公益財団法人 不動産流通推進センター
宅建マイスターメンバーズクラブ

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Meister Members' Club

宅建マイスター・フェロー認定者発表!

「宅建マイスター」の資格認定は2014年よりスタートし、本年で6年目を迎えました。
宅建取引士のリーダーとしてご活躍いただく宅建マイスターの中でも、業界の地位向上など大きな視点をもち、常に顧客満足の追求を実践し、高いマインドと能力を持って業務推進され、業界にとって有用有益な意見を開陳された方を「宅建マイスター・フェロー」に認定する制度を設けました。
今年度認定の3名を、「宅建マイスター・フェロー」として発表します。 フェローの認定要件はこちら

宅建マイスター・フェロー
第3回認定者

論文・レポートのテーマ
1.「所有者不明不動産と仲介業について」
2.「コンプライアンスと仲介業について」
第10号
白木 淳巳 氏
株式会社R産託 代表取締役

白木 淳巳 氏
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第11号
武藤 秀明 氏
株式会社日興タカラコーポレーション
東京本部 営業推進部 営業推進課 課長
武藤 秀明 氏
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第12号
大石 良一 氏
エイムリアルエステート株式会社

大石 良一 氏
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※勤務先と肩書は、令和2年1月認定時のものです。
第1回論文・レポートのテーマ
1.「高齢者との媒介取引において宅地建物取引士に求められるもの」
第2回論文・レポートのテーマ
1.「⽣産緑地の2022年問題について」
2.「改正⺠法の契約不適合責任(現⾏の「瑕疵担保責任」)について」

