全事例その他千葉県
No.4

豪雨から町を守る!
町会が挑む雨水管寄附の実話

第7章:いきなりのピンチ

 その2日後、私は町会を再び訪れた。

 初めて町会役員の方と会う。最初から協力的だ。

役)はじめまして。私の方で既に私道に係る土地所有者一覧は作成してあります。承諾書送付用のあいさつ文も作ってあります。確認していただけますか。

 おっ、仕事が早い。こちらもウカウカしてはいられない。自然とやる気がみなぎる。

私)さっそく確認させていただきます。

 よし、この内容で大丈夫だ。送付してもらおう。そう思った矢先だった。先の公益社団法人から電話が入る。

業)大変です。問題発生です。

私)どうしたのですか。

業)掻き出す予定の土の中から放射性物質が検出されました。これでは、土を受け入れてくれる中間処理場がありません。

 マジか。これからという時に…。これでは全く先に進めないではないか。

 完全に出鼻をくじかれた私は、ひとまず「受け入れてくれる処理場を探してもらえませんか。」と頼むしかなかった。

 土地所有者への承諾書送付にも「待った」をかけた。いきなりのピンチに立たされた。

 それから、約1か月後。吉報が舞い込んだ。

業)先日より「ベクレル」ではなく「マイクロシーベルト」で受け入れを判断してくれる中間処理場を探していたのですが、ひとつ可能性のあるところを見つけました。そのために、再度放射線量を測定しなければならず、その結果次第ということになりますが、どうしますか。

 もちろん、やるしかない。これが最後の望みだ。

私)もちろん、やります。お願いします。

 後日、運命の測定結果が出た。OKだ。よし、これで先に進める。

第8章:承諾書の取得

 私は、土地所有者への承諾書送付にもGOサインを出した。一斉に送付が始まる。毎日、返信用封筒で承諾書が届く。直接、町会に持ってきてくれる人もいる。順調だ。

 そんな中、事務員さんから電話が入る。

事)「こういう内容にしてくれないとハンコは押せないよ。」と言ってきた人がいるのだけど、どうしたらよいですか。

私)ひとまず、そちらに行きます。

 行って、話を聞いてみる。

私)確かにこの人はその点が心配だったから、そう言ってきたのだと思います。この人については(承諾書の)文章を変更した方がよさそうなので、船橋市役所に変更してよいか掛け合ってみます。

 また、別の日にも、事務員さんから電話が入る。

事)「実は父が亡くなりまして。私が相続したのですが、どうしたらよいですか。」と問合わせがあったのですが…。

 私は、再び町会を訪れる。話を聞く。

私)相続があったときにはどうしたらよいのか、相続人が複数いるときはどうすればよいのか、まだ遺産分割協議が整っていないときはどうしたらよいのか、船橋市役所に対応を聞いて回答します。

 また、全く連絡をくれない人もいる。事務員さんが電話を入れる。

事)町会の者ですが、町会から承諾書の依頼文が届いていませんか?

相)ああ、届いているよ。

事)寄附するのに、あなたの承諾書が必要なのよ。署名押印してこちらに送り返してくれませんか?

相)ああ、わかったよ。

 しばらく、届くのを待つ。一向に届かない。再度、連絡を入れる。届かない。こちらは、一刻も早く書類を揃え手続きを進めたい。でも、揃わない。このジレンマが来る日も来る日も続く。連絡を入れ続けてもらう。

 こんなやり取りをしたこともある。

私)町会の雨水管の寄附の件で作業をしております細沼と申します。事務員さんからあなた様の電話番号を聞き連絡しました。一度、町会長といっしょにお伺いしたいのですが。

相)町会の書類は来ています。ただ、今は相続でゴタゴタしていて、そっちのことを考えられません。

私)こちらの話は(あなた様の)相続とは関係ありませんが…。

相)相続とは関係ないですが、今はそちらのことは考えられません。

私)ただ、それならば(あなたの所有地に入っている雨水管を)寄附の対象から外すこともできますが。

相)寄附の対象から外す?

私)はい。町会があなた様に雨水管を渡しますので。

相)そんな雨水管いらないわよ。

私)ただ、それならば先日の承諾書を出していただきたいのですが。

相)だから、今は忙しくてそれどころではないのです。

私)ただ、それだと町会は困ってしまいます。あなた様に選択していただければよいのですが。

相)町会から文書が来ていることはわかっています。ただ、今は忙しくてそちらのことは考えられません。

私)では、いつ頃なら忙しくなくなりますか。

相)あと、1ヶ月は無理ね。

私)では、1ヶ月後にまたご連絡致します。

 事務員さんからも献身的な説得が続く。

事)あなたが協力してくれないと、町会は(雨水管を)寄附できないのよ。

 強制はできない。承諾書が届くのを我慢強く待つ。

 そして、ようやく最後の人から連絡が入った。

相)明日、書類を発送します。

 それから数日後、町会ポストに最後の一通が届いた。延べ268名全員分の承諾書が揃った。

 後日、私はそれらの承諾書を手に船橋市役所を訪れた。担当者はこう言った。

市)本当に全員分の承諾書を取ったのですか?

私)はい、もちろんです。だって、それが(寄附の)条件だって言ったじゃないですか。 私は、ちょっぴり自慢げに答えた。