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掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

1710-R-0180
定期借家契約の再契約時における38条書面の必要性

 当社は賃貸の媒介業者であるが、定期借家契約の契約時や再契約に際し、「契約の更新がなく、期間の満了により賃貸借は終了する」という、いわゆる38条書面の交付を拒否する賃貸人がいる。定期賃貸借契約の効力などの問題は生じないか。

事実関係

 当社は賃貸の媒介業者である。当社が扱う賃貸借の契約形態は普通賃貸借契約がほとんどである。定期建物賃貸借契約(以下「定期借家契約」という。)は年間に数えるほどの件数しか行っていない。最近、当社の営業エリアには建築年数を経た賃貸建物も多くなり、近い将来の建替を見据え、契約期間満了により賃貸借契約が終了する定期借家契約を希望する賃貸人が増えてきた。
 当社では、定期借家契約の際は、規定の期間の満了により終了し、契約の更新がない旨を、賃貸人による事前説明書の交付、当社による重要事項説明書への記載、及び定期借家契約書への記載をして、それぞれの文書を賃借人に説明している。
 しかし、賃貸人の中には、賃貸借契約書と宅建業者の重要事項説明書には、定期借家契約であることが明確に記載され、宅建業者から説明もあるので、期間満了によって契約期間が終了し、更新がないことは明白であり、わざわざ、賃貸人が同じ説明をする必要はないと拒否する賃貸人がいる。

質 問

1.  定期借家契約は、期間の満了により終了し、契約の更新がない契約であることを、賃貸人が賃借人に、契約書をもって説明するだけではいけないのか。
2.  定期借家契約を締結するときに、賃貸人が賃貸人による定期借家契約である旨の事前説明書を交付しなかった場合、定期借家契約はどのようになるのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 定期借家契約では、賃貸借契約書とは別に、独立した書面で定期借家契約であることを説明しなければいけない。
 質問2.について ― 定期借家契約としては、無効であり、普通賃貸借契約となり、賃貸人から契約解除するには賃貸人の正当事由が必要となる。
2.  理 由
⑵について
 定期借家契約制度は、平成12年3月1日に導入された、従来の賃貸借契約とは概念を異にした制度である。従来の普通賃貸借契約は、賃貸借の契約期間が定められ、期間満了となっても、賃借人が引き続き居住を希望すれば、賃貸人の更新拒絶があっても賃貸人に正当事由がない限り、更新が可能な契約である。賃貸人と賃借人の間で、更新の合意が調わなければ、法定更新となり、契約条件は従前のままで、期間の定めのない賃貸借契約となる(借地借家法第26条)。賃貸人が、更新を望まず、期間満了により賃借人との契約を終了するためには、賃貸人の正当事由が必要となり、賃借人への立退料を支払わなければならない可能性がある(同法第28条)。
 対して、定期借家契約(法文上は、「定期建物賃貸借」という。)は、定められた賃貸借期間の満了により、賃貸借契約が解除、終了する契約である。定期借家契約は、公正証書等の書面で契約することが必須であり、さらに、賃借人が十分理解するように、賃貸人は、契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、あらかじめ、その旨を記載した書面を交付して説明する必要がある(同法第38条)。交付と説明は、契約の前に賃貸人から賃借人に対して説明しなくてはならない。事前に賃貸人による交付・説明がないときは、定期借家契約としては無効で、締結した賃貸借契約は、契約書の名目を定期借家契約としたとしても、賃貸人からの契約解除には正当事由が必要な、普通賃貸借契約となり、更新が可能となる。
 定期借家である旨の事前説明書類は、賃借人が定期借家契約について十分に理解していたとしても、契約書とは別個独立した書類でなければならない。宅建業者である賃貸人が、契約書の原案を事前送付したことで、事前説明されたとして、定期借家契約の有効性が争われた裁判で、別個の書面の交付を要するか否かについても、契約の締結に至る経緯、契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当である(【参照判例①】参照)としている。事前説明文書の無かった公正証書で締結した定期借家契約で、公証人が契約内容を読み聞かせ、賃借人が理解していたとしても、事前説明文書の交付がなければ、定期借家契約は成立しないのである(【参照判例②】参照)。かつて、賃貸借契約が定期建物賃貸借契約であり、更新がないことを具体的に認識していた場合には、必ずしも事前説明書は必要ではないとの裁判例もあった(【参照判例③】参照)が、最高裁の判例(【参照判例①】参照)により、別個独立の書面が必要であることが明確になったと言える。
 なお、宅建業者は、定期建物賃貸借契約の媒介の際に、重要事項説明書に当該契約が、定期建物賃貸借である旨の内容を説明することを要する(宅地建物取引業法施行規則第16条の4の3-9号)。説明の相手方は同じであっても、説明する根拠や説明義務者が異なり、重要事項説明書で説明したとしても事前説明文書とは認められないので注意が必要である。
 事前説明文書は、「契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借が満了する」旨の記載された書面であればよく、法律で規定されたものはない。媒介業者の実務としては、事前説明書を賃貸人が交付・説明するのみではなく、法律上の規定はないが、重要事項説明と同様に、交付したことの証拠を残すことを心掛けたい。説明文書に、「借地借家法第38条第2項に基づく説明を受けました。」という趣旨の文言を入れた書面とし、賃借人の署名捺印をもらい、その原本を保管しておくことが望ましい(定期賃貸住宅契約についての説明 参照)。国土交通省のホームページに定期建物賃貸借契約に関する契約書等の雛形が示されているので、参照されたい。
 また、賃貸人は定期借家契約であることの事前説明の義務を負っているが、代理として媒介する宅建業者が代理人として説明することは可能である。その場合には、賃貸人から代理権を証する委任状を取得しておくことが望ましい。

