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賃貸事例 1308-R-0121
事業用定期借地契約の公正証書作成前のキャンセルと媒介報酬請求

 期間20年の事業用定期借地契約の覚書が締結されたが、公正証書の作成前に、貸主からキャンセルの申し出がなされた。
 このような場合、覚書が締結されている以上、貸主には公正証書を作成する義務があると思うが、どうか。もし義務があるとした場合、どのようにしたら公正証書を作成させることができるか。仮に、覚書の締結だけでは有効な事業用定期借地契約が成立していないとしても、少なくとも民法上の期間20年の借地契約は成立していると思うが、どうか。このような場合、媒介業者は報酬請求ができるか。

事実関係

 当社は、ある会社から事業用定期借地契約の媒介を依頼されたので、昔からよく知っている地主に話をし、借主との間で条件を詰めてきた。そして、条件が折り合ったので、「事業用定期借地権設定覚書」を作成し、双方の署名押印を取り付けた。
 ところが、その後地主に公正証書を作成するための委任状と印鑑証明書の用意をするようお願いしたところ、地主が急に契約をキャンセルすると言い出した。その理由は、地主の全く一方的なもので、自分でもその土地の利用を考えてみたいからだというのである。
 なお、本件の覚書には、次のような事業用定期借地権設定のための合意文言や賃貸借の期間、公正証書を作成するための条項などが定められている。
「(目的)

   第1条  貸主は、その所有する後記土地(以下「本件土地」という。)を借主に賃貸し、借主はこれを賃借する。
   (事業用建物の表示)
   第2条  本契約は、借主が本件土地上に、次の事業の用に供する建物を所有することを目的とする。
〔事業の内容〕 (略)
〔建物の概要〕 (略)
   (賃貸借の期間)
   第3条  賃貸借の期間は、本覚書に基づいて公正証書が作成された日から20年間とする。
   (公正証書の作成)
   第10条  貸主および借主は、本覚書第1条から前条までをその内容とする公正証書を、平成〇〇年〇月〇日までに〇〇公証役場において作成する。
   2.前項の公正証書作成の費用は、貸主、借主が折半して負担する。」

質問

  •  借主は、貸主が覚書に署名押印をしている以上、事業用定期借地契約は成立しているのであるから、貸主には公正証書を作成する義務があると主張しているが、この主張は正しいか。もし正しいとした場合、貸主に公正証書を作成させるにはどのような方法があるか。
  •  借主は、仮に、本件の契約が覚書の締結だけでは事業用定期借地契約としては有効に成立していないとしても、少なくとも民法上の期間20年の借地契約としては有効に成立していると考えられるので、貸主は借主に対し、土地を引渡すべきだと主張しているが、この主張は正しいか。
  •  このような場合、当社は契約の当事者に対し、媒介手数料の請求ができるか。
  •  このような公正証書作成前のキャンセルを防止するために、何か良い方法はないか。

回答

1.   結 論
 質問1.について ― 事業用定期借地契約が成立しているという借主の主張は正しくないが、貸主には公正証書を作成する義務があるという主張は正しい。しかし、貸主がその作成に協力しない以上、公正証書を作成することは難しい。
 質問2.について ― 正しくない。
 質問3.について ― 成功報酬としての媒介手数料の請求はできないと解されるが、状況いかんによっては、民法第130条(条件の成就の妨害)の規定により、報酬請求ができる余地が全くないとはいえない。また、借主からも契約締結上の過失理論による相応の損害賠償請求は可能と解される。
 質問4.について ― 覚書締結時に、損害賠償額の予定を兼ねた手付金を授受することにより、かなりのキャンセル防止になると考えられる。因みに、その覚書における条文の記載例としては、次のようなものが考えられる。
「(手付金)
第〇条  借主は、この覚書締結と同時に、手付金として、賃料の〇年分相当額(金〇〇〇円)を貸主に支払う。ただし、手付金には利息を付けない。
2.  前項の手付金は、第10条の規定に基づく公正証書作成時に、保証金の一部に充当する。
3.  第10条に定める期日までに公正証書が作成されなかった場合、貸主がその作成義務に違反したときは、貸主は借主に対し受領済の手付金の倍額を支払い、また借主が作成義務に違反したときは、借主は貸主に対し支払済の手付金を放棄し、それぞれその相手方に対する損害賠償に代える。」
2.   理 由
について
 本件の覚書は、事業用定期借地権を設定するための事前の合意文書であり、その設定のためには、別途当事者間で公正証書を作成する必要がある。そしてそれが、本覚書においても合意されており、法定条件でもあるので(借地借家法第23条第3項)、本件の場合は、まだ公正証書が作成されていない以上、設定のための合意はしたが、設定そのものはまだなされていないということになる。
 したがって、質問にある「事業用定期借地契約は成立しているのであるから(云々)」という借主の主張は正しいとはいえないが、事業用定期借地権設定のための合意はしているので、借主が貸主に対し、約定に基づいて公正証書を作成するよう請求することはできる。しかし、その場合においても、公正証書についてはその作成権限が公証人にしかないだけに(公証人法第1条第1号)、結論で述べたように、貸主の協力(公証人への嘱託)がない限り、公正証書は作成されないということになる。
について
 借地借家法は、「事業用定期借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。」と規定しているので(同法第23条第3項)、公正証書が作成されていない事業用定期借地契約は、その効力はもとより、契約そのものが成立していないと解される。
 しかし、かといって、質問にあるような期間20年の民法上の借地契約が成立しているともいえない。なぜならば、本件の借地契約に関する当事者の意思は、あくまでも事業用の定期借地契約を締結するというところにあるからである。
について
 本件の覚書は、事業用定期借地契約に関する一種の予約あるいは停止条件付の契約と考えることができるので、当事者間に公正証書の作成という再度の行動を伴った合意あるいは停止条件が成就されない限り、原則として媒介業者に報酬請求権は発生しないと解される。
 しかし、本件のケースの場合は、貸主側の一方的な合意の破棄と考えられるので、状況いかんによっては、結論で述べたような条件成就妨害の法理(民法第130条)により、報酬請求ができる余地が全くないとはいえない。また、借主からも契約締結上の過失理論による相応の損害賠償請求が認められる可能性はある。
について
(略)

参照条文

民法第130条(条件の成就の妨害)
 条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
借地借家法第23条(事業用定期借地権等)
、② (略)
 前項に規定する借地権の設定を目的とする契約は、公正証書によってしなければならない。
公証人法第1条(公証人の権限)
公証人ハ当事者其ノ他ノ関係人ノ嘱託ニ因リ左ノ事務ヲ行フ権限ヲ有ス
一 法律行為其ノ他私権ニ関スル事実ニ付公正証書ヲ作成スルコト
二~四 (略)

監修者のコメント

 事業用定期借地契約は、契約自体の成立に公正証書の作成が必要であり、本ケースは契約がそもそも成立しない。また、当事者の意思は、事業用定期借地契約を締結しようというものであるので、普通の借地契約の成立も認められない。
 このようなケースは、「契約締結上の過失」に基づく損害賠償責任の問題となる。この理論は、明文の規定はないが、契約の締結に向けてその交渉段階に入った者同士は、互いに相手方に不測の損害を与えないようにする信義則上の義務があり、この義務に違反した当事者は相手方に生じた損害を賠償する責任があるというものである。ただ、本件では借主が契約が有効に成立するであろうと信じたために出費したものがあれば別であるが、そういうものがなければ、損害の立証はなかなか難しいと考えられる。

より詳しく学ぶための関連リンク

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