公益財団法人 不動産流通推進センター
宅建マイスターメンバーズクラブ

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Meister Members' Club

宅建マイスター・フェロー認定者発表!

「宅建マイスター」の資格認定は2014年よりスタートし、本年で8年目を迎えました。
宅建取引士のリーダーとしてご活躍いただく宅建マイスターの中でも、業界の地位向上など大きな視点をもち、常に顧客満足の追求を実践し、高いマインドと能力を持って業務推進され、業界にとって有用有益な意見を開陳された方を「宅建マイスター・フェロー」に認定する制度を設けました。
今年度認定の3名を、「宅建マイスター・フェロー」として発表します。 フェローの認定要件はこちら

宅建マイスター・フェロー
第4回認定者

論文・レポートのテーマ
1.「改正民法施行後の契約不適合責任について」
2.「旧耐震マンションの流通について」
第13号
森下 智樹 氏
永幸不動産株式会社 代表取締役

大石 良一 氏
レポート・講評を見る
第14号
戸谷 毅 氏
株式会社T's ESTATE京都 代表取締役

白木 淳巳 氏
レポート・講評を見る
第15号
笠原 秀昭 氏
静岡鉄道株式会社 不動産流通事業部
エグゼクティブマネージャー
武藤 秀明 氏
レポート・講評を見る
※勤務先と肩書は、令和2年1月認定時のものです。
これまでの論文・レポートのテーマ
第1回
1.「高齢者との媒介取引において宅地建物取引士に求められるもの」
第2回
1.「生産緑地の2022年問題について」
2.「改正民法の契約不適合責任(現行の「瑕疵担保責任」)について」
第3回
1.「所有者不明不動産と仲介業について」
2.「コンプライアンスと仲介業について」

認定者 紹介・講評

第13号
森下 智樹 氏 永幸不動産株式会社 代表取締役
大石 良一 氏
祖父の代から続く宅建業者・永幸不動産株式会社の三代目として、平成20年に他社での修行をスタート、売買仲介・賃貸仲介・賃貸管理の各分野の実務を学んできました。平成24年より同社での勤務を開始し、現職に至ります。
現在は賃貸管理を専門業務とし、駐車場の草むしりから一棟マンションの売買仲介まで、文字通り自分の手で行い、日々の業務に邁進しております。令和元年に第一子が誕生、在宅ワークを活用しながら子育てと仕事との両立に挑戦中です。
宅建マイスター・フェロー認定を受け、今後とも宅地建物取引士の地位向上と業界全体の健全な発展に寄与して参ります。
「改正民法施行後の契約不適合責任について」
講評
講評
明海大学不動産学部教授
周藤利一
 森下智樹氏の論文は、改正民法施行後の契約不適合責任について論じたものであり、不動産取引に関係する多くの方にとって大きな関心のあるテーマの一つです。
 本論文はまず、「1.はじめに」において、契約不適合責任をめぐる紛争を事前に予防する観点から、契約書特約作成時の注意点、その前提となる物件調査時の注意点について、具体的な事例検討を行いながら実務的な考察を試みるという、論者の問題意識と論文の分析方法が示されています。
 「2.契約不適合責任の主要論点の整理と確認」においては、買主の救済手段の増加、「隠れた」要件の撤廃、法定責任から契約責任への転換という論点を取り上げ、その内容を丁寧に考察しています。
なお、改正民法が「隠れた」要件を撤廃したことは、法律の変更ではないかとの疑問がありそうですが、買主が知っていたかどうかは契約内容の確定(契約の解釈)に当たり考慮されるので、結果的に変わらないと言えます。
 次に、「3.各不動産団体の売買契約書における契約不適合責任」においては、各不動産業界団体が作成した不動産売買契約書の契約不適合責任に関する条文を分析しています。ここでは、改正民法下における不動産売買契約書の状況を確認して、標準的な売買契約書では網羅されておらず、特約でカバーすべき範囲を考察しています。この部分は、論者の独創的な考察であり、高く評価します。
 そして、「4.具体的事例の検討」においては、売主が相続物件の下水道経路を把握していなかったケース、売主が40年以上使われていなかった敷地内の古井戸を失念していたケースという、論者が実務の中で経験した事例を2件紹介しながら、詳細で丁寧な検討を加えた後、いわゆる一棟もののマンション・アパートの媒介における注意点について検討しています。いずれも、問題が発生するポイントを分析・指摘した上で、対応策としての特約事項を具体的に提案し、それぞれの特約事項の意味と必要性について的確に解説しています。そして、ここでは、論者の直接の経験に基づく分析が内容を深化させています。
 最後に、「5.おわりに」において、それまでの検討を踏まえ、宅建マイスターの職能とされる「潜在的リスクの予見」が契約不適合責任に関する紛争の予防において大きな役割を果たすという指摘を提示しています。
 森下智樹氏の論文は、改正民法施行後の契約不適合責任という宅地建物取引士にとって極めて重要な今日的テーマについて、自身の経験を踏まえた詳細かつ丁寧な事例検討を柱に構成されたものであり、特約事項の重要性を強調しつつ、具体的ケースに即して特約事項の条項を提示して、その意義を明らかにしている点に、論者の知見の深さを見出すことができるとともに、それらの内容に大きな説得力があり、読み応えのある論文であると評価します。
弁護士
吉田修平
1 全体について
森下氏の論文は、読み始めたら最後まで一気に読むことができました。大変読みやすく、かつ、面白いという感想を持ちました。
その理由は、後述するように、構成及び論理の展開が優れており、また具体的なケースの選定も適切であるとともに、記述の内容も非常にわかりやすくなっているためだと思われます。

