準メインの科目
賃貸実務・借地借家
“スコア”テキスト丸ごと公開!トップ
敷金については、現行民法上、明確な規定がなく、定義・発生時期・承継の有無等について、判例法理が形成されていますので、整理をしておく必要があります。
賃貸人(A)が建物を賃借人(B)に賃貸し、賃料の12ヵ月分を敷金としてBから預かっていた。 Bは、資金繰りが厳しくなったため、賃料の減額をAに求めたが、Aが拒絶したので、「それならば、多額の敷金を預けているのだから、暫くの間、賃料と相殺する。」と言って、賃料の支払いをストップしてしまった。
< 問題点> 賃借人の側から賃貸人に対して、賃料債権と敷金返還請求権とを相殺(又は充当)するように要求することはできない。 敷金返還請求権は、Bが建物を明け渡してから生ずるからである。 場合により、Bは、Aから賃貸借契約を、債務不履行(賃料未払い)を理由として解除されてしまうおそれがある。
敷金に関する次の記述のうち、適切なものを一つ選びなさい。
1. オフィスビルなど多額の敷金等の預り金が授受されるケースにおいて、貸主が借主退去時に返還することができない場合、借主はその相当分を回収するまでの間、貸主の了承がなくても転貸することができる。
2. 抵当権に基づく競売によって貸主が変更された場合には、抵当権設定登記の後の賃貸借であっても、借主は敷金の返還を新貸主(新所有者)に請求することができる。
3. 借主の立場としては、敷金は貸主に単に預け入れた金銭であるので、貸主は敷金を自己の利益を得るための運用に回したり、他の債務の返済等に充当することはできないとする借主の主張は正しい。
4. 借主・貸主で、貸主が借主の費用負担で原状回復工事を行うことを前提に敷金の清算合意をしたが、貸主が原状回復をしないまま物件を取り壊した場合、借主は工事代金相当額の返還を請求することができる。
●問題の狙い 敷金の返還については、トラブルが多いので、基礎的知識を身につけてください。
答え:4
1.不適切 債権債務と賃貸借は別です。
2.不適切 平成15年の民法の改正によって、抵当権に基づく競売になった場合には、民法改正法の施行(平成16年4月1日)後に賃借人となった者の敷金の返還請求は旧賃貸人(旧所有者)に対してしかできなくなりました。
3.不適切 賃借人より差し入れられた敷金は、単に賃貸人に預けられているだけでなく、その所有権自体が賃貸人に移転すると解するのが判例・通説の立場です。よって賃貸人は、賃借人より差し入れられた敷金を、常に銀行口座上で管理しておく義務はなく、単に借主の賃借物の返還の時期に、賃借人に返還する義務だけを負うことになります。 賃貸人は、敷金を自由に利用し、自由に処分することができます。
4.適切 清算合意は、貸主が原状回復工事を行うということを前提に合意されたものです。貸主が工事を行わないのであれば、貸主は法律上の原因なくして工事代金相当額の利益を得たことになり、民法第703条の「不当利得」に当たります。
(不当利得の返還義務) 民法第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
○ 賃借人のいる建物を、収益物件として、賃借人がいるままで売買することがありますが、敷金関係も買主に承継されることになります。
○ この場合、売主へのヒアリング、レントロールと賃貸借契約書の精査などを通し、承継すべき敷金返還債務を明示し、契約書面等と額面に相違がある場合は、その理由や処理方法までしっかり把握し説明します。
○ なお、賃貸物件が多く競争が激しい地域においては、初期費用を少なくしたい借主のニーズに対応し、敷金額が減少傾向にあるようです。
○ 通常は退去時に、特約によるクリーニング費用や原状回復費の借主負担分を敷金から差し引きますが、賃料が安く、且つ、入居者が喫煙者等であった場合には、敷金だけでは不足するため、新たに請求することになりますが、支払いを得るのに時間や手間を要するケースもあるようです。
○ 元々、江戸時代からの慣習であり地域ごとに意味や相場などが異なります。当然、時代や社会環境の変動に伴う需給バランスによっても変化していきます。敷金・礼金ゼロなどという物件も存在します。
★積み重ねてきた判例等について理解することは大切ですが、日頃からテリトリーとなる地域の市場分析を行うことや消費者の声を聞き、敏感に反応しながら先のリスク回避策を講じる努力が大切です。
参考 現行民法上、敷金についての明確な規定はありませんが、民法(債権法)の改正案により、最高裁昭和48年2月20日の判例法理、即ち、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けた後に敷金の返還義務が賃貸人に生ずる(明渡時説)」旨が明記されました。