世界の不動産事情

広岡 裕児氏 

1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。
パリ第三大学留学後、フランス在住。シンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。またフリージャーナリストとして著書『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書) 他。

広岡 裕児氏

2018年07月10日公開 

フランスの不動産事情<第2回>資産としての不動産

フランス国立統計経済研究所(INSEE)が発表した2015年の世帯資産の状況を見ると、金融資産は平均55,300€(約710万円)でした。ただし上下の格差があるので、人口のちょうど真ん中がいくら持っているかの中央値でみてみると、11,600€(約150万円)です。これに対して、不動産は平均164,200€(約2,100万円)、中央値は111,000€(約1,400万円)でした。

世帯数ベースでみると、株や公社債への投資をしているのはフランスの世帯の16.5%にすぎません。ここ30年ほど政府は産業に資金を回すために株や公社債への投資を奨励し、税制の優遇もおこなってきました。ところが、頭打ちで、かえって1998年に比べて5ポイント近く減っています。別荘や賃貸用不動産を持っているのは18%で、株や公社債への投資とおなじです。

世帯の金融資産の内訳はフランス銀行の統計にありますが、それによると預貯金と将来年金代わりにお金がもどってくる養老型の生命保険で、投資信託が7.1%、上場株式が5%、公社債が1.6%だけです。なお、株式100%の投資信託は、フランスの金融機関ではハイリスクハイリターンの投機的商品に分類されています。

よく欧米といって一緒にしますが、アメリカ人とフランス人では志向が全然違います。

平均的なフランス人にとっては自宅(主たる住居)が唯一の資産だといっても過言ではありません。動産を「商品」ではなく「財産」であると認識されている背景には、価値を維持しなければ国民生活が脅かされるという切実な理由もあるのです。

こう書いてきて、ふと気づきました。

不動産の売却益に対して、税金19% と社会保障負担15.5%、合計34.5%がかけられますが、自宅については、6年目からは軽減されます。しかし、日本と違って一律に減るわけではなく、税金は毎年6%ずつ基礎控除され22年で、社会保障費は同様に30年でゼロになります。この期間は政権や経済状況によってかわっていますが、伝統的にずっとこの形です。ここにも国民の基本的資産への配慮があるのかもしれません。




<第1回>建物がうまくいけばすべてうまくいく!
<第2回>資産としての不動産
<第3回>“門”の内と外
<第4回>ノテール事務所
<第5回>ゴルフ場開発の資金は別荘地売却で
<第6回>Habitat indigne(「不適切な住宅」)と logement indécents
<第7回>不動産店舗取引の3つのキーワード「mur(ミュール)」「Bail(バイユ)」「Fonds(フォン)」
<第8回>リバースモーゲージとは似て非なる「ヴィアジェ」の話
<第9回>分業で行われるフランスの新規住宅供給
<第10回>開発・分譲で利用される「将来完成する状態での売却」とは?
<第11回>フランスの歴史的文化財(monument historique)
<第12回>賃貸収入の税控除と賃貸制度のしくみ
<第13回>固定資産税とは異なる「不動産税」の考え方
<第14回>老後資産の主役は「不動産」
<第15回>不動産の特徴を享受できる“SCPI”

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