2 構成及び論理の展開
森下氏の論文は、まず、㋐改正民法の主要な論点の整理を行い、次に、㋑各団体の雛形となる契約書の条文をチェックし、最後に、㋒①具体的なケースを説明した上で問題点を指摘し、②具体的なケースについての調査の方法と内容を論じ、③リスクを回避するための特約の書き方を論ずるものです。
その内容は、まず、上記㋐と㋑において規範を検討し、次に、㋒において具体的かつ個別の事例(ケース)を検討しています。また、規範の中でも、先に民法という大きな規範を検討した上で、次に雛形としての契約書の条文という小さな規範を検討しています。
このような検討の仕方は、いわば、大から小への流れに沿って行われており、大変読みやすいものになっています。
さらに、上記㋒においては、①問題点を明確に指摘、説明し、②問題点を調査すべき方法を明らかにし、③さらに、その上でリスク回避のための特約の具体的な記載例を挙げており、大変優れた構成であり、論理の展開となっています。

3 具体的ケースの選定
森下氏の論文は、個別、具体的なケースの選定においても、①下水道の経路の問題、②古井戸の存在を失念していた問題、③契約書に反する口頭の契約が存在していた場合の問題、及び、④定期借家契約において、法定の手続が備わっていなかった場合の問題を挙げています。
選定されたケースも、実務において一般的に生じやすいものだけでなく、契約不適合を論ずる際の問題としても極めて適切なものと思われます。

4 宅建マイスターとしての心得
最後に、森下氏の論文は、宅建マイスターとしての心得を述べた上で、宅建マイスターとして行うべき業務についても適切かつ十分に論じています。

