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2210-R-0255
小規模事務所の原状回復費用負担特約の妥当性。

 居住用賃貸マンションの一室を事務所として使用していた賃借人が退去したが、原状回復費用負担を特約していたにもかかわらず、賃借人は、費用負担する義務はないと主張している。

事実関係

 当社は、賃貸の媒介業者である。4年前に賃貸マンションの1室を事務所使用目的の賃貸借契約の媒介をした。このマンションは、築後20年を経た5階建で、1階は店舗であり、2階以上は居住用のマンションである。賃借人は近隣に数店舗ある飲食関係の法人で、賃借物件には代表者1名と従業員2名で経理等の事務作業を行っていた。室内は特に造作することもなく、設置したのはパソコンを置いた机3台と、来客用の応接セットのみであった。賃借人は、事業拡大のために事務所を他に移転することになり、契約を解除して退去することになった。賃貸人は、賃借人の退去にあたり、賃借人の原状回復費用負担があるため、その費用を敷金から充当するので、敷金の返還額はない旨を通知した。賃貸借契約書には、事業用賃貸借契約書に通常記載がある「賃借人が退去するときは、賃借人は、造作の撤去、クロス及び床の張替えをして返還しなければならない」旨の原状回復特約が約定されている。
 賃借人は、賃借していた部屋は居住用の約30㎡強のワンルームマンションであり、契約書に原状回復特約があっても、賃借人の故意過失による室内の毀損をしておらず、自然損耗等の経年劣化の費用については賃料に含まれており、その費用負担は賃貸人であり、賃借人は費用負担する義務はないと主張し、敷金の返還を求めている。

質 問

 賃借人が、事業用途目的で賃借したときは、約定に従い、原状回復費用を負担しなければならないのか。

回 答

1.  結 論
 賃借人が、法人か個人かにかかわらず、事業用途目的で小規模の居住用物件を賃借し、契約書に賃借人の原状回復義務の記載があっても、国土交通省公表の原状回復ガイドラインを適用して賃借人は費用を負担しない場合がある。
2.  理 由
 事務所や店舗等の事業用賃貸借契約では、賃借人は、特約に従い、退去時に原状回復義務を負っているのが通常であるが、その原状回復の内容は、ビルの規模や築年数、入居者の業種等によって千差万別である。原状回復義務は負わない場合や居抜き等で退去時の状態で返還することもあるが、造作等の撤去、クロス、天井や床の張替え、室内クリーニング等を課したり、その組み合わせもある。契約時は、スケルトンの状態で賃貸借し、退去時にはスケルトンに戻す約定も多い。賃借人の使用方法はさまざまであり、スケルトン状態のほうが、設備や造作を自由に設置できるメリットがあり、賃借人が退去時にスケルトン状態に戻すことによって、賃貸人にとっては次の賃借人が設備・造作等を自由にできることから業種等を問わずに募集できるメリットがある。事業用途物件の賃貸人及び賃借人はともに事業者であり、消費者契約法は適用されず、原状回復特約を自由に約定すること可能である。
 裁判例でも、「オフィスビルの賃貸借においては、次の賃借人に賃貸する必要から契約終了に際し、賃借人に賃貸物件のクロスや床板、照明器具などを取り替え、場合によっては天井を塗り替えることまでの原状回復義務を課する旨の特約が多い」とし、事業用途の賃貸借では、賃借人の保護を必要とする民間居住用賃貸住宅とは異なり、「市場性原理と経済的合理性の支配するオフィスビルの賃貸借では、賃借人の建物の使用方法によっても異なり得る原状回復費用を、あらかじめ賃料に含めて徴収する方法をとらずに賃借人が退去する際に賃借人に負担させる旨の特約を定めることは、経済的にも合理性がある」とオフィスビルの賃貸借契約においては、賃借人の原状回復特約の必要性について肯定している(東京高裁平成12年12月27日判決)。
 しかしながら、この裁判例を引用しつつも、相談ケースのような小規模の居住用物件を事務所に使用する場合の原状回復に関し、「本件賃貸借契約はその実態において居住用の賃貸借契約と変わらず、これをオフィスビルの賃貸借契約とみることは相当でなく、原状回復特約をそのまま適用することは相当ではないというべきである。すなわち、本件賃貸借契約はそれを居住用マンションの賃貸借契約と捉えて、原状回復費用は、いわゆるガイドラインにそって算定すればよい」とした裁判例がある(【参照判例①】参照)。
 また、事業用途の賃貸借契約で原状回復の内容を「借主の特別な使用方法に伴う変更・毀損・故障・損耗を修復し、貸室を原状に回復」する旨定めた事案の裁判例で、「通常の使用をした場合の経年劣化に基づく損耗は原状回復義務に含まれないと定めたものと解され、これと同様の解釈に基づいて定められている本件ガイドラインの内容自体は、本件賃貸借契約についても妥当するものである」と原状回復ガイドラインを適用するとしたものがある(【参照判例②】参照)。事務所使用のすべての賃貸借契約にガイドラインが適用になるわけではないが、使用実態が居住用賃貸借契約と変わらないと判断されれば、賃借人の原状回復義務はガイドラインに沿うことがあるとしたものである。
 最近は、働き方改革や中高年齢者が活動する場所として、SOHO(注1)に代表されるような小規模の事業用途の賃貸借が増加している。分譲マンションの場合は、事務所の使用を禁止していることが多く、賃貸借はできないが、媒介業者は、1棟賃貸マンションの面積が小規模である物件の賃貸借の媒介をするときは、賃借人の原状回復義務がガイドラインに従う場合があることを留意しておくべきあろう。
 (注1)SOHO(Small Office Home Office の略語)=小規模オフィスや自宅で仕事を行うこと、または、その場所や物件。

