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不動産業支援

瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換と、本ホームページ掲載の紛争事例に関して

1.瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換

⑴瑕疵担保責任と契約不適合責任とにおける基本的性格の違い

 令和2年4月1日施行の改正民法は、債権法の分野を中心とした改正であるが、重要な改正点の一つが「瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換」である。
 改正前民法では、売買の目的物が通常有すべき品質や性能を欠くことを「瑕疵」と呼び、隠れた瑕疵があった場合には売主が「瑕疵担保責任」として損害賠償や解除の責任を負うとされていた。
 改正前民法下での伝統的な考え方では、不動産のような取替えのきかない「特定物」については、隠れた瑕疵があっても売主が修補等の追完をする余地はなく、売主は、目的物を現況で買主に引き渡せばとりあえず債務の履行を完了したことになり、債務不履行ではないとされていた(いわゆる「特定物ドグマ」)。ただ、それでは対価を支払う買主に不公平なため、法律が債務不履行責任とは別の「瑕疵担保責任」という制度を設け、買主に損害賠償請求と契約解除の二つの救済手段のみを与えたものと説明されていた(法定責任説と呼ばれる)。
 しかし、売買契約を締結した当事者は当然、目的物に欠陥等がないものと想定していたはずで、上記の伝統的な考え方は当事者の意思や常識からかけ離れていると批判されてきた。
 そこで、令和2年4月1日施行の改正民法は、売買の目的物が特定物か不特定物かを問わず、目的物を現況で引き渡すだけでは足りず、売主は「契約の内容に適合したもの」を引き渡す契約上の債務を負うという考え方を前提に、引き渡された目的物に欠陥等の契約不適合があれば、売主は債務の履行を完了しておらず、債務不履行責任を負うという制度に改めた(契約責任説と呼ばれる)。
 すなわち、売買において買主に引き渡された目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」であるとき、売主は、契約上の債務として契約不適合のない目的物を引き渡さなければならないから、買主は売主に対し、①修補などの追完請求(第562条)や、②代金減額請求(第563条)ができることとなった。また、契約不適合のある目的物を引き渡しても債務の履行を果たしたことにならないため、買主は、債務不履行の一般原則により、③損害賠償請求(第415条)や④契約解除(第541条・第542条)ができるとされた(第564条)。

従来の瑕疵担保責任と契約不適合責任の差異を対比すると、次表のとおりである。

<瑕疵担保責任と契約不適合責任の比較表>

項目 瑕疵担保責任 契約不適合責任
条文 旧第570条(同第566条を準用) 第562条以下
対象の契約 令和2年3月31日までに締結された契約 令和2年4月1日以降に締結された契約
法的性質 法定責任 契約責任(債務不履行責任)
目的物 特定物に限る 特定物・不特定物を問わない
責任の対象 隠れた瑕疵 契約不適合(目的物が種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないもの)
買主の要件 善意・無過失 善意・無過失は要件ではない
売主の要件 無過失責任(帰責事由は不要) 損害賠償を除き帰責事由は不要
責任の内容
(買主の権利)
追完(修補) × 〇(売主の帰責事由不要)
代金減額 × 〇(売主の帰責事由不要)
損害賠償 〇(売主の帰責事由不要) 〇(売主の帰責事由が必要)
解除 〇(売主の帰責事由不要) 〇(売主の帰責事由不要)
損害賠償の範囲 信頼利益に限る 履行利益に及び得る
解除の要件 契約目的を達することができない場合 契約不適合が軽微でない場合
買主の権利の期間制限 瑕疵を知った時から1年以内の権利行使 種類または品質の契約不適合を知った時から1年以内の通知

⑵契約不適合の概念

 引き渡された目的物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」であるかどうかは、売買契約の目的、経緯、書面の内容といった個々の契約の具体的諸事情と、取引上の社会通念に照らして決せられる(第483条「特定物の現状による引渡し」参照)。
 改正前民法の「瑕疵」に該当するかの判断において、判例は「契約当事者が予定していた品質や性能」等も考慮していたことから、「瑕疵」と「契約不適合」は大きく異なるわけではないとされる。ただ、法文上「契約の内容に適合するか否か」の判断となることから、契約書の記載内容や当事者の認識が、より重視される傾向が強まるとの指摘もある。
 なお、瑕疵担保責任では「隠れた瑕疵」であること、すなわち買主が瑕疵について善意・無過失であることが適用要件とされていたが、契約不適合責任では、買主が欠陥を知り得たからといって売主を免責する必然性はないとして、買主の善意・無過失は要件ではなくなった。買主が欠陥等を知っていたという事情は、契約内容としてどのような品質を予定していたかを確定するための重要な判断要素とはなるが、それのみをもって売主が担保責任を回避できるとは言い切れなくなった。

2.いわゆる「心理的瑕疵」における民法改正等の影響

 心理的瑕疵は、不動産取引の中では、①売主の担保責任、②売主や賃貸人並びに媒介業者の説明義務、③物の保管に関する賃借人の善管注意義務、という主に三つの場面で問題とされてきた。今般の民法改正が、これらの取扱いに影響を及ぼすかどうかを検討すると、次のとおりである。

