公益財団法人 不動産流通推進センター
宅建マイスターメンバーズクラブ

宅建マイスターメンバーズクラブ
Meister Members' Club

宅建マイスター・フェロー認定者第6号~9号

宅建マイスター・フェロー
第2回認定者

論文・レポートのテーマ
1.「⽣産緑地の2022年問題について」
2.「改正⺠法の契約不適合責任(現⾏の「瑕疵担保責任」)について」
第6号
遠山 清 氏
有限会社ユウシン 代表
大橋禎弘様
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第7号
泉川 雅利 氏
有限会社サンコーポレーション 代表取締役
都築潔様
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第8号
谷口 和隆 氏
株式会社ハウザーライフ 代表取締役
田向定雄様
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第9号
橘 裕一 氏
株式会社長澤商事 取締役副社長
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※勤務先と肩書は、平成31年1月認定時のものです。
第1回論文・レポートのテーマ
1.「高齢者との媒介取引において宅地建物取引士に求められるもの」
第3回論文・レポートのテーマ
1.「所有者不明不動産と仲介業について」
2.「コンプライアンスと仲介業について」

認定者 紹介・講評

第6号
遠山 清 氏 有限会社ユウシン 代表
大橋禎弘 氏
建物住宅の販売会社を退職後に、有限会社ユウシンを設立し約29年になります。地主等の借地整理(借地の売買、土地の有効活用等)を主に、不動産売買の一般仲介業務をしています。
2020年施行の民法改正とその関係法律等に基づいて、『安心・安全な不動産取引』を仲介するために不動流通推進センターの各種研修等に参加しています。
今後も購入者等の顧客に『安心・安全な不動産取引』をしていただけるよう、必要な提案、発信等をして参ります。
「改正民法の契約不適合責任(現行の「瑕疵担保責任」)について」
講評
講評
明海大学不動産学部教授
周藤利一
 遠山清氏の論文は、改正民法の契約不適合責任について論じたものであり、同じテーマを取り上げた他の論者の論文と同様に、宅地建物取引士にとって極めて重要な概念である瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わることを取り上げた点で意義があります。
 氏の論文は、第1として、不動産実務と仲介業務について考察しています。あるテーマについて論じる際に、その前提となる事項や基本概念に立ち返って、それらを再確認した上で、そこから分析・論考を進めていくことは、基本的かつ重要な研究姿勢であり、遠山清氏の論文は、こうした姿勢をきちんと示している点で、高く評価できます。
 そして、第2として、改正民法の「契約不適合責任」が不動産売買の仲介業務においてもたらす影響についての考え方を述べています。具体的には、買主の追完請求権、買主の代金減額請求権、買主の損害賠償請求権及び解除権の行使について、移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任、目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限、目的物の滅失等についての危険の移転を取り上げています。ここで、各論点における改正民法下で宅地建物取引士がなすべき対応について、具体的に提示しています。
 ここで、債務不履行による損害賠償の範囲に関し、現行法の信頼利益にとどまらず、履行利益にまで拡大されたと一般に解されていることに対し、バブル期の値上がり益や得られたであろう賃料収入などは、論理的に明確ではなく、改正法でも大きく変化することはないとの見解は、注目に値します。
さらに、第3として、不動産関係法規の改正が売買の仲介業務においてもたらす影響についての考え方について、不動産実務の観点から論じています。
 それぞれの記述において、参考・引用文献を明示した上で、それらの内容を正確に把握し、それに基づき分析を進めており、研究の作法をきちんと踏まえた論考になっています。
 以上のように、遠山清氏の論文は、改正民法の契約不適合責任について、その前提となる事項や基本概念に立ち返りつつ、改正民法の条文にとどまらず、関連法規の改正内容も含めて検討の対象とし、不動産実務的視点から、具体的に考察して、宅地建物取引士としての考え方や対応を論じている点で優れていると評価できます。
弁護士
吉田修平
 今回の改正にあたり、非常によく勉強していることが窺われ、大変結構だと思われます。