認定者 紹介・講評

第10号
白木 淳巳 氏 株式会社R産託 代表取締役
白木 淳巳 氏
不動産業界歴25年。東証一部上場会社の賃貸部門で、三千件超の居住用・事業用賃貸物件の斡旋を、その後、ジャスダック上場会社にて賃貸部長、管理部長、札幌・仙台・東京・名古屋・福岡の拠点長や統括部長を歴任。
平成22年、株式会社R産託を設立。任意売却や競売を含む不動産売買の「リスクを全て伝え納得の上、契約!」をモットーに日々奮闘中。今後は、宅建士の最高峰の「宅建マイスター・フェロー」の名に恥じないように更に精進いたします。
「コンプライアンスと仲介業について」
講評
講評
明海大学不動産学部教授
周藤利一
 白木淳巳氏の論文は、コンプライアンスと仲介業について、豊富な資料分析に基づき丁寧に考察を重ねた大変優れた内容になっています。このテーマについて宅建マイスターの立場から本格的に論じたものとして大きな意義が認められます。
 本論文は、まず、「はじめに」においてこのテーマに対する論者の問題意識を明らかにした上で、第1章において「宅地建物取引主任者」から「宅地建物取引士」へ、第2章において「宅地建物取引士」から「宅建マイスター」へというそれぞれの位置づけとあり方を的確に把握・整理しています。
 次に、第3章において「コンプライアンス」を遵守するという考え方は、安全で安心な取引を成立させるのに最も重要であることを論じ、コンプライアンスは宅建業者にとって(1)リスク管理の手法、(2)クライアントからの信頼獲得、(3)宅建マイスターだけでなく、宅建業者とその従業員を守る手段の機能を果たすことを確認しています。
 第4章においてコンプライアンスを考える事例を紹介し、第7章において検討を加えていますが、検討の前提として、第5章においてコンプライアンスが問題となった事件の類型を整理し、不動産業における具体的な事件と判例を整理しています。
 さらに、第6章においては、コンプライアンスに違反した場合の制裁を(1)刑事的制裁、(2)行政的制裁、(3)民事的制裁、(4)自律的制裁、(5)社会的制裁に分類し、それぞれの制裁の具体的な内容を綿密に分析して解説しています。
 そして、第7章において、第4章で紹介した事例に関し、コンプライアンスを徹底させるための宅建マイスターとしての立場での関わり合いという視点に立って、詳細に分析しています。さらに、宅建マイスターの持つ取引リスク管理能力の伝授と勉強会の実施について自身の活動を紹介し、今後も宅建マイスターを増やすための啓蒙活動のためにあらゆる努力をし、不動産業界に貢献する意思を表明しています。
 最後に、結びに代えてクライアントは全員身内のつもりでお世話をする意識を徹底し、業務に当てはめてあらゆるリスクを説明し、十分に納得してもらうことを基本と考え、宅建マイスターとして業務に励むことを言明しています。
 このように、本論文は、資料を数多く理解した上で、相当の分量の論考として書き上げていますが、全体の構成がしっかりしており、各章の内容も論理的に完成されており、綿密な分析を加えていることから、論旨に説得力があります。
 以上の通り、白木淳巳氏の論文は、宅建マイスターがコンプライアンスに関し有すべき基本的な姿勢や視点を明示している点で、これから宅建マイスターを目指す方たちも含め広く参照して欲しい論考であり、宅建マイスター・フェローの論文として相応しいものと評価します。
弁護士
吉田修平
 高い問題意識の下に、単なる宅建士より宅建マイスターが高いレベルの義務を負っていることから論じて、コンプライアンスについての考え方を整理し、自分の主張を要領よくまとめているため論理の運びが非常に明快であり説得力がある。
 また、具体的なケースについて検討を加えており、その際も、常に規範を定立した上で事実への当てはめ作業を行っており、大変分かり易い内容の論文となっている。
 さらに、豊富なデータを提供し、かつ、それを分析した上で、そのデータ内容に基づき論述を行っている力作である。
 全体として・主張が明確であり、かつ、内容も大変良い優秀な論文と評価できる。
第11号
武藤 秀明 氏 株式会社日興タカラコーポレーション 東京本部 営業推進部 営業推進課 課長
武藤 秀明 氏
不動産業界に携わり21年目となりますが、20歳の頃に実家が相続トラブルに巻き込まれたこともあり不動産は知らなければ不幸になる可能性が高いと考えております。プライベートでは、妻と子供3人に恵まれてマイホームを購入して暮らしていましたが、昨年度、ライフプラン実現の為にマイホームの住み替えを経験しております。そういった人生経験を糧にして、日々応対している依頼主に対して目先の損得だけでなく依頼主が気付いていない視点も含めて提案をしております。
これからの日本は、人口減少・少子高齢化・自然災害など環境の変化に伴い社会から要請されるレベルが大きく変動するステージに差し掛かっていきます。その為、不動産流通推進センターの各種研修にて自己鍛錬を継続しながら、「 私が依頼主の立場だったら、どうするのかを考え抜いて提案をする。」を約束として安心安全な取引をして参ります。
「コンプライアンスと仲介業について」
講評
講評
明海大学不動産学部教授
周藤利一
 武藤秀明氏のレポートは、コンプライアンスと仲介業について論じたものであり、宅建マイスターとして果たすべき役割について具体的に論じている点で意義があります。
 まず、業界全体の努力もあり、不動産取引に関する苦情が全般的に減少傾向にある中で、重要事項説明を中心とする紛争相談件数の比率が増加していることを指摘し、その理由として、実績重視の傾向が強い給与体系により、最低限の法令順守を行うだけになり、成果を急ぐ傾向になっていること、そして、宅地建物取引士のコンプライアンスに対する解釈が社会ニーズとの間でズレを生じさせていることを考察しています。
 次に、このような傾向が強まっていくことは、不動産流通業界全体として不適切であり、透明性が保てなることを指摘し、透明性を実現するためには、宅地建物取引士の知識及び能力の向上と倫理を念頭に日々精進することにより周囲に啓蒙活動していくことが近道であると分析しています。