①売主の担保責任

 改正前民法が売主の担保責任として「権利や目的物の瑕疵(旧第566条・第570条)」と規定していたことにも関連して、不動産取引では、目的物に関する権利や、物理的・客観的な性能等に問題がない場合でも、買主や借主の物件選択の意思決定などに影響を及ぼす重大な事情、嫌悪すべき歴史的背景などがある場合は、これも瑕疵担保責任における「瑕疵」の内容を構成するものと捉え、目的物件での過去の自殺や重大な事件事故の発生などを「心理的瑕疵」と称してきた。この他、住環境などに関連するものを「環境瑕疵」と言う場合もある。
 民法改正後の契約不適合責任においては、「瑕疵」の概念が撤廃され、「契約の内容に適合するか」が基準となる。過去の嫌悪すべき歴史的背景が契約不適合の問題として扱われるようになっても、その該当性については、基本的にはこれまでと同様の考え方に基づいて判断されるものと思われる。ただし、契約目的や当事者の認識など、主観を含む事項が重視される傾向が強まるとの見方もある。これまでにも、自殺や殺人など過去の嫌悪すべき歴史的背景の不存在が契約内容になっていたことを、売主の責任を認めるうえでの要因としていた事例もあり(東京地裁・平成25.3.29判決)、このような傾向がさらに強まる可能性があろう。
 契約内容や目的が重視されることで、従来の「心理的瑕疵」に該当する事項を「契約不適合」と判定することに、より親和性がある(認められやすくなる)のではないかと思われる。

②売主や賃貸人、媒介業者の説明義務

 売主等の説明義務については、民法上の明文はない。今般の民法改正の立法過程において、契約の一方当事者の説明義務を明文化することが提案されていたが(法制審議会民法[債権関係]部会)、立法化の方向性に関し、契約締結に必要な情報は自己の責任で収集する原則を中心にする考え方と、情報の偏在や契約主体の専門性の差違を説明義務によって是正することを重視する考え方のいずれをとるかにつき、コンセンサスを得ることができず、条文化はされなかった。したがって、今回の民法改正により心理的瑕疵の説明義務の取扱いが影響を受けることはない。
 他方で、心理的瑕疵については、売主や貸主に告知義務があるとされ、媒介業者も物件広告において「告知事項あり」等の表示をする取扱いが行われているが、事象の発生後いつまで説明すべきかなどの点は明確な基準もなく、ある面では不動産流通の阻害要因にもなっている。
 このような状況をふまえ、国土交通省は「不動産取引における心理的瑕疵に関する検討会」を開催し、その成果として令和3年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」が策定されている。人の死に関する宅建業者としての調査義務や、説明義務の範囲等がまとめられており、実務上も重要な事項であるので、同省のホームページでガイドラインの内容を確認していただきたい。
※国土交通省ホームページ:
「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定しました

③目的物の保管に関する善管注意義務

 賃借人の自殺や孤独死など心理的瑕疵に該当する事象が賃貸物件で発生すると、目的物の汚損や、その後の契約に関する賃料の低下などが生じて、賃借人の善管注意義務の有無として争いとなる場合がある。特定物を引き渡すべき債務者は「善良な管理者の注意」をもって物を保管しなければならないものとされている(第400条)。
 判例では、賃借人が自殺して賃貸物件を汚損したことは賃借人の善管注意義務に該当するとし、目的物の特殊清掃や内装工事費用、後の契約の賃料減額分の一定範囲は損害として賃借人の相続人に支払い義務があるとしたものがある(東京地裁・平成19.8.10判決)。他方で、賃借人が病気で突然死して発見されるのが遅れたなどの事案では、病気で突然死したことについては原則として賃借人本人や親族等に責任はなく、賃貸人から相続人への債務不履行・不法行為による損害賠償請求、原状回復請求を否定した判例(東京地裁・平成19.3.9判決)や、債務不履行等は否定しつつも原状回復請求を容認した判例(東京地裁・昭和58.6.27判決)もある。
 善管注意義務については今回の民法改正では実質的な見直しはなされず、今後もこれまでのとおりである。一方、人が室内で死亡した後の特殊清掃や内装工事につき原状回復の問題として捉えられることがあるが、今回の民法改正で原状回復について条文が設けられており(第621条)、賃借人負担が義務づけられる室内清掃や内装工事の範囲に関しては、この条文の解釈により決せられることになる。
 日本では高齢の単身者世帯が増加する傾向にあり、今後も賃借人の孤独死等が増加するものと見られている。このような事態は、単に賃貸人と賃借人の契約上の問題として対応するだけでは足りず、行政や社会全体による高齢者の見守り等の制度の確立、賃貸人に発生した損害を補填するための保険制度の拡充などが必要であろう。

3.本ホームページ掲載の紛争事例に関して

 本ホームページに掲載している紛争事例に関しては、改正前民法における瑕疵担保責任に関するものも含まれている。これらの事例を残している趣旨は以下のとおりである。
 ①令和2年3月31日までに締結された売買契約等については改正前民法が適用されるため、今後も当面、瑕疵担保責任に関する紛争が発生しうること。
 ②前記のとおり「瑕疵」と「契約不適合」の判定では大きく変わらない側面もあり、売主の責任や事案の解決等に関して、これまでの「瑕疵担保責任」の紛争事例が参考となること。
 契約不適合責任に関する裁判所の判断については、今後の判例の積み重ねを待つことになる。

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