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掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
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また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

1802-R-0186
賃借物件内で盗難があった場合、賃借人は賃貸人に対して、防犯上の管理義務違反を問うことができるか

 当社は、ビルの賃貸の媒介業者である。賃借人が入居した貸室内の賃借人の財産がピッキングにより窃盗された。入居ビルでは、過去にも同じような被害が発生し、周辺ビルでも盗難が起こっている。賃貸人は、防犯に関する管理上の対策を講じる義務があるか。

事実関係

 当社は、店舗・事務所等の事業用賃貸の媒介業者である。駅前の築年数が30年経過したいわゆる雑居ビルといわれる建物の管理及び賃借人の入居の媒介をしている。ビルは6階建で、1階は店舗用途で飲食店が2軒入居している。2階以上はそれぞれワンフロアーの事務所となっている。駅前の繁華街の一角に位置し、立地がよいので入居希望も多く、現在満室である。2階には賃貸借期間3年とする営業会社が2年前から入居している。この会社は、事務所として使用しているほか、扱い商品を直接販売しており、来訪者も他の事務所に比べて多い。
 最近、この会社が、いわゆる事務所荒らしに遭い、事務所内に保管してあった売上金が盗難の被害を受けた。代表者は、盗難のあった前日、机の引き出しに売上金約100万円を入れ、机の鍵をかけ、事務所ドアの鍵をかけて退室したが、翌朝に出社すると机やキャビネットが壊され、売上金が窃盗されたことに気付いた。代表者は警察に盗難届けを提出した。警察の検分によると、事務所ドアはピッキングとみられる手口で解錠し、机の引き出しは、バールのようなもので強引にこじ開けられたものと推測している。事務所入口のドアは、ビルが古いこともあり、シリンダー錠であったことで、ピッキング犯罪に狙われたようだ。警察によると、事務所周辺は繁華街ということもあり、事務所荒らしに遭うケースが多いようである。ビルの賃貸人によると、数年前にも1階で営業している飲食店でも盗難に遭ったという話である。
 事務所の賃借人である会社の代表者は、賃貸人は、過去にもビルの店舗で盗難被害が起こり、近隣でも同じような被害を受けているのを知っているのにもかかわらず、賃借人に通知もせず、また、鍵をピッキング被害に遭いにくいものに交換したり、警備システムを導入するなどの防犯対策を講じず放置していたとして、賃貸人が講ずべき管理義務に違反し、賃貸人の債務不履行にあたるとして損害賠償を要求している。

質 問

 ビルの賃貸人は、ビル内事務所に入居する賃借人がピッキング等の盗難被害に遭わないよう被害防止策を講ずる義務があるのか。

回 答

1.  結 論
 賃貸借契約において、貸室の防犯についての特段の合意がない限り、原則として、賃貸人は、防犯の責任を負う義務はないと解されており、防犯の責任は、賃借人自らが行うべきものとされている。
2.  理 由
 一般的な建物賃貸借契約では、天災・地変や水害などの自然災害、火災等の賃貸人の責めに帰さない被害については賃貸人の責任を免責している場合も多いが、盗難の管理責任や被害があったときの損害の責任については特段の約定はされていない。
 建物の賃貸借契約において、賃貸人の負うべき本来的義務は、賃貸物件を使用収益させる義務(民法第601条)、賃貸物件の使用収益に必要な修繕を行う義務(同法第606条)や費用償還義務(同法第608条)等である。賃借人が賃借している貸室内の賃借人所有財産を盗難等から保護することを内容とする管理義務は、賃貸借契約から当然に導かれるものではないと解されている。賃借人は、建物を賃借する際、その建物を内見し、設備等も確認した上で、契約している。もし、賃借物の防犯設備に限らず、使用収益や管理に問題を感じたのであれば、賃借人自ら賃貸人に対して改善、修繕を申し入れすればよい。賃貸人は、既存の鍵に問題がなければ、それ以上に盗難被害に遭いにくい鍵に交換する義務は負っていない。
 なお、賃貸借契約で当事者間の合意した特約や信義則上の付随義務として認められる余地のある場合があるが、賃貸人がこのような管理義務を負う場合にどの程度の義務を負うかは、個々の賃貸借契約の事情に応じて判断されるべきであるとされている(【参照判例】参照)。

参照条文

 民法第415条(債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
 同法第601条(賃貸借)
 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
 同法第606条(賃貸物の修繕等)
 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
   (略)
 同法第608条(賃借人による費用の償還請求)
 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
   賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第196条第2項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

参照判例

 東京地裁平成14年8月26日 判タ1119号181頁(要旨)
 そもそも、賃貸借契約において、賃貸人の負うべき本来的義務は、賃貸物件を使用、収益させる義務、賃貸物件の使用収益に必要な修繕を行う義務の外、担保責任及び費用償還義務であって、賃借人の主張するような賃借人所有財産を盗難等から保護することを内容とする管理義務は、賃貸借契約から当然に導かれるものではなく、特約や信義則上の付随義務として認められる余地のあるものと解するのが相当である。そして、賃貸人がこのような管理義務を負う場合にどの程度の義務を負うかは、個々の賃貸借契約の事情に応じて判断されるべきである。

監修者のコメント

 本相談ケースのような盗難事件がしばしば生じているが、その場合、賃貸人の義務はどこまでかが一つの大きな争点となる。個々の契約内容あるいはそれが発生するまでの諸事情ごとにケース・バイ・ケースで判断する必要がある。
 回答にある参照判例は、賃料月額約32万円、管理費なしの賃借人である宝石・貴金属の加工・販売を営むテナントが深夜、ピッキングによる盗難被害に遭い、室内の宝石類や現金等合計109万円の被害を被ったとして、オーナーに損害賠償を請求した事案についてのものである。その事案では、オーナーが本件盗難が起きる前には、そのビルにおける盗難がピッキングによるものであるか否かを知らず、警察から指導や連絡を受けたこともないなどの諸事情から当該オーナーには、ピッキング被害の防止策を講じる義務を負っていたということはできない、と結論づけたものである。
 したがって、ビルのオーナーは、ビルの盗難については常に責任を負わないというものではなく、盗難がしばしば生ずるのに何の対策も講じないとか、被害防止のための改善方の要望を無視していたとか、賃貸人に過失があると認められるときは、責任を負わなければならない。賃貸人の基本的義務は、賃借人に適切に使用収益させる義務だからである。

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