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2110-R-0240
賃借人は、耐用年数を超えた壁クロスの原状回復義務を負うか。

 賃貸管理会社である当社が賃借人の退去に伴い、賃貸人と退去の立会いをした。建物内を点検したところ、賃借人の子がクレヨン等による落書きを多数しており壁クロスに酷い汚れがある。壁クロスは耐用年数を経過している。

事実関係

 当社は賃貸の媒介業者兼管理会社である。当社が管理している賃貸マンションに家族で8年間入居していた賃借人が退去することになり、賃貸人とともに退去立会いをした。室内を点検したところ、居間の壁クロスのいたるところに幼稚園児である子がクレヨン等の筆記具で絵や文字を描いた痕がそのままになっていた。通常のクリーニングでは落とせないほど壁クロスに染みついていた。
 賃貸人は、当然ながら、室内の自然損耗については賃借人に対して原状回復費用を請求するつもりはなかった。賃貸人は、新たな賃借人の入居のために壁クロスの汚れはハウスクリーニングの範囲でとどめる予定であったが、ここまで汚れが酷いと壁クロスの張替えが必要になる。賃貸人は賃借人に対して、原状回復費用として張替え費用の一部の負担を要求した。
 しかし、賃借人は、国土交通省が公表している原状回復ガイドラインでは壁クロスの耐用年数は6年で、新品でも6年経過すれば価値は0円又は1円であることを引き合いに出し、自身は8年間入居し、既に耐用年数は経過しており、賃借人が壁クロスを故意または過失により傷つけたとしても、張替え費用は賃貸人が負担すべきものであって、原状回復費用負担に応じるつもりはないと主張している。

質 問

 賃貸人は、賃借人が賃借物件の耐用年数を超えている壁クロスを毀損・汚損させた場合、賃借人に原状回復費用を請求することができるか。

回 答

1.  結 論
 経過年数を超えた内装であっても、賃借人が故意または過失により毀損・汚損させた場合は、賃借人は、修繕等の工事に伴う費用負担が必要になる場合がある。
2.  理 由
 賃借人の退去に伴い、賃借物の経年劣化や通常使用範囲内に生じた損耗(自然損耗)の修繕等については、原則、賃貸人の負担であり、賃借人に対してその負担を求めることはできない。賃借人に負担を請求することができるのは、契約上で特別の約定があるときと、賃借人の故意または過失によって生じた毀損・汚損に対する原状回復費用である。賃借人は、賃貸借契約終了時に、賃借物を賃貸人に返還するときは、賃借物に附属させたものを収去し、原状に復して返還する義務を負っている(民法第599条、同法第601条)。賃借人に原状回復の負担義務がある場合、壁クロスについては新品価格ではなく、経過年数等を考慮するとされており、6年で残存価値1円となるような負担割合を算定基準としている(国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」別表第5)。しかし、耐用年数が経過していたとしても、賃貸人が次の入居者のために壁クロスを張り替えるか否かは、賃貸人の判断であり、使用状況が良好で、汚損等がなければ必ずしも張り替えるとは限らない。
 裁判例では、「耐用年数を経過していても賃借人が善管注意義務を尽くしていれば、張替えは必須ではなかった」とし、「経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得ることを賃借人は留意する必要がある。具体的には、経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となることがあるものである」と同ガイドライン(12頁)を引用して、「経過年数を超えた設備等を含む賃貸物件であっても、賃借人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っていることは言うまでもなく、そのため、経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得る」とし、耐用年数が経過した設備については経済価値がないという賃借人の主張を否定し、賃借人に賃貸物の善管注意義務(民法第400条)違反があるとして、賃貸人が請求した賃借人の原状回復費用の負担を容認したものがある。

参照条文

 民法第400条(特定物の引渡しの場合の注意義務)
   債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
 同法第415条(債務不履行による損害賠償)
   債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
   (略)
 同法第599条(借主による収去等)
   借主は、借用物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、使用貸借が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負う。ただし、借用物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物については、この限りでない。
  ・③ (略)
 同法第601条(賃貸借)
   賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。
 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」12頁
   経過年数を超えた設備等を含む賃借物件であっても、賃借人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っていることは言うまでもなく、そのため、経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得ることを賃借人は留意する必要がある。具体的には、経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す、例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となることがあるものである。
<参考>「同ガイドライン」別表第5 135頁
2.賃借人の負担単位
date211015

参照判例

 東京地裁平成28年12月20日 ウエストロー・ジャパン(要旨)
 賃借人が本件物件を明け渡した時点において、1階台所の壁クロスは著しく汚れており、賃借人は、賃借人としての善管注意義務に反して本件物件を使用しており、その使用状態のまま本件物件を明け渡したと認められる。
 このような状態で本件物件を明け渡された賃貸人としては、本件物件を新たな賃借人に賃借するために1階台所の壁クロスの張替えを実施せざるを得なかったということができる。そして、1階台所の壁クロスの張替えによって、賃借人において善管注意義務を尽くしていた場合の1階台所の壁クロスの状態よりも良い状態になり得ることを考慮しても、壁クロスの張替え費用の一部を原状回復義務の不履行に基づく原状回復費用として認めることは相当であるというべきである。賃借人は、ガイドラインによれば、耐用年数は6年であり、本件物件の明渡しの時点においてその価格は0円又は1円であると主張するが、ハウスクリーニングと同様に、仮に耐用年数を経過していたとしても、賃借人が善管注意義務を尽くしていれば、壁クロスの張替えを行うことが必須とは解されないから、賃借人の主張は採用できない。なお、ガイドラインによっても、「経過年数を超えた設備等を含む賃貸物件であっても、賃借人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っていることは言うまでもなく、そのため、経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得る」とされているところである。

監修者のコメント

 本ケースにおける賃借人の主張論理が正しいとすれば、例えば、まだ十分に機能しているが、耐用年数を経過しているエアコンを賃借人が故意に壊しても、賃借人は責任を負わなくてよいことになってしまう。
 国交省のガイドラインも言うように、耐用年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等が使用可能である限り、これを故意又は過失により破損したり、使用不能にしてしまったことは、賃借人の善管注意義務違反である。本件の壁クロスの汚損も同じであるが、ただその張替え費用の全額を負担させることはできない。全額であれば、賃借人の落ち度を幸いに賃貸人が不当に利得してしまうからである。負担割合は事情にもよるが、賃貸人が7、賃借人が3くらいの比率が妥当であろうか。

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