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2002-R-0215
賃貸借契約の終了に伴う敷金の返還時期は、賃借人の建物明け渡しと同時にすべきか

 当社は賃貸の媒介業者である。賃貸借期間が満了になり賃借人は退去するが、賃借人は、賃貸人に預託している敷金の返還がなければ、明け渡さない、明渡しと敷金返還は同時に行うべきと主張している。

事実関係

 当社は賃貸の媒介業者である。3年前に媒介をした賃貸マンションの建物賃貸借契約が期間満了となり、賃借人は更新せずに契約が終了する。賃借人の退去日は2週間後であるが、賃借人は、契約時に賃貸人に預け入れている賃料の2か月相当分の敷金を、建物明渡しのときに返還してほしいと要求している。敷金の返還がなければ、マンションを明け渡さないとも言っている。賃貸借契約書には、「賃貸人は、建物の明渡しがあったときは、敷金の全額を無利息で賃借人に返還する」及び「本契約から生じる賃借人の債務の不履行が存在する場合には、債務の額を敷金から差し引くことができる」旨の約定があるが、敷金の返還時期については明記されていない。賃借人の賃料滞納はなく、賃貸人は、退去日までの賃料も受領している。

質 問

 賃貸人は、契約時に賃貸人が預かっている敷金を賃借人の建物明渡と同時に返還しなければならないか。

回 答

1.  結 論
 賃借人が建物を明渡す時点では、賃貸借契約における賃借人の賃貸人に対する債務が確定しておらず、契約終了に伴う賃借人の建物明渡義務と敷金返還義務は同時履行の関係になく、賃貸人は賃借人の建物明渡しと同時に敷金を返還しなくてもよい。ただし、賃借人の債務を確定させたときは、その債務を差し引いた額を速やかに返還する必要がある。
2.  理 由
 賃貸借契約における敷金の目的は、賃借人の賃貸人に対する債務を担保することである。賃借人の債務には、賃料、遅延損害金(賃料支払遅延や明渡し遅延)、原状回復費用(賃借人の責めに帰する毀損や約定による負担金)等がある。契約の終了時には、賃借人の債務は確定しておらず、賃借人の建物明渡し及び賃貸人と賃借人の退去立会による原状回復費用の分担を合意した後、つまり明渡し後に始めて債務が確定するといえ、賃貸人は、特別の約定のない限り、その債務を敷金から控除し、なお残額がある場合に、その残額を返還すればよい。債務の金額が敷金を超えているときは、賃貸人は賃借人に対し上回る金額を請求することになる。
 敷金は賃貸借契約に付随するものではあるが、賃貸借契約そのものではなく賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋の明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、一個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるものとすることはできないと解されている。賃貸人所有の建物価格と賃借人の返還敷金額には、著しい価値の差があり、両債務を相対立させてその間に同時履行の関係を認めることは、必ずしも公平の原則に合致するものとはいいがたいと考えられている。家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係(民法第533条)にないものとされているが、賃借人の家屋明渡債務が賃貸人の敷金返還債務に対し先履行の関係であると解すべき場合にあっては、賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権をもって家屋につき留置権(同法第295条)を取得する余地はないと解されている。
 なお、賃借人保護を問題視する向きもあるが、賃借人の保護が要請されるのは賃貸借の利用関係についてであり、敷金の返還時期については、賃貸借終了後のことであり、賃借人保護の要請を強調することは相当でないとしている(【参照判例】参照)。

参照条文

 民法第295条(留置権の内容)
   他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
   (略)
 同法第533条(同時履行の抗弁)
   双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
 同法第619条(賃貸借の更新の推定等)
   (略)
   従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、敷金については、この限りでない。

参照判例

 最高裁昭和49年9月2日 判タ315号220頁(要旨)
 期間満了による家屋の賃貸借終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務が同時履行の関係にあるか否かについてみるに、賃貸借における敷金は、賃貸借終了後家屋明渡義務の履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人対して取得することのある一切の債権を担保するものであり、賃貸人は、賃貸借の終了後家屋の明渡がされた時においてそれまでに生じた右被担保債権を控除してなお残額がある場合に、その残額につき返還債務を負担するものと解すべきものである(最高裁昭和48年2月2日判決)。そして、敷金契約は、このようにして賃貸人が賃借人に対して取得することのある債権を担保するために締結されるものであって、賃貸借契約に付随するものではあるが、賃貸借契約そのものではないから賃貸借の終了に伴う賃借人の家屋明渡債務と賃貸人の敷金返還債務とは、一個の双務契約によって生じた対価的債務の関係にあるものとすることはできず、また、両債務の間には著しい価値の差が存しうることからしても、両債務を相対立させてその間に同時履行の関係を認めることは、必ずしも公平の原則に合致するものとはいいがたいのである。一般に家屋の賃貸借関係において、賃借人の保護が要請されるのは本来その利用関係についてであるが、当面の問題は賃貸借終了後の敷金関係に関することであるから、賃借人保護の要請を強調することは相当でなく、また、両債務間に同時履行の関係を肯定することは、右のように家屋の明渡までに賃貸人が取得することのある一切の債権を担保することを目的とする敷金の性質にも適合するとはいえないのである。このような観点からすると、賃貸人は、特別の約定のないかぎり、賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りるものと解すべく、したがって、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではないと解するのが相当であり、このことは、賃貸借の終了原因が解除(解約)による場合であっても異なるところはないと解すべきである。そして、このように賃借人の家屋明渡債務が賃貸人の敷金返還債務に対し先履行の関係にたつと解すべき場合にあっては、賃借人は賃貸人に対し敷金返還請求権をもって家屋につき留置権を取得する余地はないというべきである。

監修者のコメント

 敷金の返還時期については、明渡し完了後か明渡しと同時履行かはかつては見解が分かれていたが、回答に掲げている最高裁判決が同時履行説を明確に否定し、明渡し完了後であるとの説を採る旨を判断し、決着を見た。しかし、このようなことが争いにならないように、契約書に「敷金は、賃貸人が賃借人の建物明渡しを確認した後に返還する」といった趣旨の条文を入れておくのが適切である。もちろん、それは有効であり、賃借人は争う余地はない。

参考

 令和2年4月1日施行の改正民法では、賃貸借の敷金に関する条文が新たに明文化された。敷金返還の時期についても「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」(第622条の2)と規定しており、建物賃貸借では建物明渡し後となる。

 改正民法 第7節 賃貸借 第四款 敷金
 第622条の2
 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

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