HOME > 不動産相談 > 売買 > 不動産売買の媒介業者が、取引の相手方に、誤った税法の特例を説明した場合、媒介業者はどのような責任が生じるのか

不動産相談

過去の事例

  • 賃貸
  • 売買

ここでは、当センターが行っている不動産相談の中で、消費者や不動産業者の方々に有益と思われる相談内容をQ&A形式のかたちにして掲載しています。
掲載されている回答は、あくまでも個別の相談内容に即したものであることをご了承のうえご参照ください。
掲載にあたっては、プライバシーの保護のため、相談者等の氏名・企業名はすべて匿名にしてあります。
また、参照条文は、事例掲載日現在の法令に依っています。

売買事例 1704-B-0229
不動産売買の媒介業者が、取引の相手方に、誤った税法の特例を説明した場合、媒介業者はどのような責任が生じるのか

 当社は、不動産売買の媒介業者である。居住用マンションの売買の媒介をしたが、買主は、住宅ローン控除を利用したいので、控除が適用になる物件の購入依頼を受けた。ローン控除が適用になる物件を紹介したところ、買主も紹介物件を気に入り、売買契約を締結した。しかし、当社従業者の認識不足により、当初想定していた満額の所得控除が受けられないことが判明した。当社は、税の専門家でもなく、税務の専門家に確認しなかった買主にも落ち度があると思うが、当社は、損害賠償責任を負わなければいけないか。

事実関係

 当社は、不動産売買の媒介業者である。この度、居住用マンションの売買の媒介を行った。買主は会社員であるが、物件を紹介する際、住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)が適用になる物件を希望していた。面積、築年数や耐震基準等の物件的要件、及び買主の年収等、人的要件も確認し、住宅ローン減税が適用できる物件を紹介した。買主は物件を気に入り、売買契約締結に至った。契約後、買主は、金融機関に住宅ローンを申し込み、融資の承諾を受けた。
 買主が住宅ローンを申し込んだ金融機関との間で、金銭消費貸借契約の手続きをしたところ、金融機関の職員と住宅ローン控除の話題になり、職員から、購入したマンションは物件的には所得控除の対象だが、受けられる減税額は当社の説明した額と異なると教えられた。
 当社で確認すると、売主が消費税課税事業者であるときの所得控除されるローン限度額は、個人間売買の場合には、消費税課税のない物件の年末ローン限度額が、課税物件に比べ、大幅に低く、買主に適用になる減税額は、当社が説明した金額とかけ離れていることが判明した(注)。当社営業担当者の説明不足であった。
 当社の業務上、買主及び売主から不動産取引にかかる税金についての質問を受けることがよくある。買主からは、住宅ローン減税や登録免許税、不動産取得税などであり、売主からは、譲渡所得税の質問が多い。また、最近は、相続税や贈与税についての質問も増えている。
(注) 一般住宅の場合、住宅ローン控除の年末ローン限度額は、課税消費税の税率が8%又は10%のときは、4000万円、それ以外のときは、2000万円(適用居住年は、平成26年4月~平成31年6月)。

質 問

1.  当社は、宅建業者であり、税務についての専門家ではないが、顧客に税金の説明を誤った場合、当社に責任が生じることがあるのか。
2.  当社の誤った説明で、顧客に損害を与えたときは、当社は損害の賠償責任を負うのか。