以上のとおり、森下氏の論文は、完成度の高い優れた論文であり、宅建マイスターフェローの論文としてふさわしいものと評価されるものと考えます。
第14号
戸谷 毅 氏 株式会社T's ESTATE京都 代表取締役
白木 淳巳 氏
神戸市東灘区出身。立命館大学法学部在学中に宅地建物取引主任者(現:宅地建物取引士)資格を取得。卒業後は大手不動産会社で営業の基礎を学び、地元京都の建設会社不動産流通部責任者等を経験し現在に至る。不動産歴22年・京都市『地域の空き家相談員』・(公財)不動産流通推進センター等各種団体の宅建関連講習講師を担当。
安心・安全な不動産取引を通じて、地元京都の皆様のお役に立てるよう『宅建マイスター・フェロー』として自己研鑽に励み、後進の指導等を通じて今後も不動産業界に少しでも貢献できればと思います。
「旧耐震マンションの流通について」
講評
講評
明海大学不動産学部教授
周藤利一
 戸谷毅氏の論文は、旧耐震マンションの流通について、多角的な論点から丁寧に考察を重ねた優れた内容になっています。
 本論文は、まず、「はじめに」において、このテーマにおける問題の所在について論者の認識を明らかにしています。特に、1995年の阪神・淡路大震災の際に論者が体験した事実とそこから得られた知見は、同様の経験をしたことのない宅建士の皆さんに今後とも引き継がれるべきものと考えます。
そして、第1章「「旧耐震マンション」とは」において、旧耐震基準と新耐震基準の内容を示して、旧耐震マンションの取引における注意の必要性を喚起しています。
第2章「旧耐震マンション誕生の背景」においては、我が国における分譲マンションの歴史を簡潔・的確に整理して説明しています。
 次に、第3章では、旧耐震マンションのメリットとデメリットについて精力的に分析しています。メリットとしては、価格の安さ、利便性の良さ、眺望の良さなどを取り上げ、詳細に解説しています。また、デメリットとしては、建物の安全性、建築素材の老朽化、建物設備の老朽化、住宅ローン控除の不適用、各種税制面での優遇措置の不適用、修繕積立金の高額化、居住者高齢化による管理組合運営問題、相続等による所有者(権利者)不明問題、建替えに関わるリスクなど多くのリスクを網羅的に取り上げて、的確に説明しています。
 第4章では、旧耐震マンション取引における留意点を考察していますが、ここで、当センターが実施している「宅地建物取引士登録実務講習」で【宅地建物取引士に求められるもの】として示されているCS精神に基づく行動、論理的思考、調整能力、宅地建物取引業に関連する業務に従事する者との連携、不断の研鑽という5点を取り上げ、これらを旧耐震マンションの取引に当てはめて論じています。この点は、論者の独創的な考察であり、その着想の素晴らしさと考察の内容の深さは高く評価できます。
 第5章では、旧耐震マンションの取引であることからトラブルとなった判例・事例を取り上げて、それらの内容を分析し、宅地建物取引士としての注意点を導出しています。
 最後に、「おわりに」において、今後も続く旧耐震マンションの流通において宅建マイスターは、CSによって一般消費者の高い信頼が得られるよう自己研鑽に励むことを言明しています。
このように、本論文は、自身の体験を踏まえた問題意識に基づき、必要かつ十分な関連情報を深く理解した上で、精密な分析を加えて書き上げており、全体構成のバランスがとれていることと相まって、非常に説得力のある内容に仕上がっています。
 以上の通り、戸谷毅氏の論文は、宅建マイスターを含む宅地建物取引士が今後も数多く接するであろう旧耐震マンションの取引に従事する際に極めて有用な基本的な姿勢や視点を明示している点で、理論的側面のみならず、実務的側面において高く評価することができ、これから宅建マイスターを目指す方たちも含め、広く参照して欲しい論考であり、宅建マイスター・フェローの論文として相応しいものと評価します。
弁護士
吉田修平
1 全体について
戸谷氏の論文は、旧耐震マンションの問題について、はじめに、ご自身の阪神淡路大震災の経験から論じており、非常に説得力があり、また、後述するように、出題の意図を的確に把握し、十分に論ずべき点を論じておられ、宅建マイスターフェローの論文として極めてレベルの高いものと評価されると思います。

