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掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

1708-R-0177
建物賃貸借契約の賃借人が、中途解約予告後にした解約撤回の有効性

 賃貸管理をしている賃貸物件の賃借人から、2か月後に退去する旨の解約通知を受け取ったが、その通知から1か月後に、賃借人から解約通知にあった退去予定日から2か月後までの延長を申し入れてきた。賃貸人は、既に新賃借人との間で、賃貸借契約を締結してしまっている。こういった場合、賃借人は、解約通知の撤回をすることは可能か。

事実関係

 当社は、賃貸物件の媒介兼管理業者であるが、管理している賃貸マンションの賃借人から、賃貸借契約を解約し、2か月後に退去する旨の賃貸人宛の文書を受領し、賃貸人に通知した。賃借人の解約理由は、2か月後に転勤するということであった。賃貸借契約書では、賃借人からの中途解約は、2か月前の予告期間をもって、無条件で解約できる条項となっている。
 賃借人の解約申入れから1か月後、賃借人から転勤時期が変更となったので、予告した退去日から2か月間、引続き居住したいと言ってきた。
 賃貸人は、賃借人からの解約通知を受け、新賃借人の募集を開始し、既に、賃借人の退去後に新賃借人が入居する旨の賃貸借契約を締結している。
 このままでは、現在の賃借人と新賃借人との入居時期が重なってしまうため、当社は管理業者として、どちらを優先していいのか戸惑っている。

質 問

1.  建物賃貸借契約条項に基づく賃借人の中途解約予告(申入れ)を、賃借人は撤回することができるか。
2.  建物賃貸借契約の解約予告を撤回した賃借人が、当初の予告退去期日に退去せず、引き続き居住した場合、賃貸人は約定使用損害金や損害賠償を請求することができるか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 賃借人は自らした中途解約の意思表示を撤回することができない。
 質問2.について ― 賃貸人は賃借人に対し、予告退去期日以降の約定使用損害金及び損害賠償を請求することができる。
2.  理 由
について
 賃借人は、期間の定めのある賃貸借でも賃貸契約書に賃貸契約を中途解約することができる約定(期間内解約条項)があれば、無条件で解約を申入れでき、予告期間の満了と同時に賃貸借契約は終了する(民法第618条)。法定更新により期間の定めのないものとなった賃貸借も、予告期間3か月をもって賃貸借を終了することが可能である(同法第617条)。
 しかし、賃貸借の解約の意思表示は撤回することができず(同法第540条第2項)、賃貸人は賃借人のした予告期間の満了日をもって、賃借人に退去を請求することができる。
 賃貸借契約では、居住用、事業用を問わず、賃借人の都合によって解約予告期日の延長を希望し、退去日を巡って、賃貸人・賃借人間あるいは宅建業者も巻き込んだトラブルに発展することが、少なからずある。
 相談ケースのように賃借人の退去期日の延期や、事情により退去しないこととなったり、また事業用賃貸でも売上不振のテナントや店舗賃借人が、解約を申し入れたにもかかわらず、解約予告期間中に市況やその他の事情で売り上げが回復する等、退去事由がなくなってしまったために、引き続き借りたいと言い出したりなど、事情が変わることがある。
 媒介業者や賃貸管理業者は、解約を予告する賃借人に対し、解約の撤回はできないことを理解させておく必要があり、万が一安易な対応をしてしまったときは、業者が責任を負わなければならないこともあるので留意したい。
 なお、賃貸人が賃借人の解約予告の撤回を認め、当事者双方合意の上、賃借人の入居を継続することは可能である。その際は、賃貸人と賃借人の間で文書を取り交わしておくことが望ましい。
について
 上記のとおり、賃借人が意思表示した解約予告は有効であり、賃借人は解約の撤回ができない。賃借人が解約予告期間満了日後になっても、賃借物件を明け渡さずに引き続き占有していた場合は、不法占拠であり、賃貸契約書に、『契約が終了したにもかかわらず、物件の明渡しを遅延したときは明渡し完了の日まで賃料の倍額に相当する損害金を支払わなければならない』等、明渡遅延の使用損害金の定めがあるときは、その約定が適用される。判例では、「賃貸人に生ずる損害の補填あるいは明渡義務の履行の促進という観点に照らし不相当に高額であるということはできない」と賃料等の2倍の額の賠償額を認めている(【参照判例】参照)。
 また、賃貸人は、賃借人の解約予告を信頼して、新たな賃借人の入居募集を開始することは当たり前のことであるが、相談のように賃借人の明渡遅延で新賃借人との間で締結した賃貸契約がキャンセルになってしまった時の損害も請求することができると考える(民法第416条)。運よくキャンセルにならなかったとしても、新賃借人が、賃借人退去までの期間、仮住まいをしなければならなくなり、賃貸人がその費用を負担したときは、賃貸人は賃借人に費用請求することができるであろう。

参照条文

 民法第416条(損害賠償の範囲)
 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
 同法第540条(解除権の行使)
 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
 前項の意思表示は、撤回することができない。
 同法第617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
 土地の賃貸借 1年
 建物の賃貸借 3箇月
 (略)
 (略)
 同法第618条(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保)
 当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。

参照判例

 東京高裁平成25年3月28日判時2188号57頁(要旨)
 「本件倍額賠償予定条項が、専ら損害賠償の塡補としてのみ機能するものではなく、賃貸借契約終了後における賃貸物件の円滑な明渡しを促進することも意図したものと解されることからすれば、本件倍額賠償予定条項において、使用相当損害金の額を賃料等の2倍と定めることが不当であるとはいえない。」

監修者のコメント

 解除の意思表示は撤回することができないという民法540条第2項の趣旨は、一度「契約をやめます」と言った人間が、「やっぱり、やめるのはやめます」というのでは、相手方の地位が極めて不安定になってしまうからである。
 本ケースの回答に付け加えるべきことはないが、まだ新賃借人は入居していないのであるから、場合によっては2か月遅くなっても良いということもあるかもしれない。したがって、一応話をしてみて、旧賃借人から新賃借人に相応の金銭を渡して、旧賃借人の希望が叶えられるかどうか、打診してみるのも一つの方法である。

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