 ただ、その内容にやや問題があると思います。即ち、論文というものは量が多ければ良いというものではなく、中身が問題になります。量を増やすために条文や制度の紹介をしすぎると、冗長になり、あまり意味がないばかりか、却ってマイナスにもなります。条文や制度の紹介は少なめにし、できるだけ自分の見解や意見を述べた方が良いと思います。特に、条文や制度の紹介なのか、ご自分の見解なのかが分からないことがあり、その点、誤解を招きますのでご注意ください。できれば、ご自分の見解を述べるときは項を変えるなどして説明していただくと良いと思います。
第7号
泉川 雅利 氏 有限会社サンコーポレーション 代表取締役
都築潔 氏
平成元年の宅建試験合格後、住宅販売、ショッピングセンターの開発、商業ビルの管理・リーシング等の仕事に携わり、現在は、事業用収益物件の仲介や管理の仕事をメインに行っています。
人口減少、少子高齢化等、不動産を取り巻く環境は大きく変化していきますが、安心安全な取引をとおしてクライアントや社会に少しでも貢献できるよう、今後も研鑽を重ねたいと思います。
「改正民法の契約不適合責任(現行の「瑕疵担保責任」)について」
講評
講評
明海大学不動産学部教授
周藤利一
 泉川雅利氏の論文は、改正民法の契約不適合責任について論じたものであり、民事法の基本規律の大改正であって各分野に大きな影響が及ぶことが想定されている、今回の民法(債権法)改正中、宅地建物取引士にとって極めて重要な概念である瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わることを取り上げた点で意義があります。
 まず、現行民法の瑕疵担保責任の内容を、条文を掲げつつ要領良く取りまとめています。
 次に、現行民法の瑕疵担保責任と不動産関連法規の関係について、表を作成して明快に整理しています。民法、商法、消費者契約法、宅建業法、品確法と関連法規は多岐にわたり、また、それらの適用関係は売主・買主が消費者か業者かによって複雑ですが、表を活用することにより一覧性のある取りまとめになっています。
 そして、民法改正後の契約不適合責任についても、条文を掲げつつ要領良く取りまとめています。
 さらに、以上の分析を踏まえ、不動産実務での対応について、契約文言や特約条項を細かく丁寧に記載することが重要になるとの見解を示しています。
 最後に、不動産実務家の立場から、依頼者をトラブルに巻き込まないようにするためのポイントとして、売主に対しては、情報を開示しないことによる不利益を丁寧に説明した上で、隠れたリスクを顕在化させた重要事項説明書を作成すること、買主に対しては、購入の目的や希望を把握した上で、その目的が実現可能な物件を紹介し、物件の内容を詳細・丁寧に説明して、充分な理解を得ること、そして、曖昧性を排除した文言を使用しつつ、合意内容を詳細に記載した契約書を作成することにより、契約不適合をもたらさない契約の締結を提示しています。
 以上のように、泉川雅利氏の論文は、改正民法の契約不適合責任について、民法のみならず現行の不動産関連法規との関係性も分析しつつ、不動産実務家としてのあるべき対応について提示している点で、宅地建物取引士にとって極めて示唆に富む内容になっていると評価できます。
弁護士
吉田修平
 今回の改正にあたり、非常によく勉強していることが窺われ、また、自分の見解もきちんと述べており、大変良いと思われます。
 ただ、その内容がやや問題があると思います。即ち、論文というものは量が多ければ良いというものではなく、中身が問題になります。
 量を増やすために条文や制度の紹介をしてもあまり意味がないので、できるだけ自分の見解や意見を述べてほしいと思います。特に、条文や制度の紹介なのか、ご自分の見解なのかが分からないことがあり、その点、誤解を招きますのでご注意ください。自分の見解を述べるときは、項を変えるなどして説明していただくと良いと思います。
第8号
谷口 和隆 氏 株式会社ハウザーライフ 代表取締役
田向定雄 氏
不動産業界に携わって39年、昭和56年に宅地建物取引主任者デビューし、数多くの案件に関わってきました。当初は、契約書も重説も1枚だけというお粗末な時代でした。クレームがなかったのが不思議に思われます。
昨今の宅建業者の資質の向上には、実に目を見張るものがあります。これは、取り引きに係る消費者利益の保護と流通の円滑化(体系的な研修等)が図られた結果に他ならないと思います。
では、扱う物件(不動産)はどうでしょう?いつの時代でも、ベテラン・初心者業者にかかわらず、取得後の年数に比例して瑕疵は容赦なくあるはずです。その不安定な不動産取引に的確に取り組むためにも、宅建士には、今後、益々より高い専門性と継続的なスキルアップが求められます。その機会を実践的に提供し続けてくれる「宅建マイスター」認定制度を利用して、常に安心で安全な取り引きのできる「上級宅建士」を目指しましょう。
「改正民法の契約不適合責任(現行の「瑕疵担保責任」)について」
講評
講評
明海大学不動産学部教授
周藤利一
 谷口和隆氏の論文は、改正民法の契約不適合責任について論じたものであり、同じテーマを取り上げた他の論者の論文と同様に、宅地建物取引士にとって極めて重要な概念である瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わることを取り上げた点で意義があります。
