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ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
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売買事例 1512-B-0208
相続財産である居住用不動産の処分許可の手続と期間

 相続人の1人に意思能力の十分でない者がいる。介護施設の入居資金捻出のため自宅の売却をしたいが、売却までの手続や期間を知りたい。

事実関係

 当社は仲介業者であるが、相続人から相続財産である自宅一戸建ての売却を相談されている。
 死亡した父親の相続人は母親と子の2人であるが、母親は認知症で意思能力が十分でない。相続登記はまだしていないが、子は自宅を売却し、その資金で母親を老人ホームに入居させるつもりである。早期の売却を希望しているが、売却完了までの手続や期間がどのくらいか、どのようなことに注意しなければいけないか知りたい。
 最近、高齢社会を反映してか、相談者も高齢な方が目立ち、相続対策や相続で取得した不動産の売却や賃貸管理に関する相談が増えている。

質 問

1.  遺言書はないが、法定相続分での分割を考えている。自宅不動産の相続登記をするには、遺産分割協議書を必ず作成しなければならないか。
2.  子が成年後見人となり、自宅を売却するにはどのような手続が必要か。
3.  これから諸手続を始めて、売却完了(資金の受領)まではどのくらいの期間を見ておけばいいか。

回 答

 質問1について ― 遺産の分割は、遺言書のない場合、通常は相続人全員の遺産分割協議により各相続人の取得遺産が確定する。協議が調わないときは家庭裁判所に分割を請求することができる(民法第907条)。
 しかしながら、遺産分割協議を経ずに共同相続(民法第898条)の登記をすることは可能で、法定相続分に基づいた共有の登記(このケースの場合、母親・子の持分は各2分の1)を相続人の1人が単独で申請できる(不動産登記法63条)。
 相続人の中に認知症等で「事理を弁識する能力を欠く常況にある者」などがいる場合、遺産分割協議をするためには、後見開始の審判により、成年後見人を選任し(民法7条)協議する(民法第859条)こととなるが、成年後見人に他の相続人が選任された場合は、利益相反関係に当たり更に特別代理人の選任(民法第826条・第860条)が必要になる。
 相続人以外の成年後見人又は特別代理人が、成年被後見人を代理し遺産分割協議に参加した場合は、法定相続分で分割されることがほとんどであり、他の相続人の単独申請と効果は変わらない。
 不動産売却を急ぐのであれば、特別代理人を選任し、遺産分割協議をした上で相続登記をするより、相続人の1人が単独により共有登記を申請し、相続登記を終えておく。並行して相続人を成年後見人とする選任手続を進めることが売却完了までの期間の短縮につながるであろう。
 質問2について ― 成年被後見人の自宅を売却するには、家庭裁判所による成年後見人の選任の後、成年後見人の申請に基づく家庭裁判所による許可が必要となる。
 成年後見人を選任するためには成年被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所に後見開始の審判の申し立てにより行う。選任は裁判所の職権事項であり必ずしも申請した親族が選任されるとは限らない(民法第843条)。選定にあたっては成年後見人となる者の職業及び経歴や被後見人との利害関係の有無及び被後見人の意見その他一切の事情などを考慮され審判されるからである。
 後見人は被後見人に代わって法律行為をすることができるが、居住用不動産の処分行為(売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定等)には家庭裁判所の許可が必須となっている(民法第859条の3)。
 後見人の業務は、財産管理と身上監護に関する法律行為及び家庭裁判所への報告が規定されている。不動産の処分は必要性があれば財産管理として売却などの法律行為を後見人の判断で行うことができる。ただし不動産のうち居住用財産は生活の本拠でもあり、処分は被後見人の心身・生活に非常に大きな影響を与えることになり許可を得る必要がある。
 後見開始後、後見人は家庭裁判所に居住用不動産処分許可審判の申立をするが、処分の可否に際しては、居住用財産処分の必要性や相当性(売却価額の妥当性)などが判断される。
 具体的には居住用不動産処分許可審判の申立書に売却の事情や必要性、資金使途などを申し立ての理由として記載するとともに、相当性を示すために不動産媒介業者の当該不動産の査定書や予定の買主並びに売買金額記載の売買契約書案の添付が必要となっている。
 なお、許可を得ないで売買等の処分行為をした場合は無効と解されている。
 質問3について ― それぞれの手続に要する期間は、後見人の選任が3~4か月、居住用不動産処分許可審判の申立から許可までは3~4週間程度と言われている。ただし、後見開始の審判の申立に必要な被後見人の医師の診断は個別に事情により異なるので期間は前後することがある。
 媒介業者の顧客探索期間や売買契約から決済までの時間を見る必要があるので、相当の期間を要することを念頭に入れておいたほうがいいであろう。
 なお、居住用不動産処分についての許可は必ずしも裁判所の許可が下されるとは限らず、媒介業者としては、後々、トラブルが起こらないよう売主代理である後見人及び買主には十分な説明と理解してもらうことを心がけなければならない。

〈成年被後見人所有の居住用財産の売却までのフロー図〉

手続 相手先 備考
 1  相続財産所有権移転登記 登記所  単独申請
 2  成年後見開始審判の申立 家庭裁判所
 3  媒介契約書(不動産売却)締結 不動産業者
 4  不動産売買契約条件の確定 同上
 5  居住用不動産処分許可審判の申立 家庭裁判所  売買契約書案等添付
 6  不動産売買契約書締結 不動産業者
 7  不動産売買契約決済(売買代金受領)
 不動産所有権移転登記手続
不動産業者
司法書士

参照条文

 民法7条(後見開始の審判)
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
 民法第826条(利益相反行為)
 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
 (略)
 民法第843条(成年後見人の選任)
 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。
 成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任する。
 成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。
 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
 民法第859条(財産の管理及び代表)
 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
 (略)
 民法第859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)
 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
 民法第860条(利益相反行為)
 第826条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。
 民法第898条(共同相続の効力)
 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
 民法第907条(遺産の分割の協議又は審判等)
 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
 (略)
 不動産登記法63条(判決による登記等)
 (略)
 相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。

監修者のコメント

 超高齢社会を迎え、高齢者が施設に入るための資金を捻出するために、所有不動産を売却するケースが増えつつあるが、判断能力の欠如または減少を理由に本人の相続人から意思能力の不存在あるいは公序良俗違反、錯誤などの理由で売買契約の無効を主張されるケースも増えている。したがって、売主となる者の判断能力に確信のないときは、回答にある「成年後見制度」を利用することを提案することが紛争に巻き込まれないための方策である。
 なお、成年後見開始の審判を一旦申立てたときは、家裁の許可がなければ申立ての取り下げはできないことになっている。成年後見人になろうとして申立てた者が、裁判所が自分ではなく、他の適切な人を選任しそうだということを察知して、取り下げることがあり、これを認めることは本人の保護にならないからである。
 また、売買契約書案には、「万一、家庭裁判所の処分許可が得られなかったときは、本契約の効力は生じないものとします。」という当然のことを念のため入れておくことと、「売主は、本物件に隠れた瑕疵が存在したとしても、その責任は負わないものとします。」という瑕疵担保免責特約を入れておくことが、適切である。

より詳しく学ぶための関連リンク

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