 さらに、宅地建物取引士自身がコンプライアンスと紛争事例について理解し、出来ることから実践していくことが、実際の取引における紛争予防となり、顧客満足度も上がっていくことを指摘した上で、このような顧客満足度の高い取引の1件1件の積み重ねが、宅地建物取引士の地位向上に繋がり、不動産仲介業が信頼産業としての地位を確立できることに結びつくと論じています。
 要すれば、宅建マイスターは、高い倫理観を持ち、知識向上に努めつつ、出来るところから実践していくべきであるというのが武藤秀明氏の持論であり、本レポートはこの持論を最初に明確に提示した上で、このような持論を得るに至った過程として、コンプライアンスの定義、コンプライアンス違反による倒産、紛争事例、不動産業界の地位向上のために法令順守よりも社会ニーズを汲み取るという各論を展開しています。
 最後に、宅地建物取引士が法定重説事項以外の項目に対して、社会から求められているニーズを汲み取れるようにできるだけ多くの紛争トラブル事例を知り、現場に生かしていくことを指摘し、自身が知識向上に努めながら、周囲に対して啓蒙活動を行うとともに、自分が顧客の立場であればどうするか考え抜いて提案することを信条として活動する旨述べています。
 以上のように、武藤秀明氏のレポートは、参考文献を十分に読み込んだ上で、不動産業及び宅地建物取引士にとってのコンプライアンスの意義を把握し、不動産実務家としての姿勢や顧客に対する対応について目指すべき点を明確に提示しています。また、近年の災害多発現象に着目し、ハザードマップの重要性が今後高まることを指摘している点は、先見性があると評価できます。このような点において、本レポートは、宅建マイスターを含め広く宅地建物取引士にとって極めて示唆に富む内容になっていると評価できます。
弁護士
吉田修平
 コンプライアンスについての問題意識を持ち、かつ、具体的なデータを挙げて論じており、論述の態度だけでなく、その結論(自説)の内容も良いものと思われる。
 ただ、できれば具体的な内容をさらに検討して、なぜそのような結論が出るのかについて説得力を持った論理の展開をしてもらえれば良かったと思われる。今後、具体的なケースについての掘り下げを深めることにより、さらに研究を進めていただきたい。
第12号
大石 良一 氏 エイムリアルエステート株式会社
大石 良一 氏
仙台市において4棟のアパート建設・経営を皮切りに、資産と人との関わりに深く関与して参りました。宅建資格は平成5年に取得、平成12年にはファイナンシャルプランナーとして生命・損害保険設計等を行い、また経営コンサルタントとして不動産関連会社の再生を公認会計士と共に行い、自らも不動産会社の代表を努めました。現在はいろいろな方の相談相手として不動産の仕事に関わっております。
変化していく令和の時代を宅建マイスター・フェローとしてこれからも研鑽を続けていきたいと考えております。
「所有者不明不動産と仲介業について」
講評
講評
明海大学不動産学部教授
周藤利一
 大石良一氏のレポートは、所有者不明不動産と仲介業について取り上げたもので、今日大きな政策課題となっている困難な問題に対し、仲介業の第一線に立つ者として率直な見解を述べたものとして参考になる論考です。
 本レポートは、まず、「はじめに」においてこのテーマに対する論者の問題意識を明らかにした上で、「第1章 所有者不明不動産とは」において、所有者不明不動産の定義と実態を明らかにしています。ここで、老朽化した分譲マンションについても同様に所有者不明物件が増えており、今後大きな問題になっていくと記し、土地だけの問題ではないことを指摘している視点には鋭いものがあります。
 次に、「第2章 所有者不明不動産はなぜ増え続けているのか」においては、所有者不明不動産が増加している原因を考察していますが、特に、区分所有マンションの場合は、土地や戸建て住宅の場合よりも深刻な将来の問題を抱えていると指摘しています。
 そして、「第3章 私の身近な事例と所有者不明不動産そして将来への影響と不安」においては、自分自身が抱えている事例も含め、4つのケースを取り上げて、それぞれの実態と問題点を分析しています。
 「第4章 所有者不明不動産に対する政策等」においては、関連報道を紹介するとともに、「空家特措法」や「所有者不明土地法」といった立法の動向を分かりやすく整理しています。
 「第5章 所有者不明不動産と仲介業者」においては、第3章で紹介した4つのケースそれぞれについて仲介業者の立場から考察を加えています。
 最後に、「おわりに」において、所有者不明不動産の今後についてはあまりにも問題が多く、法律の制定や改正等による解決が不可欠であるとの認識を示した上で、人口減少が著しい地方都市の不動産は当然その価値が下がっていき、そのことが今後も所有者不明不動産の増加原因となっていくことを指摘し、仲介業者はこれらのことを踏まえて説明していくしかないと述べています。
 このように、本レポートは、自分自身が抱えている事例も踏まえつつ、すべての宅地建物取引士が直面する可能性がある課題と悩みを率直に提示し、宅建マイスターみんなで考える機会を提供してくれたという点において興味深いレポートに仕上がっていると評価できます。
弁護士
吉田修平
 所有者不明不動産の定義、発生原因、およびその対策としての立法等がきちんと整理されて論じられている。
 また、具体的なケースを挙げて、それに対して考えられる対策等を、自説を展開して論じている。
 さらに宅建士の立場から、所有者不明不動産の問題について何ができるのかについて具体的に論じている。
 以上より、宅建マイスターフェローの論文として、十分なものと評価できると考える。
 なお、章立ての中に、さらに番号を付したり、小見出しをつけるなどして、読みやすくする工夫をしていただければ、更に良かったものと思われる。

