世界の不動産事情

広岡 裕児氏 

1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。
パリ第三大学留学後、フランス在住。シンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。またフリージャーナリストとして著書『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書) 他。

広岡 裕児氏

2018年09月25日公開 

ノテール事務所(フランスの不動産事情<第4回>)

メトロのキオスクに大きく「immobilier(不動産)」の文字がありました。フランスを代表する週刊誌「レクスプレス」の広告です。別に何かスキャンダルがあったわけではなく、本年6月末現在のパリおよび首都圏と672の地方都市の不動産価格の一覧です。新学期にあたるこの頃、ちょうど日本の大学入学出身校のようによく特集されます。

ちなみに、パリ市の平均は1㎥あたり9300€(約120万円)、昨年比+7.1%でした。

情報源は Notaire 会議所。Notaire(ノテール)は、「公証人」と訳されていますが、単に書類の真正を証明するだけではありません。司法省所轄で公権力の代理をする役職と位置づけられています。たとえば、不動産売買契約のとき、ノテールが所有証明書を発行し、それが、公的書類として通用します(登記書の謄本は数か月後に送られてきます)。

契約書はノテールの事務所で署名します。そのあとの手続きはすべてノテールがおこないます。また、売買代金は買主が売主に直接支払うのではなく、ノテールの指定する預金供託公庫(CDC)口座に振り込みます。このとき買主からの送金が匿名口座であったり、一部のタックスヘイブンであったりすると拒否されますが、その通知もノテールから来ます。

売主側が用意しなければならない書類(登記書類、共有組合規約、電気・アスベスト・シロアリ・鉛・ナミダタケ・エネルギー効率診断など、過去三年間の共有組合総会議事録、建物概要、維持管理記録、共有費と支払い状況他)や買主の戸籍謄本、購入資金調達方法の確認、文書の内容の精査もノテールがおこないます。

不動産取引の法的な部分に関してはすべてノテールがおこなうので、フランスでは弁護士は必要ありません(しばしば売主側のノテールと買主側のノテールをたててそれぞれの立場から書類精査などをします)。

ノテールはまた、自分自身で不動産の売買や賃貸の仲介もします。各地方のその会議所では定期的にオークションもおこなわれています。これは、担保でとったものや公物ではなく、不動産を売りたい人が申し込んで売るものです。

こうして、すべての不動産取引の情報はノテールに集まり、そのデータベースをもとに四半期ごとに不動産の相場を発表しているわけです。ほかにも、有料でピンポイントでの過去10年以上にわたる売却価格の実績のリストも出しています。

フランスには路線価はなく、そのかわりにこの発表が価格のバロメーターになっています。




<第1回>建物がうまくいけばすべてうまくいく!
<第2回>資産としての不動産
<第3回>“門”の内と外
<第4回>ノテール事務所
<第5回>ゴルフ場開発の資金は別荘地売却で
<第6回>Habitat indigne(「不適切な住宅」)と logement indécents
<第7回>不動産店舗取引の3つのキーワード「mur(ミュール)」「Bail(バイユ)」「Fonds(フォン)」
<第8回>リバースモーゲージとは似て非なる「ヴィアジェ」の話
<第9回>分業で行われるフランスの新規住宅供給
<第10回>開発・分譲で利用される「将来完成する状態での売却」とは?
<第11回>フランスの歴史的文化財(monument historique)
<第12回>賃貸収入の税控除と賃貸制度のしくみ
<第13回>固定資産税とは異なる「不動産税」の考え方
<第14回>老後資産の主役は「不動産」
<第15回>不動産の特徴を享受できる“SCPI”

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