世界の不動産事情

広岡 裕児氏 

1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。
パリ第三大学留学後、フランス在住。シンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。またフリージャーナリストとして著書『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書) 他。

広岡 裕児氏

2018年10月19日公開 

ゴルフ場開発の資金は別荘地売却で(フランスの不動産事情<第5回>)

先日、ゴルフの欧米対抗戦ライダーカップが公益法人フランスゴルフ連盟直営のパリ郊外のル・ゴルフ・ナショナルで開催されました。

同ゴルフ場は、1988年着工90年10月開場ですが、この頃、フランスでは、ゴルフ場を作ることが流行していました。そのほとんどが公共の関与するプロジェクトでした。

観光とバカンス客の誘致、地域活性化の目玉として、おりから地方分権化で権限の増した地方公共団体がこぞって参画したのです。なにしろ、ゴルファーは購買力が高いので一般観光客よりも6割以上多くお金を落としていくのだそうです。また、日の長い夏には、仕事が終わってからハーフを回れるというのを、アングロサクソン系の企業を呼び込む材料にしたところもあります。

もともと国土の広いフランスのこと、環境保護にも役立つということで国レベルの国土整備の中でも奨励されました。

民間ではなく、公共のプロジェクトが多かったのには経済的理由もあります。

日本では会員権発行で事業を立ち上げていましたが、フランスでは、昭和天皇が皇太子時代にプレーしたラ・ブーリーをもつ「ラシン・クラブ・ド・フランス」のように、あくまでも会員権本来の制限されたプライベート・クラブとすることが目的です。ですから資金は会員権ではなく、敷地内の別荘の売却で回収します。

このとき、ゴルフ場の中の土地利用を細かく分けて、コースにあたる部分は建築不可能にして、分譲する部分だけを宅地扱いとし、さらに建蔽率・容積率なども変化をつけることができれば、土地の買収価格も安くなりますし、別荘地部分も売りやすくなります。

とはいえ、別荘地はあくまでもゴルフ場の一部であって、このように、作為的に土地価格を低く抑える措置を民間開発のためにおこなったら、裁判を起こされてしまいます。

しかし、公共のプロジェクトなら可能でした。出来上がるものはスポーツ施設であり、地域雇用にも貢献するので公共の利益の原則にもかないますし。

宅地を売って資金回収した後、コースの方は、収益リスク移転・維持管理まで含めたコンセッション方式で運営権を民間に委託します。こうして、行政は素人経営する必要もなく、民間業者のノウハウが発揮されるわけです。



<第1回>建物がうまくいけばすべてうまくいく!
<第2回>資産としての不動産
<第3回>“門”の内と外
<第4回>ノテール事務所
<第5回>ゴルフ場開発の資金は別荘地売却で
<第6回>Habitat indigne(「不適切な住宅」)と logement indécents
<第7回>不動産店舗取引の3つのキーワード「mur(ミュール)」「Bail(バイユ)」「Fonds(フォン)」
<第8回>リバースモーゲージとは似て非なる「ヴィアジェ」の話
<第9回>分業で行われるフランスの新規住宅供給
<第10回>開発・分譲で利用される「将来完成する状態での売却」とは?
<第11回>フランスの歴史的文化財(monument historique)
<第12回>賃貸収入の税控除と賃貸制度のしくみ
<第13回>固定資産税とは異なる「不動産税」の考え方
<第14回>老後資産の主役は「不動産」
<第15回>不動産の特徴を享受できる“SCPI”

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