2 構成及び論理の展開
戸谷氏の論文は、①最初に、旧耐震マンションの定義をきちんと述べています。その際、旧耐震基準と新耐震基準についても正確に定義を述べておられ、その後の論理の展開を支えており、論文全体が非常に読みやすくなっていると思います。
②次に、旧耐震マンション誕生の背景として、歴史的な経緯を述べておられ、論文全体に深みを与えていると思います。
③そして、旧耐震マンションのメリットとデメリットを論じていますが、特に、メリットを挙げている点が非常に独創的であると思います。この視点を加えることにより、様々なデメリットを抱える旧耐震マンションが、なぜ流通するのかについての背景を知ることができ、論文としての説得力を増していると思います。
④さらに、不動産流通推進センターが実施する宅地建物取引士登録実務講習の内容から、旧耐震マンション取引における留意点につき、以下の観点から詳細に論じています。
具体的には、顧客のニーズをきちんとつかんだ上で、徹底的な物件調査を行い、少しでも顧客のリスク回避に繋がるようにするほか、売主と買主との間での契約条件の調整を図り、また、他の士業や金融機関の担当者等との連携も重視した上で、自己研鑽を積み、総合的な判断力を高めていく事を論じており、まさに宅建マイスターフェローとしての非常に高い心構えが示されていると思います。
⑤また、判例及び事例から学ぶ、として、2つの判例と1つの事例を紹介し分析することにより、それ以前に示された規範を事実に当てはめる作業もきちんと行われており、論文としての完成度が高いものと言えると思います。

4 宅建マイスターとしての心得
最後に、戸谷氏の論文は、「終わりに」として宅建マイスターとしての心構えを示していますが、各マンションが抱える個別の問題に対応するためのプロとしての緻密な調査と高度な能力が必要であること、及び、決して妥協を許さない強い意志が必要であることをも論じておられ、まさに出題の意図を的確に見抜いて対応しておられる論文だと思います。 