 氏の論文は、第1として、民法改正の経緯を紹介しています。
 そして、第2として、改正民法の「契約不適合責任」が不動産売買の仲介業務においてもたらす影響を取り上げ、要件、効果(救済方法)のそれぞれについて、現行法と改正法の条文と趣旨を対比させつつ、分かりやすく整理しています。
 ここで、債務不履行による損害賠償の範囲に関し、現行法の信頼利益にとどまらず、履行利益にまで拡大されたと一般に解されていることに対し、バブル期の値上がり益や得られたであろう賃料収入などは、論理的に明確ではなく、改正法でも大きく変化することはないとの見解は、注目に値します。
また、解除の要件に関し、現行法では契約の目的が達成されないときに限定されているのに対し、改正法による実務においては、解除の認められる範囲が拡大する可能性が出てくるとの見解も重要な論点を提供しています。
 氏の論文はさらに、特約と契約不適合責任の期間制限(責任追及期間)についても考察して、注意点を指摘しています。
 以上のように、谷口和隆氏の論文は、改正民法の契約不適合責任について、現行法との異同に着目しつつ、不動産取引実務において留意すべき点や考え方について、具体的に考察して提示している点で、宅地建物取引士にとって極めて有用なものであると評価できます。
弁護士
吉田修平
 今回の改正にあたり、よく勉強していることが窺われる点は良いと思われます。
 ただ、その内容にやや問題があると思います。即ち、論文というものは量が多ければ良いというものではなく、中身が問題になります。
 量を増やすために条文や制度の紹介をしても意味がありません。
 できるだけ自分の見解や意見を述べてほしいと思います。
 特に、条文や制度の紹介なのか、ご自分の見解なのかが分からないことがあり、その点、誤解を招きますのでご注意ください。できれば、ご自分の見解を述べるときは項を変えて説明していただくと良いと思います。
第9号
橘 裕一 氏 株式会社長澤商事 取締役副社長
賃貸・売買・管理・リフォーム・相続・・・等、不動産に関する様々なご相談を15年、約2000件以上、引き受けて参りました。
私が一番大切にしている事は、不動産を通して、お客様の人生が最高に「楽しく・幸せ」になっていただく事です。
この度認定いただきました、宅建取引士の最高峰である【宅建マイスターフェロー】の称号を活かし、1人でも多くのお客様にお役立ちできるよう精一杯サポートして参ります。
「生産緑地解除に伴う2022年問題について」
講評
講評
明海大学不動産学部教授
周藤利一
 橘裕一の論文は、いわゆる生産緑地の2022年問題と呼ばれる、生産緑地の指定期限の到来に伴う諸問題について、媒介業務を行う宅地建物取引業者の視点から論じたものであり、都市計画制度の改正に伴う問題を不動産取引業務の観点から取り上げたという点で意義があります。
 まず、2020年に発生し得る生産緑地の指定の解除が地域の地価に及ぼす動向について、自身の見解を取りまとめています。ここでは、地域における生産緑地の集中の程度や、生産緑地の所有者の保有意欲により、地価の下落をもたらすか否かが決定されると推定しています。また、生産緑地が集中していない地域であっても、長期的には地価の下落スピードが加速化されるものと見込んでいるのは、注目に値する見解であると言えます。
 そして、このような見解に至った過程として、第一に、生産緑地に関する制度の変遷を時系列に取りまとめて、歴史的事実を確認しています。第二に、数値データを収集・整理して、生産緑地の状況を定量的に把握している。第三に、生産緑地保有者が抱える問題点を考察しています。
 このように、生産緑地に関する制度、数値データ、生産緑地保有者の立場について情報を収集・整理した上で、宅地建物取引業者がこの問題に取り組むに当たり必要な業務を、得意としている不動産エリアにおける、①生産緑地そのものに関する情報の収集、②生産緑地保有者に関する情報の収集、③法改正や公表情報の不断の収集に絞り込むことを提言しています。
 さらに、このような業務を継続的に展開しつつ、生産緑地保有者への情報提供や有効活用策の提案を行うべきことを提言しています。
 以上の通り、橘裕一の論文は、生産緑地の2022年問題に対し、宅地建物取引業者が取り組むべき業務を明確に絞り込むとともに、生産緑地保有者とのコミュニケーションの構築により媒介業務に繋げることを提言しており、生産緑地が所在する地域を業務エリアとする宅地建物取引士にとって極めて実践性の高い内容になっていると評価できます。
弁護士
吉田修平
 生産緑地の問題について、自分の見解をきちんと述べている論文であり、非常に好感度の高い内容となっている論文であると思います。
 ご自分でテーマを設定し、内容を検討しているところなど、高く評価されるものと思われます。
 反面、形式面においていささか問題のある点が見受けられますので、注意していただければさらにレベルがアップするものと思います。例えば、各項ごとに簡単なタイトルをつけたり、ですます調とである調の混在を避けたりするなどです。また、句点が抜けている箇所が複数あるので、ご注意ください。