参照条文

 借地借家法第26条(建物賃貸借契約の更新等)
 建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の1年前から6月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
   前項の通知をした場合であっても、建物の賃貸借の期間が満了した後建物の賃借人が使用を継続する場合において、建物の賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったときも、同項と同様とする。
   (略)
 同法第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
 建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
 同法第38条(定期建物賃貸借)
 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第29条第1項の規定を適用しない。
   前項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。
   建物の賃貸人が前項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。
  〜⑦ (略)
 宅地建物取引業法施行規則第16条の4の3
 法第35条第1項第14号イの国土交通省令・内閣府令及び同号 ロの国土交通省令で定める事項は、宅地の売買又は交換の契約にあつては第1号から第3号までに掲げるもの、建物の売買又は交換の契約にあつては第1号から第6号までに掲げるもの、宅地の貸借の契約にあつては第1号から第3号まで及び第8号から第13号までに掲げるもの、建物の貸借の契約にあつては第1号から第5号まで及び第7号から第12号までに掲げるものとする。
  〜⑧ (略)
   借地借家法(平成3年法律第90号)第2条第1号に規定する借地権で同法第22条の規定の適用を受けるものを設定しようとするとき、又は建物の賃貸借で同法第38条第1項若しくは高齢者区居住の安定確保に関する法律(平成13年法律第26号)第52条の規定の適用を受けるものをしようとするときは、その旨
  〜⑬ (略)
 宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方
 宅建業法第35条第1項第14号関係
9  定期借地権、定期建物賃貸借及び終身建物賃貸借について(規則第16条の4の3第9号関係)
 定期借地権を設定しようとするとき、定期建物賃貸借契約又は終身建物賃貸借契約をしようとするときは、その旨を説明することとする。
 なお、定期建物賃貸借に関する上記説明義務は、借地借家法第38条第2項に規定する賃貸人の説明義務とは別個のものである。また、宅地建物取引業者が賃貸人を代理して当該説明義務を行う行為は、宅地建物取引業法上の貸借の代理の一部に該当し、関連の規定が適用されることとなる。
 定期賃貸住宅契約についての説明(借地借家法第38条第2項関係)(国土交通省HP「定期賃貸住宅標準契約書について」より)