回 答

1.  結 論
 質問1.について ― 宅建業者は、不動産取引を行うに当たり、善良な管理者としての注意義務を負い、信義誠実を旨として業務遂行する義務がある。宅建業法の重要事項説明以外でも、誤った説明をしたときは、宅建業者に責任が及ぶ場合がある。
 質問2.について ― 宅建業者は、媒介契約上の注意義務違反による債務不履行または不法行為により、取引の相手方に損害を生じさせたときは、その損害を賠償しなければならない場合がある。
2.  理 由
⑵について
 宅建業者は、不動産取引にあたり、取引する不動産自体の調査・確認はもとより、権利関係の調査・確認(宅建業法第35条、同法第47条)、取引当事者の調査・確認(犯罪収益移転防止法を含む)等の様々な業務上の注意義務が課せられている。また、宅建業者は、取引関係者に対しては、信義誠実に業務遂行を行うことが求められている(民法第1条第2項、宅地建物取引業法第31条)。
 さらに、宅建士に対しては、消費者が安心して取引でき、紛争等を防止し、円滑な不動産取引の遂行を期待されている(宅地建物取引業法第15条)。そのためには、実務能力を磨くともに、不動産取引に関する必要知識を把握し、最新の知識を学ぶ努力が必要である(同法第15条の3)。
 不動産取引は財産の移転であり、相談ケースのような税金の問題は避けて通れず、取引当事者から常に質問される。当事者に予想外の税金が賦課されるのでは、不動産売却や購入に至らないことがあることも十分に考えられる。宅建業者やその従業者が、取引に関しての税法の説明を誤って説明し、相手方に損害が生じたときは、宅建業者の注意義務違反すなわち過失が認められたときは、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償の責任を負うことがある(民法第415条、同法709条)。
 裁判例でも、「宅建業に従事する者は、不動産自体に関する知識のみならず、その取引に必要な民法、税法その他の法律上の知識・経験を有するものとして仲介・あっせんの委託者は勿論これら宅建業者の従事者と直接売買・交換等の取引をする一般私人もこれを信頼し、これら社員の介入あるいは社員との直接取引に過誤のないことを期待するものであるとし、取引の相手方に取引上の過誤による不測の損害を生ぜしめないように配慮すべき業務上の一般的注意義務があり、注意義務の懈怠の結果これを信頼して取引を為した相手方に不測の損害を被らしめたときには、一般不法行為によってその賠償の責めを負うものと解するを相当とする」として宅建業者の責任を認めているものがある(【参照判例】参照)。
 宅建業者やその従業者が、取引の相手方から、取引に必要な法解釈や税法について、説明や見解を求められたときは、担当者自らが弁護士や税務署、税理士等に確認した上で答えることも必要であるが、特に税法に関しては毎年改正があり、宅建業者が精通することは難しく、宅建業者のトラブル及びリスク回避のためにも相談者が直接、専門家である税務署や税理士等に確認するように誘導すべきであろう。

参照条文

 民法第1条(基本原則)
 (略)
 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
 (略)
 同法第415条(債務不履行による損害賠償)
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
 同法第709条(不法行為による損害賠償)
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
 宅地建物取引業法第15条(宅地建物取引士の業務処理の原則)
 宅地建物取引士は、宅地建物取引業の業務に従事するときは、宅地又は建物の取引の専門家として、購入者等の利益の保護及び円滑な宅地又は建物の流通に資するよう、公正かつ誠実にこの法律に定める事務を行うとともに、宅地建物取引業に関連する業務に従事する者との連携に努めなければならない。
 同法第15条の3(知識及び能力の維持向上)
 宅地建物取引士は、宅地又は建物の取引に係る事務に必要な知識及び能力の維持向上に努めなければならない。
 同法第31条(宅地建物取引業者の業務処理の原則)
 宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない。
 (略)

参照判例

 東京地裁昭和49年12月6日 判タ322号190頁(要旨)
 およそ、不動産の売買・仲介・斡旋、宅地造成等を業とする会社の社員たるものは、不動産自体に関する知識のみならず、その取引に必要な民法、税法その他の法律上の知識・経験を有するものとして仲介・あっせんの委託者は勿論これら不動産業者の社員と直接売買・交換等の取引をする一般私人もこれを信頼し、これら社員の介入あるいは社員との直接取引に過誤のないことを期待するものであるから、この社会的要請に鑑み、これら不動産業者の社員は委託を受けた相手方に対しては委任ないし準委任を前提とする善良な管理者としての注意義務を負うことはもとより、直接これら社員と取引するに至った一般私人に対しても、信義誠実を旨とし、目的不動産の瑕疵、権利者の真偽については勿論租税の賦課につき格段の注意を払い、もって、取引の相手方に取引上の過誤による不測の損害を生ぜしめないように配慮すべき業務上の一般的注意義務があり、もしこの注意義務の懈怠の結果これを信頼して取引を為した相手方に不測の損害を被らしめたときには、一般不法行為によってその賠償の責めを負うものと解するを相当とする。
 (同様に、税法上の優遇が受けられないのに、宅建業者が誤って説明したため、売主に追加納税が生じ、宅建業者に損害賠償を認めた判例=大阪地裁平成10年11月26日 判タ1000号290頁)。

監修者のコメント

 媒介業者あるいは売主である宅建業者が、依頼者や買主に対し、税法上の取扱い、とくに優遇措置について誤った説明をしたため、依頼者等に不測の損害を被らせたという裁判は、しばしば見られる。このようなケースでは、多くのものが、回答にあるとおりの根拠で損害賠償責任が認められている。ただ、宅建業者の過失すなわち注意義務違反が責任の根拠であるから、それが肯定されるか否かは、具体的なケースごとに判断されなければならない。極端な例で言えば、全くの素人に対するのと公認会計士や税理士が相手方であるのとでは全く注意義務のレベルが異なる。後者の場合は、責任を負わないということは十分にあり得る。
 弁護士は、税の専門家ではないので、弁護士が税金のことについて質問を受けた場合、極めて基本的なことは別として、税理士に聴いてもらうよう回答することが多いが、宅建業者の場合も同じであり、慎重な対応を心掛けるべきである。

ページトップへ