総評

「コンプライアンスと仲介業について」 周藤 利一
1.不動産流通業におけるコンプライアンスの
  多重的・多面的意義
 本センターの宅地建物取引士講習テキスト【別冊】「宅地建物取引士の使命と役割」平成31年版64~67頁に記されているように、コンプライアンスとは、法令遵守にとどまらず、社内ルールに従い、公正・公平な企業活動を行うとともに、社会倫理への適切な配慮をすることであり、リスク管理の手法、顧客からの信頼獲得、会社及び従業員を守る手段と言った機能があります。
 そして、宅地建物取引士の立場ないし視点から見た場合、コンプライアンスには、国家資格保持者であって不動産取引の専門家である自分自身にとってのコンプライアンスとは何かという点と、自分が所属する組織にとってのコンプライアンスとは何かという点があります。
 このように、不動産流通業におけるコンプライアンスは、多重的・多面的な意義を持っていることが大きな特徴です。
 同時に、このような多重的・多面的な意義のどれか一つを充足させれば、コンプライアンスを達成したことになるわけではなく、全てを常に達成した上で、その状態を維持し続けることが求められているのです。
 今回掲載された論文・レポートは、いずれも不動産流通業におけるコンプライアンスの多重的・多面的意義を十分理解した上で作成された優れた論考です。
 以下、少し敷衍して述べます。
2.宅地建物取引士にとってのコンプライアンス
 上述したテキストの66頁に記されているように、不動産流通業には、従業員の給与体系や業績評価に実績を重視する傾向が強い、高額な商品を取り扱うにもかかわらず、受付から最終決済まで一人で担当するなどの特徴があることから、宅地建物取引士、特に宅建マイスターとして求められるコンプライアンスとは何かというテーマに対して、コンプライアンスの具体的内容を確定的に答えることは困難です。
 しかしながら、個別の物件や当事者の状況に応じて多様で複雑な取引の現場に身を置きながら、ケースバイケースで最善の道を探求する立場の実務家として、不動の視点あるいは確立したスタンスを持ち続けることがコンプライアンスの達成にとって不可欠であることには、異  論はないでしょう。
 今回掲載された論文・レポートの論者は、いずれも宅建マイスターとしてコンプライアンスに対する明確な考え方と確固たる姿勢を示しており、他の宅地建物取引士にとって大いに参考になるでしょう。
3.宅地建物取引業者にとってのコンプライアンス
 企業としてのコンプライアンスは、一義的には経営者の責任ですが、宅建マイスターにも大きな役割が期待されます。
 今回掲載された論文・レポートの論者は、前述したような自分自身の考え方や姿勢を論じるだけでなく、周囲に対する啓蒙活動にも言及するなど、組織全体あるいは顧客を含めた取引関係者全体にまで視点を広げて考察しています。
 このように、不動産取引に関する高度な実務上の知識と経験を有する専門家として、自分自身の取組みに加えて所属企業の従業員に対する働きかけも実践するなど組織全体の取組みを促進していくことを今回掲載された論文・レポートの論者が明記している点は、宅地建物取引業者にとってのコンプライアンスに果たす宅建マイスターの役割の大きさを示していると言えるでしょう。
「所有者不明不動産と仲介業について」 周藤 利一
1.所有者不明不動産に関する問題状況
 1980年代末~90年代初にかけて発生した地価バブルの崩壊後、我が国は土地の過剰利用から過少利用の時代に転換しました。
 しかしながら、土地利用に関する法制度の基本的構造はそれほど変わっていません。このことが、所有者不明不動産の発生に関わる制度的背景であるとも言えます。
 利用されていない土地に対し所有者が有効活用すべき必要性を認識している土地については、CREやPREといった実務的なソリューションの枠組みが提唱されており、実際に、これらの考え方に基づく取組みが各地でなされつつあるのは、皆さんご承知の通りです。
 しかし、土地所有者がそのような認識や意思を持たない場合には、事態は複雑になります。即ち、空き地問題として様々なネガティブ事象やリスクが顕在化した土地に対しては、いわゆる草刈り条例など自治体を中心とする取組みがかねてより展開されてきましたが、それらは対策の名宛人である土地所有者が存在し、その者との意思疎通が可能であることを前提とするものです。このため、土地利用についての責任を問うべき主体が明確でない場合には、こうした既存の手法を適用することができず、別の手法が必要となります。
2.所有者不明不動産問題に対する政策の展開
 国土交通省の所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策に関する検討会(座長:山野目章夫早稲田大学教授)の最終とりまとめ(2016年3月)では、「所有者の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン」を公表し、地方公共団体や官民の事業主体の用地実務に携わる担当者向けに、対象となる土地の状況別に整理した対応方策を示しています。