○年○月○日

定期賃貸住宅契約についての説明

貸 主(甲)住所

氏名 ○ ○ ○ ○  印

代理人 住所

氏名 ○ ○ ○ ○  印

 下記住宅について定期建物賃貸借契約を締結するに当たり、借地借家法第38条第2項に基づき、次のとおり説明します。

 下記住宅の賃貸借契約は、更新がなく、期間の満了により賃貸借は終了しますので、期間の満了の日の翌日を始期とする新たな賃貸借契約(再契約)を締結する場合を除き、期間の満了の日までに、下記住宅を明け渡さなければなりません。

(1)住 宅

名 称

 

所 在 地

 

住戸番号

 

(2)契約期間

始期

年   月   日から

年   月間

終期

年   月   日まで

上記住宅につきまして、借地借家法第38条第2項に基づく説明を受けました。

○年○月○日

借 主(乙)住所

氏名 ○ ○ ○ ○  印

参照判例①

 最高裁平成24年9月13日 民集66巻9号3263頁(要旨)
 期間の定めがある建物の賃貸借につき契約の更新がないこととする旨の定めは、公正証書による等書面によって契約をする場合に限りすることができ、そのような賃貸借をしようとするときは、賃貸人はあらかじめ、賃借人に対し、当該賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付しなければならず、賃貸人が当該説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効となる。
 法第38条第1項の規定に加えて同条第2項の規定が置かれた趣旨は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃借人になろうとする者に対し、定期建物賃貸借は契約の更新がなく期間の満了により終了することを理解させ当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず、説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるものと解される。
 以上のような法第38条の規定の構造及び趣旨に照らすと、同条第2項は、定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って、賃貸人において、契約書とは別個に、定期建物賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上、その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。そして、紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると、上記書面の交付を要するか否かについては、当該契約の締結に至る経緯、当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別の具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当である。
 したがって、法第38条第2項所定の書面は、賃借人が、当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。
 (中略)そうすると、本件定期借家条項は無効というべきであるから、本件賃貸借は、定期建物賃貸借に当たらず、約定期間の経過後、期間の定めがない賃貸借として更新されたことになる。

参照判例②

 最高裁平成22年7月16日 判タ1333号111頁(要旨)
 賃貸人は、本件賃貸借の締結に先立ち説明書面の交付があったことにつき主張立証をしていないに等しく、それにもかかわらず、単に、本件公正証書に上記事項があり、賃借人において本件公正証書の内容を承認していることのみから、法第38条第2項において賃貸借の締結に先立ち契約書とは別に交付されている説明書面の交付があったとした原審の認定は、経験則又は採証法則に反するものといわざるを得ない。

参照判例③

 東京地裁平成19年11月29日 判タ1275号206頁(要旨)
 定期建物賃貸借契約を締結するに当たり、契約書とは別個、独立の書面によりその趣旨の説明を行うことは、むろんより丁寧で望ましい取扱であるということはできるが、借地借家法第38条第2項の「書面」が、常に、契約書とは別個の独立の書面を要すると解すべきことについては、疑義のあるところである。
 (中略)借地借家法第38条第2項の「書面」は、契約書とは別個の独立の書面を要すると解したとしても、少なくとも、賃借人が、契約書において、当該賃貸借契約が定期建物賃貸借契約であり、更新がないことを具体的に認識していた場合には、この限りでないと解すべきである。

監修者のコメント

 定期建物賃貸借契約の制度は、平成11年12月15日に公布された「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」という法律の中に借地借家法を次のように改めるという内容で創設された。その立法の過程においては、まさに本相談ケースの賃貸人が言うように、賃貸借契約書に定期であることが明示され、しかも宅建業者が仲介に当たって重要事項説明として必ず定期である旨が説明されるのに、なぜ、わざわざ賃貸人の事前説明書の交付と説明が必要なのかという議論があった。しかし、回答掲記の最高裁判決が述べるように、賃借人が十分にそのことを認識し、後日の紛争を防止するために必要と判断されたためである。また、その背景には、更新が保障されない契約類型の創設については、反対論もかなり多く、その反対論の根拠の一つでもあった賃借人がうっかりして、十分に認識しないまま契約をしてしまう場合もある、という危惧を解消するためにも、必要であった。
 いずれにせよ、事前説明を拒否する賃貸人には、それをしなかったときには、とんでもない結果になってしまうことを説明し、理解させる必要がある。

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