世界の不動産事情

広岡 裕児氏 

1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。
パリ第三大学留学後、フランス在住。シンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。またフリージャーナリストとして著書『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書) 他。

広岡 裕児氏

2018年06月14日公開 

【新連載】建物がうまくいけばすべてうまくいく!(フランスの不動産事情<第1回>)

私は、フランス在住の総合研究所研究員・コンサルタント・通訳として、不動産取引や地域開発・都市計画等のお手伝いを行ってまいりました。その中で、不動産投資で損をした日本の方々の後処理をすることも多々ありました。大きな原因は、日本や英米とは異なる法制や慣習への理解不足でした。じつは、フランスは不動産の登記や取引の制度や情報開示もしっかりしており、投資対象としても興味深いところです。本欄を通じて、さまざまな角度から情報をお伝えしたいと思います。

本日はまず実務以前のきわめてベーシックなところから。

フランスは不動産バブルの破裂で大被害を被りました。新しい経済の盟主と持ちあげられていた不動産業者が次々に倒産し、彼らへの融資はもちろん、子会社を通じて直接投資していた銀行も大きな痛手をうけました。

この点では日本も似たようなものでしたが、その後の措置は対照的でした。東京では容積率を上げ、建物の高層化が促進されましたが、パリでは、逆に1994年に高さ制限を厳しくし、事務所店舗等商業用途の容積率を大幅に減らしました。さらに、当時のパリ市長シラク氏は不動産関係者に売り急ぎをしないよう要請しました。

じつは、フランスにも、「建物がうまくいけば全てうまくいく」という格言があります。建設業は景気の牽引車だということです。事実、バブル景気のおきていた1989年には容積率を緩和しました。ですから、日本のように簡単に多くの物件をつくれるようにして景気を回復させるという選択肢もあったはずです。しかし、まず供給をおさえて、不動産価格の下落をおさえようとしたのです。景気の浮揚で市場が活発になるよりも資産価値の維持の方が重要かつ有効だという政策判断でした。

英米では不動産は通常の「商品」で、価格が上下するのはあたりまえですが、フランスではなによりもまず「財産」で、1980年代までずっと右肩上がりできていました。だからこそ、バブル崩壊の波をまともに受けたわけですが。

不動産はいまでも国民全体の基本的資産になっており、ひいては国家の政策の基礎になっています。




<第1回>建物がうまくいけばすべてうまくいく!
<第2回>資産としての不動産
<第3回>“門”の内と外
<第4回>ノテール事務所
<第5回>ゴルフ場開発の資金は別荘地売却で
<第6回>Habitat indigne(「不適切な住宅」)と logement indécents
<第7回>不動産店舗取引の3つのキーワード「mur(ミュール)」「Bail(バイユ)」「Fonds(フォン)」
<第8回>リバースモーゲージとは似て非なる「ヴィアジェ」の話
<第9回>分業で行われるフランスの新規住宅供給
<第10回>開発・分譲で利用される「将来完成する状態での売却」とは?
<第11回>フランスの歴史的文化財(monument historique)
<第12回>賃貸収入の税控除と賃貸制度のしくみ
<第13回>固定資産税とは異なる「不動産税」の考え方
<第14回>老後資産の主役は「不動産」
<第15回>不動産の特徴を享受できる“SCPI”

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