世界の不動産事情

広岡 裕児氏 

1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。
パリ第三大学留学後、フランス在住。シンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。またフリージャーナリストとして著書『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書) 他。

広岡 裕児氏

2019年01月04日公開 

不動産店舗取引の3つのキーワード「mur(ミュール)」「Bail(バイユ)」「Fonds(フォン)」(フランスの不動産事情<第7回>)

催涙弾と黒煙に煙るシャンゼリセの光景が世界中を駆け巡っています。まるでパリ中が大騒ぎのようですが、実際には一部の地区、しかも土曜日だけなのですが。とはいえ、一番のかき入れ時のクリスマス前の商店にとってはたまったものではありません。

ところで、フランスの店舗取引には、「mur(ミュール)」「Bail(バイユ)」「Fonds(フォン)」の3つのキーワードがあります。

「mur(ミュール)」は「壁」のことで、不動産としての所有のことです。これは、普通の不動産物件としての取引です。

「Bail(バイユ)」は「賃貸借」のことで、店舗の場合、住宅とは別の「商業賃貸」です。9年契約で、3年ごとに退居の可能性があります。契約期間の途中で出て行くときでも最後まで支払わなければなりません。そこで、中途退居の場合には、次に入る人がその権利を引き継ぐという形になります。よく広告に「Bail残り20カ月」などと書いてあり、そういう物件に入居すると20カ月後には新しい賃貸借契約を結ばなければなりません。

なお、「droit au bail(賃貸借権)」として、後述の「Fonds」の一部としてプレミアがつくこともあります。また、多額の入居金を取り、月々の賃料は些少という形式での賃貸の場合の入居金のことも「droit au bail(賃貸借権)」といいます。

「Fonds」は「Fonds de commerce(商業財産)」の略です。お店が持っている在庫や設備、賃借権など、まさに「壁」以外のもの全てです。そのなかには、「評判」や「顧客」も入ります。「のれん代」のようなものですが、年商を目安にその50%とかいう形で決められます。客の増加などが望める場合には100%を超えることもあります。価格は、最終的に相対で決めるのですが、業種ごとに相場はあります。

「mur(ミュール)」は店の不動産の所有者だけに関係し、「Fond(フォン)」は現在入居して営業している人と引き継ごうという人との間の話で、不動産の所有者は関係ありません。

店舗に関する広告では、よく三者が混在しているので注意しなければなりません。

<第1回>建物がうまくいけばすべてうまくいく!
<第2回>資産としての不動産
<第3回>“門”の内と外
<第4回>ノテール事務所
<第5回>ゴルフ場開発の資金は別荘地売却で
<第6回>Habitat indigne(「不適切な住宅」)と logement indécents
<第7回>不動産店舗取引の3つのキーワード「mur(ミュール)」「Bail(バイユ)」「Fonds(フォン)」
<第8回>リバースモーゲージとは似て非なる「ヴィアジェ」の話
<第9回>分業で行われるフランスの新規住宅供給
<第10回>開発・分譲で利用される「将来完成する状態での売却」とは?
<第11回>フランスの歴史的文化財(monument historique)
<第12回>賃貸収入の税控除と賃貸制度のしくみ
<第13回>固定資産税とは異なる「不動産税」の考え方
<第14回>老後資産の主役は「不動産」
<第15回>不動産の特徴を享受できる“SCPI”

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