参照条文

 民法第599条(借主による収去等)
   借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
   借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができる。
   (略)
 同法第622条(使用貸借の規定の準用)
   第597条第1項、第599条第1項及び第2項並びに第600条の規定は、賃貸借について準用する。

参照判例①

 東京簡裁平成17年8月26日(要旨)
 賃貸人が、参考として挙げる前記判例(東京高裁平成12年12月27日判決)は、本件と同様の原状回復特約「本契約が終了するときは、賃借人は賃貸借期間が終了するまでに、造作その他を本契約締結時の原状に回復しなければならない。」の必要性について、一般に、オフィスビルの賃貸借においては、次の賃借人に賃貸する必要から契約終了に際し、賃借人に賃貸物件のクロスや床板、照明器具などを取り替え、場合によっては天井を塗り替えることまでの原状回復義務を課する旨の特約が多いということを認定したうえ、賃借人の保護を必要とする民間居住用賃貸住宅とは異なり、市場性原理と経済的合理性の支配するオフィスビルの賃貸借では、このように、賃借人の建物の使用方法によっても異なり得る原状回復費用を、あらかじめ賃料に含めて徴収する方法をとらずに賃借人が退去する際に賃借人に負担させる旨の特約を定めることは、経済的にも合理性があると説明する。当該裁判所もオフィスビルの賃貸借契約においては、このような原状回復特約の必要性についてはそれを肯定するものである。
 前記判例における賃貸物件は保証金〇〇〇〇万円という典型的オフィスビルであり、しかも新築物件である。それに比して、本件物件は、使用は居住用の小規模マンション(賃貸面積34.64平方メートル)であり、築年数も20年弱という中古物件である。また、賃料は〇〇万円、敷金は〇〇万円であって、事務所として利用するために本件物件に設置した物は、コピー機及びパソコンであり、事務員も2人ということである。このように本件賃貸借契約はその実態において居住用の賃貸借契約と変わらず、これをオフィスビルの賃貸借契約とみることは相当でない。
 本賃貸借契約は、その実態において居住用の賃貸借契約と変わらないのであるから、オフィスビルの賃貸借契約を前提にした前記特約をそのまま適用することは相当ではないというべきである。すなわち、本件賃貸借契約はそれを居住用マンションの賃貸借契約と捉えて、原状回復費用は、いわゆるガイドライン(注2)にそって算定し、敷金は、その算定された金額と相殺されるべきである。

参照判例②

 東京地裁平成25年3月28日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 賃貸人は、本件ガイドライン(注)は本件賃貸借契約(事業用賃貸借契約)には適用されない旨主張し、同旨の裁判例(東京高裁平成12年12月27日判決)が存在する旨指摘する。しかしながら、同裁判例は、賃貸借契約書に「本契約締結時の原状に回復しなければならない」と明記されていた事案についてのものであり、本件と事案を異にする。本件ガイドラインは、民間賃貸住宅の賃貸借契約を念頭に置いたものであるが、本件賃貸借契約における原状回復の内容として「借主の特別な使用方法に伴う変更・毀損・故障・損耗を修復し、貸室を原状に回復」する旨定めていることからすると、通常の使用をした場合の経年劣化に基づく損耗は原状回復義務に含まれないと定めたものと解され、これと同様の解釈に基づいて定められている本件ガイドラインの内容自体は、本件賃貸借契約についても妥当するものであると認められる。
 (注2)ガイドライン=国土交通省『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』及び東京都『賃貸住宅トラブル防止ガイドライン』

監修者のコメント

 本相談ケースにおける結論と理由づけは、もちろんそのとおりであるが、国土交通省策定の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、同ガイドラインが自ら述べているように、あくまでガイドラインであって、それと異なる特約が無効であるというような解釈を導くもの、すなわち特約の有効・無効の基準となるような性格のものではないことに留意されたい。ガイドラインの内容は、賃貸人・賃借人間の公平の観点からみても、極めて妥当なものであるので、これに準拠するのが理想であるが、法的な拘束力のあるものではない。

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