以上のとおり、戸谷氏の論文は、宅建マイスターフェローの論文として、極めてレベルの高い、素晴らしい論文と評価できると思います。
第15号
笠原 秀昭 氏 静岡鉄道株式会社 不動産流通事業部 エグゼクティブマネージャー
武藤 秀明 氏
弊社は静岡市葵区に拠点を置き、静岡県中部・東部に幅広いネットワークを構築し、宅地分譲・マンション建設販売・不動産投資運用・不動産コンサル及び仲介業を不動産部門の主軸としております。その中でもNo.1不動産コンサルタントとして弊社の核となる不動産事業を牽引して参りました。入社して三年目で不動産の仲介部門である不動産流通事業部の赤字を黒字へとV字回復させたこと、四年目で仲介手数料1億円を達成出来たことは、私の不動産コンサルタントとしての自信や糧となり、更なる知識向上、コンサルティング力の向上を改めて考えさせて頂く形となりました。
また、私が代表で運営している静鉄相続サポートセンターでは、司法書士、税理士、弁護士の四名でチームを作り、相続対策、資産承継、遺言、資産の組み換えなど様々な相続の問題を解決しております。迅速な対応と依頼者様のご負担を軽減させる為、私と司法書士で必ず面談させて頂く形態をとっております。
宅建マイスター・フェローの心構えとして、常に依頼者様の思い、考えをしっかりと汲み取り、顧客満足の追求を怠らないことを念頭に置きながら誠心誠意対応をしていきたいと思います。最後に私が仕事をする上でのモットーであるwin・win・winの関係を重んじ、関わる全ての方達が幸せになれるよう配慮していきたいと思います。
「旧耐震マンションの流通について」
講評
講評
明海大学不動産学部教授
周藤利一
 笠原秀昭氏の論文は、旧耐震マンションの流通に関連して、建替えを中心的に論じたものであり、宅建マイスターとしてマンション建替え問題に対しどのように対応すべきかという観点から、有意義な内容になっています。
 まず、「はじめに」において、マンションに関する統計データを紹介しつつ、宅建士として今後旧耐震マンションを流通させていくに当たっての着眼点・対応策及び取組みを検証し、考察するという、本論文の位置づけを明確に示しています。
 第1章「近年の中古マンションの流通動向及び中古マンションの価格高騰」においては、2020年の東京オリンピック、建築業界の異変、日本の金融緩和及び税制特例、タワーマンションなどの高級マンション需要大、新築マンションに連動する中古マンション価値の上昇という項目建てで最近の市場動向に対し、的確な考察を加えています。
 第2章「旧耐震マンションの抱える留意点・問題点」においては、基本的には住宅ローン控除の利用ができないこと、不動産取得税や登録免許の優遇措置及び住宅資金贈与の優遇の不可、市場価値の低さ、管理費・修繕積立金の高騰や建物劣化による修繕費の支出、老朽化によるマンションの建替えの可能性、市場性に未来がある立地かどうか、管理規約の中身が薄く、マンションルールが厳しい実情、築年数が古いが故の管理組合の運営状況・管理状態、マンションが既存不適格建築物の可能性という具体的な論点を指摘した上で、それぞれの論点についてきめ細かく分析・考察しています。
 第3章では、日本での民間分譲マンションの第一号の建替え事例を紹介し、第4章では、国土交通省のアンケートに基づいたデータベースによる建替えの可能性を紹介しています。
 第5章では、老朽化マンションを建て替えるための課題・問題点について、マンションの建替えについての意識が乏しいこと、現在のマンションが既存不適格建築物であったり、建築基準法などの法令問題があること、建替えを実行するための合意形成へのハードルが高いこと、賃貸借期間中の借家人の権利譲渡という個別の論点を取り上げ、それぞれについて具体的な分析と考察を加えています。
 第6章では、第5章までの考察を踏まえ、旧耐震マンションを取引する上での宅建士としての着眼点・対応策・取組みについて論者の考えを論じています。
 そして、最後に、宅建マイスターとして、最良の提案を消費者に提供するため、常に幅広く新しい知識の習得を心掛け、向上心を持ち続けることを言明しています。
 笠原秀昭氏の論文は、旧耐震マンションの建替え問題に着目して、その内容を的確に分析した上で、宅地建物取引士がこうした旧耐震マンションの取引に従事する際の留意点を明確に提示しています。旧耐震マンションの取引は今後も数多く行われることが見込まれ、それと同時に、建替え問題もまた深刻化することも想定される状況において、本論文は、宅建マイスターを含め広く宅地建物取引士にとって極めて示唆に富む内容になっていると評価できます。
弁護士
吉田修平
 1 全体について
笠原氏の論文は、全体の構成として、①旧耐震マンションの抱える問題点、②旧耐震マンションの建替えの可能性と問題点、及び、③旧耐震マンションを取引する上での宅建士としての対応策に分けて論じており、非常に分かりやすく、かつ、論理の流れも良いため説得力があります。

2 論述の内容
非常に詳細かつ緻密な分析がなされており、また、後述するように、各論点の掘り下げも十分なものとなっています。
(1)旧耐震マンションの抱える問題点について
①住宅ローン控除の利用ができないこと、②不動産取得税や登  録免許税の優遇措置がないこと、③耐震性が低いために市場価値が低いこと、④修繕費の支出等が高額になること、⑤老朽化によるマンション建替えの困難性の問題があること、⑥立地が重要であること、⑦管理規約やマンションルールに問題がある可能性があること、⑧管理組合の運営状況に問題がある可能性があること、及び、⑨既存不適格建物になっている可能性があることについて論じており、非常に多角的な視点から、宅建マイスターでなければ気づかないような様々な問題を取り上げ、かつ、それらについて十分に検討した上で重要な指摘がなされています。
(2)旧耐震マンションの建替えの可能性と問題点について
マンションの建替えについてはいろいろな問題があることが指摘されているところ、笠原氏の論文では、①マンション建替えについての住民の意識が低いこと、②マンションが既存不適格である等、建築基準法に反している場合の問題があること、③建替えを実行するための合意形成のハードルが高いこと、及び、④借家人の権利譲渡の問題があることについて論じています。
そして、以上の分析の下に、旧耐震の老朽化マンションについても、現行の法制度の下では建替えが極めて困難であるという認識に至り、その前提の下に、以上の問題を解決する方法を模索しています。
(3)旧耐震マンションを取引する上での宅建士としての対応策について
笠原氏の論文は、以上の分析の下に、旧耐震マンションを取引する宅建士としてどのような点に着眼し対応していくのか、その取組みの心得等をきちんと論じています。
具体的には、①長期修繕計画がしっかりしているのか、②管理費修繕積立金等はどのようになっているのか、③管理組合の議事録を確認する必要は無いのか、④耐震診断を実施しているのか、その内容はどうなっているのか、⑤ホームインスペクションを実施したらどうなのか、さらに、⑥オプションとして提供すべきサービスの内容としてはどのようなものがふさわしいのか、についてです。

