世界の不動産事情

広岡 裕児氏 

1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。
パリ第三大学留学後、フランス在住。シンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。またフリージャーナリストとして著書『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書) 他。

広岡 裕児氏

2019年02月04日公開 

リバースモーゲージとは似て非なる「ヴィアジェ」の話(フランスの不動産事情<第8回>)

ロシアの研究者が12年前に122歳の世界最高齢のギネス記録で亡くなったフランス女性ジャンヌ・カルマンさんが、娘のなりすましだと指摘、ひとしきり話題になりました。信憑性はきわめて薄いようですが、もし本当だったら、結構大変な話になるところでした。というのは、彼女が、不動産ヴィアジェを利用していたからです。

不動産ヴィアジェは、高齢者が所有不動産を売却し、代金を一時金と終身定期金で受け取る制度で、居住中であれば亡くなるまで住みつづけられます。

リバースモーゲージ(RM)とは似て非なるもので、不動産を担保とした融資ではなく完全な売買です。ですから、物件の担保価値が下がろうとも、長生きして累計が価値を上回ろうとも追い出される心配はありません。

売買ですから、これによって売主は共益費や不動産税(固定資産税)、水漏れなどの賠償責任その他一切の住居に関する煩しさから解放されます。逆に買主には大儲けの可能性があります。例えば3000万円の物件で、一時金1000万円、終身定期金月10万円の契約で、仮に10年間後に亡くなると、2200万円で物件を手に入れられます。ヴィアジェの最終的利回りの平均は6~8%といわれます。また、売主が老人ホームに入るなどした場合は居住したり賃貸したりできます。

リバースモーゲージはもともと英米で発達したものでフランスでもヴィアジェとは別の商品になっています。金融業者の発想でつくられているので貸した側が損をしないように設計されていますが、ヴィアジェは不確実性がキモです。いわば1件1件手作りするもので、物件評価、共益費や公租公課、適切な余命予測、収益率などを総合的にカバーし、更には気持ちまで忖度して売主と買主のお互いの利益を調整できる不動産業者が必要です。

取引実績の統計はありませんが、年5000~6000件といわれています。中古住宅売買は年間95万件ありますが、その中には業者間の取引も多く、また、ヴィアジェ売主の大半の75歳以上が全人口の8.9%であることを考えると侮れません。高齢化や年金の低下、金融市場の不安定性などを反映してこのところ毎年5%ずつ増えています。

ところで、日本の民法の「終身定期金契約」(689条~)は、もともとフランスのヴィアジェに想を得たものだそうです。たとえば、この形で生前売買できれば、貴重な旧家が相続税のために取り壊されることを防ぎ、保護しつつ有効利用できるのではないでしょうか。

フランスでは、3分の1は家族内での売買です。本人が元気なうちに相続のゴタゴタを回避できます。日本でもご両親のどちらかが亡くなった時の相続分などをうまく利用したりすれば案外幅ひろく利用できるのではないでしょうか。

ちなみに、カルマンさんは90歳のとき、ヴィアジェにしました。買主としては「お買い得」だと思ったのでしょう。ところが、結果は、市場価値の倍の価格を支払うことに。しかも、買主はカルマンさんを顧客としていた不動産のプロ中のプロの公証人だったのですが、彼女より先に亡くなってしまいました……。


<第1回>建物がうまくいけばすべてうまくいく!
<第2回>資産としての不動産
<第3回>“門”の内と外
<第4回>ノテール事務所
<第5回>ゴルフ場開発の資金は別荘地売却で
<第6回>Habitat indigne(「不適切な住宅」)と logement indécents
<第7回>不動産店舗取引の3つのキーワード「mur(ミュール)」「Bail(バイユ)」「Fonds(フォン)」
<第8回>リバースモーゲージとは似て非なる「ヴィアジェ」の話
<第9回>分業で行われるフランスの新規住宅供給
<第10回>開発・分譲で利用される「将来完成する状態での売却」とは?
<第11回>フランスの歴史的文化財(monument historique)
<第12回>賃貸収入の税控除と賃貸制度のしくみ
<第13回>固定資産税とは異なる「不動産税」の考え方
<第14回>老後資産の主役は「不動産」
<第15回>不動産の特徴を享受できる“SCPI”

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