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No.8

お金をかけずにアイデアで空室対策を実現した事例
~築古マンションが若手アーティストの活動拠点に変身~

管理支店の担当者より、管理物件の長期空室について相談がありました。築40年超・RC造5階建て、3DKのマンション2棟(仮にマンションA・マンションBとします)に空室が増え、なかなか入居者が決まらなくて困っているとのことでした。

オーナー様は100年続く業務用電熱線の製造業を営まれている法人で、現地を確認したところ、2棟のマンションの間には工場、マンションAの1階にはその会社事務所、マンションBの1棟の1階には作業場や倉庫があり、不動産的には「家業と賃貸事業は一体不可分」の状態でした。工場の稼働中は周辺に作業音が聞こえる状態で、それも入居者が決まりにくい原因の一つになっているのではと思われました。4代目社長お聞きしたところ、創業時には周辺には工場しかなかったそうですが、住宅が徐々に増えていくにつれて騒音問題が発生するようになり、周辺住民と折り合いをつけながら今日まで来ているとのことでした。

マンションBの廊下の様子
工場の写真

マンションA・Bともにエレベーターがないため、年代の高い入居者をターゲットにすることは難しいと思われました。しかし室内の状態は、清潔好きな今どきの若い人に選んでもらうには、オーナー様ご自身が手配されているリフォームが不十分な状態でした。特に水回りが古く、壁がタイル貼りの在来工法の浴槽、お湯が出ない洗面台、温水洗浄便座がついていないトイレ、ガスコンロを購入しなければならない段落ちのキッチン…。家業と賃貸事業を同じ法人で行っているため、賃貸事業に経費をかけにくく、賃貸物件のリフォーム代をあまりかけられず、かといって家賃も下げられない状態とのことでした。

在来工法の浴室
お湯が出ない洗面台
温水洗浄便座のないトイレ

現地の状況を精査したところ、マンションBの1階に使われていない倉庫部分などがあったため、そこを「音出しができる作業場」として無料で利用できることを特典にして、アーティストやクリエイターの入居者を募集することにしました。過去に別の管理物件でアーティストやクリエイター向けに入居募集をした際に、制作中に音が出るため制作場所を見つけるのに苦労しているという話を多く聞いたため、「音出しできる」ことに魅力を感じる方がいるだろうと考え、工場の作業音を逆手に取った形です。

結果的に、楽器製作を通じてアート活動をしている方と、家具製作やグラフィックデザインをされている方の二組の入居が決まり、その後にはコンテンポラリーダンスをされている4人の方がルームシェアで2部屋を借りて下さいました。

アーティストやクリエイターは手先が器用でセンスもいいので、一定のルールを作ってDIY可能とする契約としました。

不要物でいっぱいだった倉庫の荷物は
オーナー様が処分して下さった
工房に生まれ変わった倉庫部分
同じく使われていなかった部屋を ギャラリーに改修した
元和室だった部屋が DIYでギャラリーに変身した

入居アーティストたちは制作活動を通じて仲良くなり、物件敷地内では展示イベント、アートフェス、公演などが開催されています。それらの活動を通じて仲間が増え、その中から入居を検討する方が現れて実際に成約へと結びついているため、空室がかなり減ってきました。このまま行けば、アーティストやクリエイターがたくさん住まうマンションに変貌するのもそう遠い未来ではないかもしれません。

アートフェスの屋外展示の様子
アートフェスの屋内展示の様子

オーナー様の信頼も深まり、2025年からマンションBの廊下の掃き掃除をアーティストたちに依頼するようになりました。管理会社としても、共用部に異変があるとすぐ教えてもらえるのでとても助かっています。

トークイベントも開催された
共用部の掃除をする入居アーティストたち

築年数が古くなり、新規入居者の獲得が難しくなった賃貸住宅の空室対策には魔法の方法はなく、一つ一つのマンションに向き合い、対策を丁寧に考えていく必要があります。今回の案件に携わったことで得られた知見を今後に生かしていきたいと思いっています。

情報提供
株式会社ハウスメイトマネジメント
ソリューション事業本部 コンサルティング営業室
 伊部 尚子(公認 不動産コンサルティングマスター)