日 判時513号33頁(要旨)
 賃貸借契約書中に記載された「入居後の大小修繕は賃借人がする」旨の条項は、単に賃貸人が民法第606条第1項所定の修繕義務を負わないとの趣旨であったのにすぎず、賃借人が右家屋の使用中に生ずる一切の汚損、破損個所を自己の費用で修繕し、右家屋を賃借当初と同一状態で維持すべき義務があるとの趣旨ではないと解するのが相当である。

参照判例②

 東京地裁平成3年5月29日 判タ774号187頁(要旨)
 本件賃貸借契約においては、建物の部分的な小修繕は、賃借人が自ら費用を負担して行う旨の特約があるから、家主の修繕義務を負う部分と、賃借人が自己の費用をもって修繕すべき部分との調整を要する。(中略)
 本件賃貸借契約上、本件建物を居宅として使用継続するに必要な修繕のうち、小修繕に当たるものの修繕について賃貸人に修繕義務はないが、建物の改造、造作、模様替等建物の基本構造に影響すべき現状を変更する修繕部分は、賃貸人の負担すべき義務の範囲に属することが明らかである。もちろん、本件建物のような築後24年を経過した建物にあっては、築後相応の朽廃が進行していることは当然であって、賃貸人としても新築同様の程度にまで建物を修繕すべき義務は存在しないことは言うまでもないが、その築後の建物に相応する程度の使用継続に支障が生じているときには、健全、良好な、居宅としての提供義務が免除されるものではない。
 また、賃貸人側で修繕を要するものであっても、その修繕に多額の費用を要するもののうち、現状のままでも賃借人側の受ける損失は小さいものにあっては、賃借人において現状を甘受しなければならないものもある。
 したがって、要修繕の部分であっても、賃借人が自己の費用をもって修繕すべき小修繕部分、築後の経年の結果による不都合であって、いずれ修繕工事が不可避となるものであっても、現時点では使用に差し支えのない部分、賃借人側に原因のある部分及び賃借人において修繕の施行を宥恕すべきものについては、賃貸人に修繕義務はないものというべきである。

注)宥恕(ゆうじょ)=見のがしてやること。

監修者のコメント

 屋根のふき替えや外壁の全面塗り替えなどの大規模修繕も、すべて賃借人の負担とする特約は原則的には無効と解するのが一般的である。しかし、それも賃料が相場並みであることが前提で、それも賃借人が負担する代わりに賃料を相場よりかなり低くしている場合は、現実に大規模修繕にどれくらいかかったか、賃料の減額分の合計がどれくらいになるか、両者の額を衡量して合理性をもつかどうかを実際のケースごとに判断しなければならない。具体的計算により合理性があれば、大規模修繕の賃借人負担も無効とはいえない。もっともその場合でも、賃借人は積極的な修繕義務を負うわけではない。賃借人として修繕しなくても、取りあえず現状のままで良いと考えるときは、いま修繕しなければ建物に特別の損害を与えるというものでなければ、修繕しなければならないものではない。

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