1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。
パリ第三大学留学後、フランス在住。シンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。またフリージャーナリストとして著書『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書) 他。
2019年05月29日公開
日本では3月ですが、フランスでは5月が所得税の申告です。今年から給与の源泉も始まりましたが、まだまだすべての人が申告をしなければなりません。
さて、フランスの歴代政府は、いったん国の財布にお金を入れてから公共投資するのではなく、減税して民間資金を一定の分野に誘導するという手段をよくつかいます。毎年、その時々の政策の優先順位によって対象は変わるのですが、不動産関係では、20年ほど前から賃貸のために新築物件または大規模な改築物件に投資すると、賃料収入に一定の控除が受けられるという制度が続いています。
賃貸物件の供給を増やすのが目的ですが、その適用条件は情勢によって法改正され、担当大臣の名で呼ばれます。いまは、「ピネル」法。フランスの各市町村を住宅需給関係の緊張度によりクラス分けして、その中でもレベルの高い地域で新築住宅(集合、戸建て)を買い、最低6年賃貸すると賃料収入に対する所得税が63,000ユーロ(約820万円)を上限として12、18または21%税額控除される、というものです。
前に調査したボルドーの旧港再開発ではこの法律を利用したマンションがずいぶんありました。ほぼ全部完成していたのですが、以前本欄でご紹介した「将来完成した状態での売却」を組み合わせることによって、すでに土地整備を始める段階で売却を終えていたそうです。
ところで、フランスでも日本と同じく、不動産収入と給与や事業収入は別建てになっていますが、さらに賃貸が空室(ここでは家具などが付いていない空(から)の部屋をさします)か家具付きかで別扱いになります。
空室の場合は、「不動産収入」ですが、家具付きですと「事業収入」(商工業収入)になります。社会保障負担も納めなければなりません。賃貸の制度そのものも異なっています。空室の賃貸契約期間は3年(法人が所有者の場合は6年)ですが、家具付きですと1年で、解約しなければ自動更新(学生の場合は学年に合わせて9カ月で自動更新なし)です。
空室と家具付きを分ける制度ができた1989年の法律では、家具付きの要件として「適切に寝て、食べて、生活できる」設備があること、とだけあったのですが、2015年に必要な11のアイテムのリストが政令で出されました。寝室の外光を遮断するもの、ガス(電気)台、オーブンまたは電子レンジ、冷蔵庫、食器、調理器具、テーブルとイス、収納棚、照明器具、清掃用具で、洗濯機は必要なくてもオーブンがあるところなどフランスらしいです。これらは最低条件で、欠けた場合は空室契約とされます。
フランスの日本人向きのメディアに「家具付き」という広告がよく出ていますが、この条件をきっちり守っているとは限りません。もしそうであったら税務署で修正申告が求められるかもしれませんので注意が必要です。
1日単位、週単位で家具付きを貸すのは「観光用家具付き賃貸」という別のカテゴリーになります。昨年法律ができて、最高で年に120日までとなりました。しかも市町村に登録して登録番号をもらわなければなりません。
とくに日本の投資家が日本の観光客向けにこのように貸すというは、かなり前から知る人ぞ知るパリのマンションの投資ノウハウになっていたのですが、Airbnbなどでいわゆる民泊があまりにもはびこってしまい、規制ができてしまったのです。ネット時代は便利なのですが、少々やりにくい世の中になってきたのも事実です。
<第1回>建物がうまくいけばすべてうまくいく!
<第2回>資産としての不動産
<第3回>“門”の内と外
<第4回>ノテール事務所
<第5回>ゴルフ場開発の資金は別荘地売却で
<第6回>Habitat indigne(「不適切な住宅」)と logement indécents
<第7回>不動産店舗取引の3つのキーワード「mur(ミュール)」「Bail(バイユ)」「Fonds(フォン)」
<第8回>リバースモーゲージとは似て非なる「ヴィアジェ」の話
<第9回>分業で行われるフランスの新規住宅供給
<第10回>開発・分譲で利用される「将来完成する状態での売却」とは?
<第11回>フランスの歴史的文化財(monument historique)
<第12回>賃貸収入の税控除と賃貸制度のしくみ
<第13回>固定資産税とは異なる「不動産税」の考え方
<第14回>老後資産の主役は「不動産」
<第15回>不動産の特徴を享受できる“SCPI”