2025年06月26日公開
奥州西街道は、福島県相馬地方から中通りの村々へ海産物を運ぶ塩の道として知られた。その宿場町である白髭宿。現存する石垣が今もその面影を残す。
ここは、阿武隈川氾濫原の地質や冬の寒さなどが桑や繭の生産に適したことから、養蚕の目的で納屋を母屋の隣に築造する世帯が多かった。やがて養蚕業が衰退すると納屋は持て余すようになり、いつしか物置と化していった…。
当案件はそんな納屋を、Uターンしてくる若夫婦の住処とすることはできないか? という依頼から始まったのだ。
築63年になることから、当初は建替えも考えたそうだ。しかし、出桁造り特有の深い軒を持つ構造体を、曳家により健全な基礎に組み替えられていたこと、また近年、屋根の改修が行われていたことから、取り壊すには惜しい。耐震診断を行い、既存部を活かしつつ要望の空間を丁寧に思案すること1年。いざ着工というところで意外な問題点が浮き彫りとなる。
既存の用途が納屋の場合は、リフォーム瑕疵保険に加入できなかった。そこで当案件は、R5(リノベーション協議会が定める一戸建て住宅の品質基準に適合)を取得し施主の不安を払拭できるよう配慮した。既存・新設が明確になり今後のケアにも有効である。
隣接する母屋の親世帯と程よい距離で繋がり、核家族の形を保ちつつ多世代で暮らすことは、安心感が得られると同時に綺麗事では済まされない[多世代同居の難題]を緩和できる新しい形かもしれない。また、養蚕のため少数の柱で形成された構造は、間仕切壁の解体が不要で壁の計画が自由だ。
過去と現在を繋ぐ、中間領域的な階段室を主動線とした納屋の改修には、竣工後「お気に入りの我が家を育てていきたい」との言葉を頂いた。
育てるとは成長。今より味わい深く成長させるため、愛着を持ちお住まいいただけるということだろう。そうして大事に育てられた建物は次世代へ繋がる。
着工前の片付け時、親子で片付ける姿、また、そこに祖父母が加わる姿に大変感銘を受けた。この建物が、子々孫々に受け継がれていく一幕を見たような気がしたのだ。
どんな建物であれ親が子を、又は子が親を思う気持ちが、建物の価値を残し受け継がれるものになる。相互の思いが重なり親子の対話も自然に生まれる。目には見えないリノベーションの価値は、実はこんなところにあるのかもしれない。
所 在 | : | 福島県二本松市 |
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築 年 月 | : | 1961年4月 |
構 造 | : | 木造 |
リノベーション面積 | : | 134.25m2 |
施工期間 | : | 6ヶ月 |
設計施工 | : | 有限会社斉藤工匠店 |
資料提供:有限会社斉藤工匠店 | ||
写真:YY(横山芳樹) | ||
「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024」PLAYERS CHOICE及び実家 アネックス・リノベーション賞受賞作品(有限会社斉藤工匠店) |