総評

「改正民法の施行が売買の仲介業務にもたらす影響」 周藤 利一
1.改正民法の施行に対する視点
 今般の民法(債権法)改正は、明治時代に民法が制定・施行されて以来の大改正であり、その内容も多岐にわたるものであることから、各方面にさまざまな議論をもたらしている。
 そして、2010年4月1日の施行後も、実務面で若干の混乱が発生することも予想される。
 一方で、改正民法に関する論文や書籍は続々と出されており、改正内容のうち不動産に関わる分野に特化した解説した書物や不動産業界をターゲットにした関連書籍も多数刊行されており、今後ますます増えるであろう。
 ここで、不動産業界とそこで従事する者、特に宅地建物取引士にとって重要なことは、これらの書籍その他の情報を熟読・玩味して、何が変わって、何が変わっていないかの区別、変わった事項はどのように変わったのかという改正内容の把握、何故変わったのかという改正理由に対する理解をきちんとした上で、不動産取引市場への影響、不動産業界への影響、自らの業務への影響と対応の方向について見通しと覚悟を持つことである。
 以下に、論点を分けて述べる。
2.趣旨の変更
 改正民法は、全体として見ると、契約締結時の合意とともに事後的評価(契約締結後の事情を考慮すること)を取り入れやすい表現になっている。このことは、不動産取引について言えば、契約締結後の何らかの事由により決裁までの過程が円滑に進まない場合に、契約書の一字一句にこだわって相手方を追及することは、必ずしも最善の方法ではないことになる。
 しかし、他方では、改正前に比べると、合意を尊重する姿勢が明示されている。したがって、後日の紛争を避けるためには、その合意の内容を相互に明確にしておくことが不可欠であり、故に契約書の詳細化が必要だということになる。
 契約時点の事情を判断基準とする合意重視の視点と、契約締結後の事情をも判断基準とする事後的評価の視点の対立は、学会内にかねてより存する論点であり、この論点は改正後も持ち越されたことになった。
 このような学会内での論点はさておき、不動産実務にとって肝要な視点としては、仮に、契約締結後の事情により契約書の文言に示された通りの履行ができなくなった場合でも、双方円満に納得できる対処方法を検討するに当たっては、そもそも両当事者が何を望んでいるかという契約の目的に立脚して考えなければならないのは当然である。そうである以上、契約の目的その他の当事者の意思が明確に表示されているのは契約書であるから、結局、契約書にできるだけ詳細に記載しておくことが望ましいということになる。
3.ルールの変更
 改正民法により不動産取引に関連するルールが少なからず変更された。住宅の売主と建築請負人の債務不履行責任の内容がその一例である。
 これらの内容については、前述したように公刊された書物により確認することもできるし、各団体で講演会や勉強会を開催しているので、それらに積極的に参加して、疑問や不明点を払拭しておくことが望まれる。
 改正民法の施行後、いざ顧客に対応した際に、ルールの変更点について問われて戸惑うようなことがあってはならないことは、不動産取引のプロとしての当然の姿勢である。
4.文言の変更
 今回のテーマである「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」への転換については、各論文のいずれの著者も、その趣旨と内容を理解した上で、不動産取引の実務家の視点から的確な分析と考察を行っている。
 世の論者の中には、この文言の転換自体で、例えば建物の欠陥に関する概念が変更されたかのような論調を展開する向きも見られる。
 しかし、ここで改めて強調するまでもなく、文言の変更により概念が変わったのではなく、責任を追及する際の選択肢や時効の仕組みを含め、全体としてのルールが変更されたことを正確に認識すべきである。
 改正民法の施行後の不動産取引においても、顧客に対し無用の疑問や不安をもたらすことのないよう、宅地建物取引士として適切な対応が望まれる。

