世界の不動産事情

広岡 裕児氏 

1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。
パリ第三大学留学後、フランス在住。シンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。またフリージャーナリストとして著書『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書) 他。

広岡 裕児氏

2019年04月01日公開 

開発・分譲で利用される「将来完成する状態での売却」とは?(フランスの不動産事情<第10回>)

前回、フランス版リート(SIIC)などの例外はのぞいて、不動産開発が分業になっていることをレポートしました。なお、タイトルを「新規住宅供給」としてしまいましたが、オフィスビル、ショッピングセンターそのほかにおいても同じです。

この分業の中で、土地購入から建物の建築販売までおこなうのがプロモーターですが、銀行から大きく融資を受けて事業を進めるわけではありません。新規の開発であれ、町の中の古ぼけたビルであれ、いい物件を見つけたらすぐに将来の建物を一棟買いする投資家を探します。街中の古ぼけたビルを取り壊して新築する場合には、所有者と「取り壊し許可、建築許可が下りたら」取得するという停止条件付で契約を結びつつ、投資家に「建築許可が下り、物件取得したら」という停止条件付きで売却するということで、つなぎ融資すらなしに土地の手当てをすることもあります。

なお、土地の造成業者も、未整備の土地を「造成許可が出たら」という条件付きで土地の所有者と契約しつつ「造成許可、建築許可がでたら」という停止条件付きでプロモーターに売却することもあります。一棟買いの投資家との取引で使われるのが、将来完成する状態での売却(VEFA)という手法です。投資家は、全額分の銀行保証で支払い能力を証明したうえで、まず30~40%を支払い、そして、基礎工事完成、屋上・屋根完成……と工事の進行に従って支払っていきます。契約には各段階で停止条件付きがつけられます。その間のリスクは保険でカバーします。これだけでは、頭金を払って、分割払いするのと変わらないようですが、初めの支払いの時に土地建物の所有権が移るという大きな違いがあります。

そのため、すぐに投資家は一括転売や分譲を開始できるのです。分譲購入者は、やはり同じように銀行保証と停止条件付きをつけたVEFA契約で工事の段階別に支払います。その結果、一棟買いした投資家は第1回の支払いを除いて、分譲で入った収入を右から左に流せばいいということになります。

ですから、完成した土地建物の価格を100、分譲総額を120とすると、うまく完売できれば実際の支出は初めの40%分だけですから40で20、つまり50%の儲けとなります。単純な分割払いならば、投資家は100支払って120受け取り、差し引き20つまり20%だけです。一棟買いする投資家も、住宅マンションで1区画ごとに分譲するのはもちろんのこと、オフィスビルや店舗でも区画やフロアごとに購入する投資家がいるので、適宜分譲を混ぜてキャッシュの確保と空室リスクの回避を行います。

<第1回>建物がうまくいけばすべてうまくいく!
<第2回>資産としての不動産
<第3回>“門”の内と外
<第4回>ノテール事務所
<第5回>ゴルフ場開発の資金は別荘地売却で
<第6回>Habitat indigne(「不適切な住宅」)と logement indécents
<第7回>不動産店舗取引の3つのキーワード「mur(ミュール)」「Bail(バイユ)」「Fonds(フォン)」
<第8回>リバースモーゲージとは似て非なる「ヴィアジェ」の話
<第9回>分業で行われるフランスの新規住宅供給
<第10回>開発・分譲で利用される「将来完成する状態での売却」とは?
<第11回>フランスの歴史的文化財(monument historique)
<第12回>賃貸収入の税控除と賃貸制度のしくみ
<第13回>固定資産税とは異なる「不動産税」の考え方
<第14回>老後資産の主役は「不動産」
<第15回>不動産の特徴を享受できる“SCPI”

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