 そして、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する土地別措置法」(「所有者不明土地法」が2018年に制定され、2019年6月1日に全面施行されました。この法律は、所有者不明土地を円滑に利用する仕組みとして、収用手続の合理化・円滑化を規定するとともに、地域福利増進事業を創設したほか、所有者の探索を合理化する仕組みや所有者不明土地を適切に管理する仕組みを規定しています。
 また、表題部所有者の記録が不正確な登記(変則型登記)の解消を目的として「表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化に関する法律」が2019年5月17日に制定され、登記官等による所有者の探索結果を登記に反映する制度を創設するとともに、探索をしても所有者の特定ができなかった土地について、裁判所が選任する管理者による管理制度を創設しました。
 さらに、2020年に予定されている立法として、「土地基本法」が改正され、適切な土地の利用・管理を促進する措置、共有者や隣人等による利用・管理を円滑化する措置、土地の適切な利用・管理、円滑な取引を支える情報基盤の整備に関する措置を創設することとされています。
 また、地籍調査の円滑化・迅速化のための措置として、所有者不明の場合でも地籍調査が進展するよう、公告による調査の導入等、手続を見直すことや、都市圏、地方圏において地域の特性に応じた新たな調査手法を導入し、調査を効率化することを内容とした「国土調査促進特別措置法」の改正が予定されています。
 そして、所有者不明土地問題の解決に向けた「民法」・「不動産登記法」の見直しとして、相続登記の義務化、権利関係の複雑化を防止するため、遺産分割の期間制限の創設などが予定されています。
3.所有者不明不動産と宅建マイスター
 以上のように、所有者不明不動産をめぐる法制度は近時、急激と言ってよいほどのペースで、しかも、内容についてもこれまでの制度を大胆に変更するものに変わりつつあります。
 所有者不明不動産を実務として取り扱う可能性がある宅地建物取引士としては、このように変化する法制度を正確かつ適時に理解し、不動産取引の専門家として適切に対応することが求められるわけですが、このことは取引関係者に対する最善のサービスを提供するという成果をもたらすのはもちろん、現在及び将来の我が国の不動産に関する最大の問題の一つに対して、実務家として貢献するという意味においても重要であると言えます。
 換言すれば、宅地建物取引士、特に宅建マイスターには、取引当事者からの期待に応える責務とともに、社会的な期待に応えるという責務もあると言うことができます。それだけに宅建マイスターの役割は今後ますます大きくなっていくものと考えます。
「審査のポイント」 吉田 修平
1.コンプライアンスと仲介業について
 コンプライアンス(法令順守)とは、それだけでは単に「法律を守る」というだけのこととなってしまうが、今回は、安心・安全な取引を実現するためにコンプライアンスを徹底するべきとの観点から、宅建マイスターとしてどのような役割を果たすべきかを具体的に論述することが求められている。
 したがって、自らの経験した具体的事例を通して、安心・安全な取引を実現するためには、どのような法令をどのように守っていったら良いのか、そのためにはどのような問題があるのか、その解決のためには宅建マイスターとしてどうしたら良いのかを論ずることが求められる。
2.所有者不明不動産と仲介業について
 所有者不明不動産の問題とは、登記の記載からは容易に所有者が判明しない不動産から生ずる問題のことを指すのであるが、まず、論文の一般的な記述として、①定義、②発生原因、③その対策などを述べる必要がある。
 次に、今回は宅建マイスターとしてこの問題に取り組むときに、何が必要であるのか等について具体例を挙げて論ずる必要がある。
 また、できれば、現在、法務省でこの問題に対しての検討が進められており、所有権の放棄や共有物分割ルールの見直し等が議論されているので、これらについても触れてもらえれば、更に高い評価になったものと思われる。
講評者プロフィール
周藤 利一 氏 明海大学 不動産学部教授/工学博士
昭和54年建設省入省。不動産適正取引推進機構研究理事、日本大学経済学部教授、国土交通政策研究所長など歴任。
著書に『日本の土地法』『わかりやすい宅地建物取引業法』など
吉田 修平 氏 吉田修平法律事務所 代表弁護士
定期借家権、終身借家権の立法、担保執行制度の改正などに関わり、中間省略登記の代替え手段の考案等、不動産を得意分野とする。また、各省庁の委員会委員や大学での教鞭、各種団体の役員など多方面で活躍。
著書:「事例研究 民事法 第2版」、「最近の不動産の話」ほか多数。