「生産緑地の2022年問題」 周藤 利一
1.生産緑地制度の改編時に宅建業者に求められていたこと
 生産緑地制度が導入されたのは、1974年(昭和49年)の「生産緑地法」制定によるが、昭和末期から平成初期にかけて発生した地価バブルに対処する政策手段を検討する中で、地価上昇は、旺盛な土地需要に対し供給が過少なために発生するとの認識の下、そのアンバランスを解消するための宅地供給促進策の一つとして、かねてより懸案であった市街化区域内農地に対する宅地並み課税を1992年(平成4年)に本格的に実施するための合わせ技として、その前年に同法が改正され、500㎡以上であること、30年の経過によって市町村長に買取りの申出をすることができるように改められた経緯がある。
 そもそも、1968年(昭和43年)に制定された新都市計画法により創設された線引き制度により市街化区域に指定された地域は全て市街化する、つまり、土地は全て宅地として利用されるべきものとなった。
 したがって、市街化区域内農地も全て宅地化されるべきものとなり、以後、宅地化を促進するための政策が展開されてきた。農地所有者による宅地への転換と賃貸住宅の建設を促進する仕組みがその一例である。
 ここで、宅建業者には、宅地化された土地の取引や賃貸住宅への入居者の募集など、農地所有者による取り組みを支援することが求められていた。
2.今後宅建業者に求められること
 しかし、人口減少時代、低成長時代に入り、市街化区域内においても宅地需要が減衰する中で、都市政策の基本方向がコンパクトシティ政策に転換された。
 そうすると、コンパクトになった都市地域の周辺部に代表される、コンパクト化された、残りの地域の対処方策が問題となる。
 そこで、2015年(平成27年)に「都市農業振興基本法」が制定され、市街化区域内農地を農地として活用することに対する支援が導入された。
 さらに、2017年(平成29年)に「都市緑地法」、「生産緑地法」、「都市計画法」、「建築基準法」が改正され、生産緑地地区の一律500㎡の面積要件を市町村が条例で300㎡まで引き下げることを可能にし、生産緑地地区内で直売所、農家レストランの設置を可能にし、新たな用途地域の類型として田園住居地域が創設された。
 つまり、かつては消滅することが前提であった都市農地が、都市における土地利用の類型として位置づけられ、農的機能が積極的に発揮されことが期待される時代に転換したのである。
 宅建業者としては、このような時代の変化と制度改編の趣旨を十分理解した上で、高齢化の進展や相続税強化に伴う都市農地所有者のニーズを踏まえつつ、都市的土地利用にこだわらず、農的土地利用も含めた土地活用策を企画・提案して、地域の発展に寄与することが求められていると言えよう。
「契約不適合責任と生産緑地問題について」 吉田 修平
1.契約不適合責任
 今回のテーマについては、民法の瑕疵担保責任の内容、考え方などを説明した上で、何が問題になるのかということをまず指摘していただきたい。つまり、特定物ドグマと言う考え方(法定責任説)が、いかに世界の標準に合致しないものであるのかということを説明した上で、今回の改正が、債務不履行責任に変わったということをまず明確にしたい。
 次に、課題として、売買における仲介業務にもたらす影響について不動産実務の視点から記述することが求められている。そこで、契約内容を明確にするということを論じていただくことになる。例えば、売買契約の目的が何であるのか。売買の目的物について備わっているべき品質や性能が何であるのか。また、売買の時期はいつとなるべきであるのかなどの問題が生ずることについて、不動産実務に携わっている経験からあるべき姿を論じていくことが必要になる。
 以上のような観点から、整理して論じていただければ良いと思われるところ、論文の量を確保するためか、条文や制度の説明などが長く行われているものが目立ったことは、やや残念である。
2.生産緑地問題
 生産緑地の2022年問題とは、2022年に生産緑地の指定解除が行われ、固定資産税が跳ね上がることが予想されているところ、多くの地主は生産緑地として維持していくことができず、生産緑地を市場で売却することになると考えられることから、地価に対し非常に大きな下落の圧力がかかると予想されていることを言う。
 この問題について、宅建業者としてどのように取り組んでいくべきなのかについて、自己の経験を踏まえ自説を論じていただくことが必要になる。すなわち、下落圧力のかかる地域はどこであり、かつどの程度の圧力がかかってくるのか。また、下落のスピードはどの程度になるものと予想されるのか、などについて各地域ごとの特性、立地条件、取得を希望するであろうディベロッパー等の動向などを踏まえて自説を展開していくことになろう。