以上のとおり、笠原氏の論文は、19ページにも及ぶ力作であり、宅建マイスターフェローにふさわしい素晴らしい論文であると評価できると思います。

総評

「法制度の大改正が不動産取引にもたらす意義 」 周藤 利一
1.2020年のテーマ
 本年のテーマは、改正民法施行後の契約不適合責任と旧耐震マンションの流通という二つの課題が設定され、それぞれについて、いずれも優れた論文が提出されました。各論文に対する評価は個別の講評に譲ることとしますが、2020年のテーマに共通するポイントは、法制度の大きな改正が不動産取引にどのような影響を及ぼすか、そして、それに対し、宅地建物取引士はどのように対応すべきかということです。 以下では、それぞれのテーマについて少し敷衍して述べます。
2.改正民法施行後の契約不適合責任について
 2020年4月1日から施行された改正民法により、売買契約や請負契約における「瑕疵」という文言が「契約不適合」に改められました。「瑕疵」は日本語の意味としてはキズですが、判例(最高裁判決)は、その実質的な意味を「契約の内容に適合しないこと」であると解釈していました。そのため、目的物に多少のキズがあっても、契約の内容に適合する限り、「瑕疵」ではないと扱われます。
 そこで、日本語としての本来の意味と法律上の意味の混乱を避けるため、改正民法では「契約の内容に適合しない」との用語を用いて、従前の「瑕疵」の具体的な意味内容を端的に表すことにしたのです。改正前民法で瑕疵担保責任を負うのは「隠れた瑕疵」つまり、買主が知らなかった場合に限られていたので、改正民法が「隠れた」要件を撤廃したことは、法律の変更ではないかとの疑問がありそうですが、買主が知っていたかどうかは契約内容の確定(契約の解釈)に当たり考慮されるので、結果的に変わらないといえます。
 改正前民法においては、目的物に瑕疵があった場合に売主や請負人が買主・注文主に対して負う責任(瑕疵担保責任)の性質に関し、学説の対立がありましたが、売主は一般に種類、品質及び数量に関して契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うことを前提に、引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合には債務は未履行であるという契約責任説が有力でした。
 改正民法は、この契約責任説を基本として買主や注文主が有する救済手段を明文化しました。
 ここで、当事者は契約の内容を自由に定めることができるという契約自由の原則があるので、契約不適合の具体的な意味を契約ごとに当事者が特約で定めることができます。したがって、特約の重要性が強調されることになり、提出された論文は、この点を良く理解して考察されています。
改正民法により大きな変更があった点の一つは、売主や請負人の責任の取り方、買主・注文主の立場からは請求権です。具体的には、売買と請負に共通の内容として、追完請求権(第562条)、代金減額請求権(第563条)、解除権(第541条、第542条)、損害賠償請求権(第415条)が規定されました。
 そして、もう一つの大きな変更として、改正民法により時効制度が全体として大きく改正されましたが、契約不適合に関しては、次のルールに改められました(民法第566条)。まず、買主は、契約不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しなければならないこと、1年以内に通知しない場合、その後、具体的に追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除をすることができないこと、ただし、売主が引渡しの時に契約適合を知っていたとき又は重大な過失によって知らなかったときは、買主は、1年以内に通知しなかったとしても、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除をすることができること、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、契約の解除権は、契約不適合を知った時から5年間又は引渡し時から10年間のいずれか早い時点で時効により消滅することです。
 今回掲載された論文の論者は、こうした改正内容を深く理解した上で考察を進めています。
全ての宅地建物取引士の皆さんが、掲載論文を参照しながら、改正内容を正確かつ深く理解していただき、顧客に対する丁寧な説明に努めることにより、安全・安心な不動産取引を実現されることを望みます。
3.旧耐震マンションの流通について
 マンションを含む住宅が、技術の進歩に伴い性能・機能が向上してきていることは、皆さんご承知の通りです。また、住まい方についても、少子高齢化といった我が国社会全体の構造変化や個人のライフスタイルやライフステージの変化、思考や嗜好の変化に伴い変化しつつあることもまた周知のとおりです。
