第7章:いきなりのピンチ
その2日後、私は町会を再び訪れた。
初めて町会役員の方と会う。最初から協力的だ。
役)はじめまして。私の方で既に私道に係る土地所有者一覧は作成してあります。承諾書送付用のあいさつ文も作ってあります。確認していただけますか。
おっ、仕事が早い。こちらもウカウカしてはいられない。自然とやる気がみなぎる。
私)さっそく確認させていただきます。
よし、この内容で大丈夫だ。送付してもらおう。そう思った矢先だった。先の公益社団法人から電話が入る。
業)大変です。問題発生です。
私)どうしたのですか。
業)掻き出す予定の土の中から放射性物質が検出されました。これでは、土を受け入れてくれる中間処理場がありません。
マジか。これからという時に…。これでは全く先に進めないではないか。
完全に出鼻をくじかれた私は、ひとまず「受け入れてくれる処理場を探してもらえませんか。」と頼むしかなかった。
土地所有者への承諾書送付にも「待った」をかけた。いきなりのピンチに立たされた。
それから、約1か月後。吉報が舞い込んだ。
業)先日より「ベクレル」ではなく「マイクロシーベルト」で受け入れを判断してくれる中間処理場を探していたのですが、ひとつ可能性のあるところを見つけました。そのために、再度放射線量を測定しなければならず、その結果次第ということになりますが、どうしますか。
もちろん、やるしかない。これが最後の望みだ。
私)もちろん、やります。お願いします。
後日、運命の測定結果が出た。OKだ。よし、これで先に進める。
第8章:承諾書の取得
私は、土地所有者への承諾書送付にもGOサインを出した。一斉に送付が始まる。毎日、返信用封筒で承諾書が届く。直接、町会に持ってきてくれる人もいる。順調だ。
そんな中、事務員さんから電話が入る。
事)「こういう内容にしてくれないとハンコは押せないよ。」と言ってきた人がいるのだけど、どうしたらよいですか。
私)ひとまず、そちらに行きます。
行って、話を聞いてみる。
私)確かにこの人はその点が心配だったから、そう言ってきたのだと思います。この人については(承諾書の)文章を変更した方がよさそうなので、船橋市役所に変更してよいか掛け合ってみます。
また、別の日にも、事務員さんから電話が入る。
事)「実は父が亡くなりまして。私が相続したのですが、どうしたらよいですか。」と問合わせがあったのですが…。
私は、再び町会を訪れる。話を聞く。
私)相続があったときにはどうしたらよいのか、相続人が複数いるときはどうすればよいのか、まだ遺産分割協議が整っていないときはどうしたらよいのか、船橋市役所に対応を聞いて回答します。
また、全く連絡をくれない人もいる。事務員さんが電話を入れる。
事)町会の者ですが、町会から承諾書の依頼文が届いていませんか?
相)ああ、届いているよ。
事)寄附するのに、あなたの承諾書が必要なのよ。署名押印してこちらに送り返してくれませんか?
相)ああ、わかったよ。
しばらく、届くのを待つ。一向に届かない。再度、連絡を入れる。届かない。こちらは、一刻も早く書類を揃え手続きを進めたい。でも、揃わない。このジレンマが来る日も来る日も続く。連絡を入れ続けてもらう。
こんなやり取りをしたこともある。
私)町会の雨水管の寄附の件で作業をしております細沼と申します。事務員さんからあなた様の電話番号を聞き連絡しました。一度、町会長といっしょにお伺いしたいのですが。
相)町会の書類は来ています。ただ、今は相続でゴタゴタしていて、そっちのことを考えられません。
私)こちらの話は(あなた様の)相続とは関係ありませんが…。
相)相続とは関係ないですが、今はそちらのことは考えられません。
私)ただ、それならば(あなたの所有地に入っている雨水管を)寄附の対象から外すこともできますが。
相)寄附の対象から外す?
私)はい。町会があなた様に雨水管を渡しますので。
相)そんな雨水管いらないわよ。
私)ただ、それならば先日の承諾書を出していただきたいのですが。
相)だから、今は忙しくてそれどころではないのです。
私)ただ、それだと町会は困ってしまいます。あなた様に選択していただければよいのですが。
相)町会から文書が来ていることはわかっています。ただ、今は忙しくてそちらのことは考えられません。
私)では、いつ頃なら忙しくなくなりますか。
相)あと、1ヶ月は無理ね。
私)では、1ヶ月後にまたご連絡致します。
事務員さんからも献身的な説得が続く。
事)あなたが協力してくれないと、町会は(雨水管を)寄附できないのよ。
強制はできない。承諾書が届くのを我慢強く待つ。
そして、ようやく最後の人から連絡が入った。
相)明日、書類を発送します。
それから数日後、町会ポストに最後の一通が届いた。延べ268名全員分の承諾書が揃った。
後日、私はそれらの承諾書を手に船橋市役所を訪れた。担当者はこう言った。
市)本当に全員分の承諾書を取ったのですか?
私)はい、もちろんです。だって、それが(寄附の)条件だって言ったじゃないですか。 私は、ちょっぴり自慢げに答えた。