フェローに認定されるには?

応募資格は、宅建マイスターに認定されてから3年以上が経過していること。
その3年間で各々が勉強会への参加や課題の提出などにより「★」と呼ばれるポイントを取得します。
「★」を3個以上取得したうえで、提示されたテーマについての論文・レポートを提出し、審査に合格した方が「宅建マイスター・フェロー」に認定されます。

「★」取得数により、論文・レポートの必要文字数が異なります。

  必要な★の数 論文・レポート文字数
Aコース 3個以上 事例研究論文4000字以上
Bコース 10個以上 事例研究レポート1200字以上

論文・レポートのテーマ

1.「生産緑地の2022年問題について」

2022年には、1992年の生産緑地地区の指定開始から30年となり、買い取りの申出が可能になるため、近年、生産緑地の2022年問題として取り沙汰されています。
生産緑地は、全国に約1.3万ヘクタールの広さがあります。 この対象となる農地を所有する農家が買い取りの申出を行うと、実際には多くが買い取られず、宅地として市場に放出され、地価の下落につながるのではないかなどの懸念する声もあります。
このような状況下において、あなたはこの“生産緑地の2022年問題”を契機と捉え、媒介業務の視点からどのように業務をつなげていけると考えますか。ご自身の考えを記述してください。

2.「改正民法の契約不適合責任(現行の「瑕疵担保責任」)について」

2020年4月1日から施行される改正民法。多岐にわたる改正の中でも、契約不適合責任(現行の「瑕疵担保責任」)等は不動産の売買・賃貸においても多くの場面で関わってきます。
現行の「瑕疵担保責任」が、改正新法では「契約不適合責任」に転換され、特に影響が大きいと思われます。この「契約不適合責任」という契約責任が売買の仲介業務においてもたらす影響についての考えを不動産実務的視点から記述してください。