 そして、マンションに関し、より大きな変化は法制度の改正です。区分所有法を中心とするマンション関連法制の制定と改正の歴史的な特徴を誤解を恐れずに一言で言うならば、現実に対する事後的対応の成果であるということです。
 もちろん、マンションは国民の貴重な私有財産の一つであり、また、全ての国民はどこに住むか、どのような居住形態にするかという選択の自由を有しています。したがって、マンションはかくあるべし、マンションにこのように住むべしといった事前対応的な法制度を構築することは不可能なことですから、上述したマンション法制度の制定・改正の歴史的な特徴は当然であり、やむを得ないものであると理解すべきでしょう。
ただ、マンションに限らず、法制度の改正、特に大きな改正はさまざまな影響をもたらします。その代表的な事例が建築基準法で定める耐震基準の改正であり、旧耐震マンションの問題です。
 各論文においても具体的に適されているように、旧耐震マンションにはさまざまなメリットがあります。
また、マンションという住宅類型は、今日のような大多数の人間が都市に居住する社会にあっては、利便性と合理性を有する都市型居住形態として必要不可欠なものです。
 したがって、旧耐震マンションのデメリットゆえに否定的にのみ取り扱うことは現実妥当なことではありません。不動産取引市場において、旧耐震マンションの取引は一定の位置づけが与えられるべきです。
 とは言え、旧耐震マンションのデメリットを放任したまま取引するわけにもいきません。宅地建物取引士として旧耐震マンションの取引に当たる際、自身が旧耐震マンションのデメリットをきちんと認識するだけでなく、顧客もまた正確な知識と理解が得られるようにすることが何よりも宅地建物取引士に求められていることは、改めて強調するまでもありません。
 今回提出された論文の論者は、いずれも宅建マイスターとして上記した諸点を熟知した上で、豊富な経験と深い洞察力に基礎づけられた旧耐震マンションの取引に対する明確な考え方と確固たる姿勢を示しており、他の宅地建物取引士にとって大いに参考になるでしょう。
「審査のポイント」 吉田 修平
1.論文とは
論文とは、課題で示された論点について学び、それによって論点及び関連する問題点等について理解し、さらにその理解の内容を示すものと考える。
もとより、論点について十分に理解することが大前提となるのであるが、次に、論点についての理解の内容をどのように示すかが問われてくる。
そこで示し方についてであるが、
①まず、論文の構成をどのようにするかを十分に考えることが必要になる。
具体的には、問題点を指摘し、概念の定義をしっかり行い、その上で問題についての解決策などをきちんと示す事が重要になる。
②次に、論理の流れが非常に重要になる。
例えば、先に規範を示し、次に規範に事実を当てはめる作業を行うことなどが、論理の流れが明快になるし、非常に読みやすいものになると考えられる。
③さらに、自己の主張を行う事により論文に独創性が加わり、加点事由となるのである。
④また、このような論文が他の宅建マイスターに対しても重要な教材となり、また、日ごろの業務の遂行に対する示唆等にもなるという意味で貢献度も上がるものとなるのである。
2.改正民法施行後の契約不適合責任について
この課題については、
①まず、民法が改正され、瑕疵担保責任から契約不適合責任に変わったこと、および、
②それに伴い生じた各論点についての説明等をきちんとしていただきたい。
③その上で、実際に契約書に落としたときの条文について具体的に検討をしていただき、特に、
④リスクを回避するための特約の重要性等に触れていただければ非常に良いと思われる。
⑤また、宅建マイスターとしての経験を踏まえて、どのような調査を行い、顧客に説明等を行うかなどについても、具体的な事例を踏まえて説明をしていただくことが加点事由につながるものと思われる。
3.旧耐震マンションの流通について
この課題については、
①旧耐震マンションの定義などをまずきちんと述べていただき、
②次に何が問題となるのか、すなわちどのようなリスクがあるのかについて理由なども含めてきちんと論じていただきたい。
③その上で、宅建マイスターとして、どのように調査を行い、問題点を発見したらそれをどのように顧客に説明をするのか、
④また、問題点について、その解決する方策を検討していただきたい。
⑤さらに、取引価格の設定など顧客の満足を図る方策を考えていただきたい。
⑥以上に加えて独創性や貢献度があれば、それらは加点事由となる。
講評者プロフィール
周藤 利一 氏 明海大学 不動産学部教授/工学博士
昭和54年建設省入省。不動産適正取引推進機構研究理事、日本大学経済学部教授、国土交通政策研究所長など歴任。
著書に『日本の土地法』『わかりやすい宅地建物取引業法』など
吉田 修平 氏 吉田修平法律事務所 代表弁護士
定期借家権、終身借家権の立法、担保執行制度の改正などに関わり、中間省略登記の代替え手段の考案等、不動産を得意分野とする。また、各省庁の委員会委員や大学での教鞭、各種団体の役員など多方面で活躍。
著書:「事例研究 民事法 第2版」、「最近の不動産の話」ほか多数。