フェローに認定されるには?

応募資格は、宅建マイスターに認定されてから3年以上が経過していること。
その3年間で各々が勉強会への参加や課題の提出などにより「★」と呼ばれるポイントを取得します。
「★」を3個以上取得したうえで、提示されたテーマについての論文・レポートを提出し、審査に合格した方が「宅建マイスター・フェロー」に認定されます。

「★」取得数により、論文・レポートの必要文字数が異なります。

  必要な★の数 論文・レポート文字数
Aコース 3個以上 事例研究論文4000字以上
Bコース 10個以上 事例研究レポート1200字以上

論文・レポートのテーマ

1.「所有者不明不動産と仲介業について」

近年、所有者の特定や、所有者の所在地把握の困難な「所有者不明土地」が増えており、危険な家屋などがある場合は災害時のリスクともなる等土地の所有者がわからないことによる弊害も大きく、社会問題となっています。

行政においては、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令に関する意見募集」(パブリック・コメント)を受けて、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」が公布されるなど策が講じられてきております。
仲介業者は今後ますます地域の守り手として、地域の活性化を支える重要な存在になっていくと思われますが、この所有者不明不動産の問題について、仲介業はどのようにかかわり、地域の発展等のために寄与していくと考えますか。

所有者不明土地が取引を妨げると想定される具体的ケースを挙げ、その解決策、それに付随しての支援策・要望など、流通市場の取引円滑化の視点から意見を述べてください。

2.「コンプライアンスと仲介業について」

すべてのプレーヤーが不動産業の発展を確保するための官民共通の指針として「不動産業ビジョン2030~令和時代の『不動産最適活用』に向けて~」が国土交通省より公表されました。

この不動産業ビジョンでは、これから10年間の社会情勢の変化を踏まえ、不動産業の発展を継続的に確保するため、30年頃の不動産業の将来像と政策課題等についてまとめており、不動産業の将来像を「豊かな住生活を支える産業」「我が国の持続的成長を支える産業」などとし、「ストック型社会の実現」「安全・安心な不動産取引の実現」「不動産教育・研究の充実」などを官民共通の目標として7 項目を掲げています。
特に流通業においては、安全・安心な不動産取引こそすべての基礎であり、その実現にはコンプライアンスの徹底が重要となります。

コンプライアンスの徹底により信頼産業としての地位をさらに確立していくために、業界を牽引していく宅建マイスターとしてあなたはどのようにかかわっていきますか。あなたの果たすべき役割について具体的に記述してください。