フェローに認定されるには?

応募資格は、宅建マイスターに認定されてから3年以上が経過していること。
その3年間で各々が勉強会への参加や課題の提出などにより「★」と呼ばれるポイントを取得します。
「★」を3個以上取得したうえで、提示されたテーマについての論文・レポートを提出し、審査に合格した方が「宅建マイスター・フェロー」に認定されます。

「★」取得数により、論文・レポートの必要文字数が異なります。

  必要な★の数 論文・レポート文字数
Aコース 3個以上 事例研究論文4000字以上
Bコース 10個以上 事例研究レポート1200字以上

論文・レポートのテーマ

1.「改正民法施行後の契約不適合責任について」

 2020年4月1日に改正民法(債権法)が施行されました。
 改正民法は、契約に関する規定を中心に約200項目にもわたる膨大なもので、不動産取引の実務に関係するものも、契約不適合責任をはじめとして多岐に渡ります。
 本改正によって、当事者の売却意思や購入目的の確認、物件に内在するリスクの把握など、取引時のトラブルを未然に防ぎ、消費者の期待の応えるために不動産業者の果たすべき責任は、より大きくなったといえます。
 この民法改正で売主の責任が契約不適合責任になったことにより、あなたは今後、不動産取引に関わる当事者として、どのようなことに留意して調査し、契約締結時に特約条項を定め、消費者に対応していきますか。契約不適合責任に関連して実際に起こり得る事象を3つ以上挙げて具体的に記述してください。

2.「旧耐震マンションの流通について」

 現在、分譲マンションは全国に約650万戸存在しています。一方、昭和56年5月以前に建築確認を受けた全国の旧耐震マンションは80万戸を超え、老朽化を巡る問題は深刻さを増しています。
 旧耐震マンションは、居住者にとって、共用設備の老朽化や居住者の高齢化による管理組合の運営、管理費の滞納等多くの問題を抱えています。一方、不動産流通会社の立場から見た場合、資産価値をどのように考え、取引価格を判断していくのか等の難しい問題があります。
 こうした諸問題を抱える旧耐震マンションの不動産取引に関わる上で、あなたはどのような点に留意して消費者に対応していきますか。具体的に記述してください。

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